インタビュー

「仮想通貨には世界にとってメリットがあると証明する必要がある」 〜ICO後は予定通りに進捗

BRD(旧名Bread)共同創業者兼CEO・Adam Traidman氏

 スマートフォン上のウォレットアプリ「BRD」(以前の名称はBread Wallet)を開発するBRDの共同創業者兼CEO、Adam Traidman氏の話を聞いた。BRDは2017年12月にICO(Initial Coin Offering)を実施、3200万ドル(約35億円相当、1ドル=110.17円で換算)を集めた。同社のICOでは、ICOコンサルティング事業を進める日本のAnyPayが協力した。

Adam Traidman氏(BRDの共同創業者兼CEO)

——BRDがICOを実施した目的を改めて教えて下さい。

Adam Traidman氏(以下、Adam氏):成長のためです。当社はすでにエクイティ(株主資本)による資金調達をしていましたが、仮想通貨分野のスピードは速い。競合も出てきました。プロダクトとサービスの成長のために資金が必要だったのです。

——現状は、ICO時に描いていたロードマップのどの段階にいますか?

Adam氏:まず、私たちはICOを実施する前からビットコインのウォレットを提供していました。70カ国、100万人の規模のユーザーがいます。

ロードマップについては、スケジュール通りに進捗しています。Bitcoin CashやEthereum、各種ERC20トークンのサポートも実現しました。BRDで仮想通貨を購入するトレーディング機能も実装しました。

BRDのホワイトペーパー(BRD-whitepaper-JA.pdf)より引用

——ICOで発行したトークン(仮想通貨の一種)の用途について、教えて下さい。

Adam氏:私たちがICOで発行したBread(BRD)トークンはユーティリティー・トークン(機能を利用する対価として利用するトークン。有価証券に相当するセキュリティー・トークンと区別して使う用語)です。よく、ICOの実施主体が「私たちが発行したものはユーティリティー・トークンである」と言う場合がよくあります。しかし、多くのICOトークンでは利用するべき機能がない場合が多く見受けられます。

他のICOプロジェクトは自分達のプロダクトではないウォレット、例えば「MyEtherWallet」(MEW)にトークンを保管する場合が多い(注:ICOで発行するトークンはEthereumのERC20トークンの形態で発行し、保管にはMEWを使う事例が多い)。これに対して、私たちICOではBRDからICOに参加し、購入したトークンもBRDのウォレットに戻る形です。

Bread(BRD)トークンの利用方法ですが、まずBRDのサービス内のリワード・プログラムに利用できます。これはマイレージのようなものです。加えて、トークン保有量によるインセンティブや、トークン保有者限定でアクセスできる機能も提供していきます。その1番目はディスカウントです。ビットコインや他のトークンを購入する手数料が、BRDトークンを使うことで割安になります。2番目は、保有量に応じた限定サービスです。例えば投資銀行は、資産保有量に応じて限定サービスを提供しています。それと同様に、10段階ほどのレベルを設定して、多くのBRDトークンを持つユーザー限定のサービスを追加していきます。具体的な制度は構築中です。

——仮想通貨ウォレットの将来像をどのように見ていますか。またウォレットとDEX(分散型仮想通貨取引所)との関連についてはいかがでしょうか。

Adam氏:私たちは、ユーザーに対してFinancial Freedom(資産管理の自由)を与えたいと考えています。デジタル・アセット(=仮想通貨)を管理する点では伝統的な銀行と似ていますが、私たちは分散型の銀行を目指しています。銀行は顧客から資金を預かり銀行そのもののビジネスを拡大します。私たちは銀行に資金を預け、預けた資産に応じて金融サービスを受けます。

一方、BRDはブラウザーのようなものです。ブラウザーはインターネット上のあちこちに分散した情報を閲覧します。BRDでは、資産はブロックチェーン上に保管されていて分散されています。それを参照する。BRDに付属するあらゆるサービスは、ゲートウェイとして利用するものです。

著者注:

BRDは、秘密鍵をユーザーが管理するタイプのスマートフォン上のウォレットアプリの一種である。仮想通貨を機能させているブロックチェーンに直接アクセスし、仮想通貨の送金に使ったり、入金を確認する目的に利用できる。

仮想通貨交換所やWebウォレットでは、顧客資産をいったん事業者が預かる形となり、事業者は資産管理の責任を負う。一方、BRDのようなタイプのスマートフォン上のウォレットアプリでは、資産管理の責任はブロックチェーンの秘密鍵を管理しているユーザー側にある。

DEXも分散型のサービスであり、BRDとの相性は良いと考えています。BRDのユーザーがそれぞれノードとなって資産を送金したりスワッピングしたりする。そのような将来を考えています。

——分散型の銀行とは、暗号通貨的な表現ですね。

Adam氏:BRDがやろうとしていることは、サトシ・ナカモトがホワイトペーパーに記したアイデアである、分散型でP2P(Peer to Peer)のネットワークを作ることです。私たちのサービス上にはユーザーの資産はいっさいありません。すべてはブロックチェーンにあります。このような、純粋に分散型(非中央集権型)のサービスはなかなかないと考えています。

——今、世界中で仮想通貨への規制が強化されています。どのように見ていますか?

Adam氏:BRDは各国の法律に準拠させます。ICOではCooley(米国の大手法律事務所)からアドバイスを受けました。法律に準拠させるためにお金を使っています。KYC(本人確認)、AML(マネーロンダリング対策)にも気を配っています。

BRDは分散型で、顧客の資産をいっさい預かりません。そのため柔軟にサービスを提供できます。顧客資産を預かる金融機関のための法律には抵触しないビジネスです。例えば、あなたがiPhoneのSafariブラウザーから銀行のサービスを利用する場合でも、Safariブラウザーを提供しているAppleには金融業の免許は必要ありません。それと同様です。

私たちは、仮想通貨の歴史の中で、「ユーティリティー・トークンの章」は短いのではないかと考えています。次にセキュリティー・トークン(有価証券型トークン)が伸びてくると考えています。

ユーティリティー・トークンでは配当を受け取れません。セキュリティー・トークンは資産と結びついており、収益の配当が可能です。また、有価証券には既存の法的フレームワークがあり、セキュリティー・トークンはそれを活用できます。ユーティリティー・トークンには法的フレームワークが確立していない国も多い。

仮想通貨を活用して資金調達する場合を考えてみましょう。適格投資家、ヘッジファンド、VC(ベンチャー・キャピタル)などは「法的リスクを負いたくない」と考えています。つまり、法的位置付けが明確なセキュリティー・トークンの方が魅力的なのです。実際Telegram(注:機関投資家から合計17億ドルを調達して大型ICOとして話題になった)やtZEROなどもセキュリティー・トークン型のICOです。このような例は今後伸びるでしょう。

つい先日の6月11日には、米ニューヨークで「Security Token Summit」というイベントが開かれています。このイベントでは大手投資銀行のMerrill Lynchがスポンサーとなっています。

BRDとしても、今後はBRDを通してセキュリティー・トークンに投資できる仕組みを考えています。

——その場合、規制はクリアできますか?

Adam氏:免許が必要になる部分は、免許を保有するパートナー企業と提携する形とします。例えばtZEROやGeminiです。BRD自身は法的リスクを負わない形でビジネスを展開します。

——多くのセキュリティー・トークン型のICOは適格投資家しか投資できません。大勢の個人投資家にとってはICOに投資できなくなる状況になります。個人投資家の保護という観点ではそれも仕方ないかもしれません。しかし1年ほど前には「ICOとはベンチャー投資の民主化である」といった話をよく聞きました。それは間違いだったのでしょうか?

Adam氏:適格投資家のみが参加できるICOは増えています。それは既存の金融フレームワークに当てはめているからです。これが現状です。

今後は変わってくるでしょう。各国が仮想通貨により適した形で資金調達やサービスを展開できる法的フレームワークができてくるでしょう。しかし、それには時間がかかります。まず、仮想通貨の地位を上げ、世界にとって仮想通貨にはメリットがあるものだと証明する必要があります。その先に法整備が進むでしょう。

——最近、米SEC(証券取引委員会)がEther(Ethereumの仮想通貨)は証券ではないと判断を下しました。どのように受け止めていますか。

Adam氏:仮想通貨全体にとって非常に意味があるニュースです。もし、Etherが有価証券だと判断された場合、発行済みのEtherはどうなってしまうのか。SECは投資家保護を優先しました(注:SECの判断ではEtherは十分に分散化されており現状では証券にあたらないとした)。Etherは大きくなりすぎ否定できない状況にあります。

——BRDは日本でもビジネスを展開しています。今の日本の仮想通貨の状況へのご意見を聞かせて下さい。

Adam氏:日本が仮想通貨に関する規制法(改正資金決済法)を制定し、一方他国はまだ規制を作っていません。これはポジティブなことです。何が良くて何が悪いか、それが明確になる。そういう意味で、法的フレームワークがあることは良い材料です。

——ありがとうございました。

取材にご協力いただいた方々。写真左から赤池 知隼氏(AnyPay株式会社の事業本部・ICOコンサルティング事業部・プロジェクトマネージャー)、Adam Traidman氏(BRDの共同創業者兼CEO)、Matt Watkinson氏(BRDのIR担当ディレクター)

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。