インタビュー

ブロックチェーン活用ゲーム「DIG STAR」運営会社CEOに聞く仮想通貨と融合するゲームの未来

「ゲームは面白くなければならない」メタップスプラスCEOのキム・スンヨン氏にインタビュー

Metaps Plus Inc.CEOのキム・スンヨン氏

 株式会社メタップスの連結子会社で韓国・ソウルに本社を置くMetaps Plus Inc.(以下、メタップスプラス)は11月26日、ブロックチェーン技術を活用したモバイルゲーム「DIG STAR」をリリースした。「DIG STAR」は、宇宙旅行しながらクリーチャーを収集したり、自分の惑星をカスタマイズすることができるカジュアルゲーム。将来的には、段階を踏みながらクリーチャー同士を融合・進化させることができる機能や、ブロックチェーン技術によりユーザー間でアイテムの売買が可能になるマーケットプレイスなど、さらに拡張されていく計画を持つゲームであり、最終的には仮想通貨のマイニングや取引(送受信)までゲーム上でできる展開も視野に入れて開発中であるという。事前登録キャンペーンでは登録者が20万人を超えるなど、すでに話題のブロックチェーンゲームとして注目を集めている。今回は、ゲームを開発するメタップスプラスCEOのキム・スンヨン氏(Kim Seungyeon)に「DIG STAR」の将来的展開を含め、ブロックチェーンゲームの未来について伺った。

「DIG STAR」のイメージ画像(プレスリリースより引用)

 2009年創立のメタップスプラスは、実はゲーム開発が主体の会社ではない。韓国では仮想通貨交換所「upXide」の運営やグローバルICOのコンサルティングなども行い、また、アプリマーケティングプラットフォームやモバイル電子マネープラットフォームなどを提供するモバイルフィンテック企業として知られる会社だ。そんなメタップスプラスが、なぜゲームを開発することになったのか、また今後どのような展開を考えているのかなど、活用するブロックチェーン技術の話も含めて伺いたいと思う。なお、「DIG STAR」のゲーム内容については「メタップスのブロックチェーン活用ゲーム『DIG STAR』が事前登録開始2日で12万人突破」の記事で紹介しているので併せて一読いただきたい。

ブロックチェーンを応用したユースケースを作る

キム氏(写真:右)と、通訳を担当してくれたメタップスリンクの高銀培氏(写真:左)

 キム氏は、まずブロックチェーン技術を使用するにあたり、市場におけるブロックチェーン技術の応用には配慮すべき要素が2つあるということから話し出した。1点目は、だいたいのプラットフォームにおいてブロックチェーン技術は処理速度が遅いという問題が存在するということ。またもう1点は、BitcoinやEthereumなど仮想通貨が使用している代表的なブロックチェーン技術の登場で、ブロックチェーンは素晴らしい、革新的である、世の中を変えるだろうという評価が高まる一方で、実際に使われている応用例はそれほど多くはない現実があるという。

 メタップスグループは、そこでユースケースを作ることに集中していると強調する。我々の会社は元々モバイルゲーム向けにプラットフォームを提供しているので、今回は、それをベースにブロックチェーンの技術を応用しようと考えたという。それが、ゲームを作るきっかけであるとのこと。プラットフォームを提供するにあたり、そのユースケースとして他の会社に対してお手本になるようなゲームをまずは開発することにしたそうだ。

ゲームは面白くなければならない

 11月26日リリースの「DIG STAR」は、スマートフォンアプリとしてAndroidのGoogle PlayとiOSのApp Storeにて提供する。しかし、キム氏は今回のリリースは、仮想通貨に関連する機能は入っていないことを断言する。ゲームは、ブロックチェーンで行われる採掘イメージを体験できるようには作られているが、あえて仮想通貨に関するものは入れていないという。キム氏は、モバイルゲームで直接仮想通貨を使うには、まだまだ敷居が高い話だと思っていると話し続ける。しかしそれを、ゲームを通してこれからしっかりと作っていくとも宣言をする。

 キム氏はここで、実際にゲームを見せたいと、リリース前の「DIG STAR」を披露してくれた。

「DIG STAR」の実際の画面

ゲームは誰でも気軽に遊べるカジュアルゲーム

 「DIG STAR」では、惑星上で様々なものを採掘していくという。採掘で手に入れた資源で、クリーチャーなどを手に入れたり、(ゲーム内の)通貨に代えるということができるそうだ。惑星には、家を建てることもできるなど、ユーザーの思い通りにカスタマイズができ、他のプレイヤーと差別化を図るような戦略的要素も持っている。ロケットを使って、他の惑星に行くことができることもキム氏は実演してくれた。「DIG STAR」は154か国で配信する予定だが、どの国から見ても宇宙は1つであるという考えが、世界観のベースになっているそうだ。

 「DIG STAR」は、Ethereumのブロックチェーン技術をベースにした仮想通貨の機能が追加できるように拡張性を持たせ開発をしているが、まずはゲームの機能をしっかりと作り込む方針で開発をしてきたとのこと。まだまだ我々から見ても、モバイルゲームの世界とBitcoinやEthereumなどを扱う仮想通貨交換所の世界は、かなりのギャップがあると思っているので、ゲームを作りながら、ユーザーからのフィードバックを活かし、そのギャップをトライアンドエラーで埋めていきたいと考えている段階であるという。

 また、その次のステップとしてキム氏は、アイテムやキャラクターなどデジタルアセットを収集、売買ができるデジタルコレクティブな世界を準備しているとのこと。それには、EthereumのERC721を使っているという。ちなみにERCとは、Ethereum Request for Commentの略で、Ethereumベースで発行できるトークンの仕様規格であり、ERCは技術仕様の提案書であるとのこと。その数字は各規格を判断する識別子のようなもので、ERC721は発行されるトークンがそれぞれ固有の性質や希少性を持つことが可能で(Non-Fungible Token)、複製ができないという特徴を持つスマートコントラクト規格であり、固有のデジタルアセットの取引が可能になるという。

 このような世界を構築できるのが、ブロックチェーンの革新的な部分だとキム氏は語る。手に入れにくいものを手に入れたい、他の人が持っていないものを持ちたい欲求は、昔から存在するもので、そういう世界を作っていきたいという。この仕組みについては、近い将来、日本のアニメキャラクターの世界などにも組み込まれていくのではないかと予測しているとのこと。

 そんな世界が作れるプラットフォームを我々は提供していきたいというキム氏に、それはアニメキャラクターの絵をデジタルアセットとして提供するようなイメージかと訪ねると、このテクノロジーのポイントは、絵だけではなく、デジタルデータであればアニメに関係するものすべてをデジタルアセットとして扱え、取引することができる点にあるのだという返答をいただいた。

 現在の「DIG STAR」の惑星における採掘は、仮想通貨のマイニングをイメージしたものであるが、実際にマイニングを行っているものではないという。しかし、この年末から来年にかけて、仮想通貨と連携をさせていく構想があり、仮想通貨交換所(取引所)との連携についても準備中であるとのこと。取引所との連携では、キャラクター等の販売も予定していることも伺うことができた。

 その世界観は、アメリカ映画の「アベンジャーズ」のようにいろいろなキャラクターが一堂に会するようなイメージを持つという。ここで登場したゲームのキャラクターが別のプラットフォームのゲームにも登場するような世界を考えているという。また、今まではゲームのキャラクターはゲームを作った会社に帰属するものだったが(権利的に)、キャラクターはそこから放たれてユーザーのキャラクターはユーザーに帰属するものというのが、今回のゲームのポイントになるという。これらのキャラクターは、ユーザーがお金と時間をかけて作り上げたものなので、キャラクターがユーザーに帰属するというのは当たり前の考え方だとしているとのこと。この問題は技術的にもまた法律的にデリケートな問題を抱えているので、これらはパートナー企業と相談をしながら段階を踏みながら進んでいく予定ではあるがと付け足した。

 このようにやりたいことと技術的なことや法的なことの間にはまだギャップがあるので、まずは仮想通貨の機能などは、最初は抜きでゲームの開発を進めたのだという。

ブロックチェーンを応用するポイントは検討中

 ブロックチェーンの技術を応用するポイントについては、現在、いろいろと検討中だそうだ。そのうちの1つを前もって話すと、ユーザーがもしゲーム内で仮想通貨を使うとしたら、仮想通貨の送受金が簡単にできるようにしなければならないと考えるとキム氏は話す。現時点でゲーム中に仮想通貨の送受金を考えると、既存のウォレットアプリなどを併用して使うしかなく、そうするとゲームとしてもUXが悪くなるのが明確であるという。これを解決するために、ゲーム内で簡単に仮想通貨が取り扱える仕組みを作る必要があると考えているとのこと。それらに対して我々はERC725のKYC(本人確認)を利用して認証をしようと検討中だとキム氏はいう。国ごとにKYCとAML(マネーロンダリング対策)が違うので、ERC725のAPIと連動させて、ユーザーが簡単に使えるようにする方法を探っているとのこと。ちなみにERC725は、まだEthereumのブロックチェーンに実装される前段階の規格であるが、これが実現されるとKYCに関する課題が飛躍的に改善されるだろうといわれている技術だ。

 「DIG STAR」のリリースでは、将来「クリーチャーの融合システム」や「デジタルアイテムのマーケットプレイス」などの機能の追加についても計画にあったと思うがという問いには、そちらは12月公開を目指し、鋭意開発中であるという回答をいただいた。

「DIG STAR」をリリースする思いを聞く

 キム氏は、我々の戦略と他社の違いを話すと、他社はまずはプラットフォームを開発して市場を作り出し、その市場に新たなユーザーが来るのを待つというのが一般的な戦略だと思うが、我々はプラットフォームだけじゃなくてユースケースを同時に作って、今後その市場に入ってくれる方々に「こんなふうに作れば収益化できる」というサンプルを提供し、その市場に参入しやすいように誘導するという戦略になるという。

 なぜならば先ほども話したが、モバイルゲームと仮想通貨の世界にはギャップがあり、またユーザーサイドを見てもモバイルゲームをプレイしているユーザーと仮想通貨の取引を行っているユーザーの間にもギャップもあり、この間をつなげる橋が必要であると考えているとのこと。ここが我々の役割であって、チャンスがあると思っているというのが印象的だった。ちなみにここでのユースケースというのは、ゲームユーザーに向けてではなく、モバイルゲームを開発しているメーカー、あるいは仮想通貨を扱っている開発者に向けたユースケースであるとのこと。

 しかしながら、単なるデモンストレーションのようなユースケースではなく、しっかりとしたお手本となる作品作りをしている様子が伺えるのが好印象だ。キム氏は、「DIG STAR」は根本的にゲームなので、まずは面白くて興味が持てるゲームを作ることに専念をしているという。ゲームがつまらなければ、仮想通貨がアイテムとして付加されても面白くないと思うので、そこをまずしっかりとさせたものをリリースした上で、あとから仮想通貨に関する機能を追加していきたいと述べる。

 元々我々はゲーム開発会社ではないので、それに関してはいろいろチャレンジをしているという。ではなぜゲームの開発に着手をしたのか。キム氏は、ただチャンスを待つだけのことはしたくなかったからだという。元々パートナーの企業も仮想通貨ベースのゲームには特に興味を示さなかったという。プラットフォームを作れる会社はゲームを作る能力がなくて、またゲームを作る会社は仮想通貨周りのプラットフォームを作る能力がなく、我々はその真ん中で、どちらにも手を出せる会社だったというのが結論だという。

 インターネットの業界では、1つのプロジェクトがうまくいったらそれに集中するのが成功の道だったが、ブロックチェーンの環境では技術一つ一つの賞味期限が短いので、さまざまなものをうまく活用できることが鍵になると思うと、キム氏。我々の作り出したユースケースが何よりもうまくできたものになると思ってはいないが、我々が作ったものを見て他の会社がさらにいいものを作ってくれれば、それが我々のプラットフォームの上で共存できるものになると思っているとのこと。

 我々は既存のゲーム会社の売上を低下させるような意識はまったくなく、我々のプラットフォームは、逆に新しい収入源となるような一緒にゲームを作っていける環境を提供できるものと思っているという。

 このプラットフォームの名前は、ITEMのTEMとEXCHANGEのEXを取って「TEMX(テムエックス)」というということも明かす、キム氏。「TEMX」は、プラットフォーム全体の拡張も「DIG STAR」の拡張とともに考えているという。ブロックチェーンゲームは作れないが、すでにIP(知的財産権)を持っている会社は「DIG STAR」上に自社のIPによる惑星を作り出したりすることはすでに簡単にできるようになっているという。たとえばアニメのキャラクターの権利を持っている会社などが、そのキャラクターの惑星を作るといったことがすぐにできるようになるそうだ。そのようなプレイヤーもブロックチェーンゲームの分野に進出できるような役割も担っているとのこと。

「DIG STAR」の世界観は韓国のことわざがきっかけ

ゲームの世界観を語るキム氏

 ゲームの世界観についてキム氏に尋ねると、その発想は、韓国の古い言葉で「土を掘ってもお金は出ない」という言葉がきっかけだという。その言葉は、何もしなければ得るものはないという意味だというが、我々はそれを逆手にとって土を掘ったらお金が出るようなものを作ろうという発想で世界観を考えたという。また、採掘がブロックチェーンや仮想通貨のマイニングという概念ともつながっているという。最初は土を掘って何かが出てくるという発想だったが、さまざまな文化圏でアピールできるようなものを考えると、最初にお伝えしたようにどの国から見ても宇宙は1つであるということにつながり、ならば惑星の土を掘ろうという考えに至ったという。

 そこから、自分だけの惑星をデザインして他の人に自慢するとか、あるいは模範になるような惑星があればそれをまねするといったことができる世界を作ろうと思ったのだという。ゲームの面白さの追求については、最初のリリース段階では、惑星で採掘をして、ペットを得て、世界を融合するところをゲームの面白みとして想定しているとのこと。

 事前登録が20万人に到達したが手応えとしてはどうかという問いに、キム氏はそこから実際にゲームをプレイしてくれるのは15%から20%だろうと想定しているとのこと。それよりも大事なのはDAU(Daily Active User)であり、またどれくらいの人が継続して遊んでくれるかを注視していきたいという。目の前の数字やゲームの売上よりも、まずはこのゲームがユースケースとなり、他のパートナー会社が加入してきたときに、どのようなことができるのかを一緒に考えていくことが大事と考えているそうだ。

 ゲームでは、どんなことを具体的にやってみたいかという問いには、やはりゲームアイテムのマーケットプレイスがポイントだという。そこでさまざまなデジタルアセットを売買できるようにしていきたいとのこと。またそのようなことを簡単、かつ素早く行えるよう、1人でも多くの人の注目を集めるようなものを目指したいとのこと。

 さらにその先の将来的な話をすると、あるユーザーが現物を持ってきたときに、これをデジタルアセットで買えるようなこともしたいという。たとえば、すごいレアなものが自宅の部屋に置いてあるとして、これを自慢するためにわざわざ持ち歩くことはできない、そもそも本当にそれがその部屋にあるのかを証明する方法がないが、これをブロックチェーンで登録することができれば存在の証明も、また譲渡も簡単にできるようになるという。こういうことも将来はできるのではないかと想像しているとのこと。

 最後にキム氏に、ブロックチェーン技術全体に対する期待について伺うと、キム氏はブロックチェーンの最も魅力的に感じる部分は、まだ事実としては存在をしていないのに、多くの人がブロックチェーンで世界を変えられると信じている所だという。現状の技術では、実際にブロックチェーンで変えられることはかなり限られていると思うが、多くの人が信じていれば、いつか技術がそれを成せるようになって、本当の革新が起こるものだと思うとのこと。それを信じて、ブロックチェーンの将来をしっかりと築き上げていきたいと語った。キム氏の言葉からは、終始「DIG STAR」に対する熱い思いを垣間見ることができた。

高橋ピョン太