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Crypto GarageがLiquidサイドチェーン上で同時決済を実現、その意味は

仮想通貨規制が追いつかない新領域に挑戦

 Crypto Garageは、政府が進める規制サンドボックス制度を活用し、サイドチェーン上で異なる種類の仮想通貨どうしを同時に交換する技術(アトミックスワップ)の実証実験を開始する(関連記事)。この実証実験について、現時点で分かっている内容をお伝えする。(1)実証実験の内容、(2)どのような課題を解こうとしているのか、(3)サンドボックス制度を活用する意味、この3つの側面から見ていく。

 Crypto Garageは、デジタルガレージが60%、東京短資が40%を出資して2018年9月に設立した企業。デジタルガレージは2016年にBlockstream社に出資し、サイドチェーン技術の開発や応用の取り組みを進めていた。また東京短資は銀行間取引市場・オープン市場で仲介・媒介業務に取り組む企業である。

トラストレス、ノンカストディの仮想通貨交換を実現

 今回の実証実験の内容を一言でいうと、ブロックチェーンの最先端技術といえる「サイドチェーン上での異種仮想通貨のアトミックスワップ」を仮想通貨交換業者どうしの取引市場に適用するものだ。

 サイドチェーンとはブロックチェーンの「支流」となる技術全般を指す言葉として使われている。今回用いるサイドチェーンは、カナダBlockstream社が2018年9月27日にローンチした「Liquid Network」である。Bitcoinの数々の特徴を引き継ぎながら、プライベート環境を前提としてより高速かつ機能を追加した新たなブロックチェーンである。プライベート環境で、トラストレス(特定の組織への信頼を前提としない)かつ検証可能なトランザクションを単一障害点なしに実行できる特色がある。またBitcoinと2-wayペグしたトークン(L-BTC)を発行して利用することができる。

 Bitcoinのメインチェーンでの資産移転(送金)には6承認の場合で約1時間程度の時間がかかる。一方、Liquid Networkは「2分」で価値移転が完了するとしている。また秘匿トランザクションを用いることができ、他の事業者に金額や資産タイプを知られずに送金を実行できる。

 今回の実証実験では、Liquid Network上で、ビットコインに裏付けされたトークンL-BTCと交換可能な円建てトークン(JPY-Token)を発行できるサービスを提供する。デジタルガレージによれば、この円建てトークンJPY-Tokenは円建て資産の裏付けにより価格を安定させるもので、法定通貨担保型ステーブルコインと位置づけられる。

 アトミックスワップによりLiquid Network上のL-BTCとJPY-Tokenをリアルタイムで同時決済可能とする。サイドチェーン上のアトミックスワップを使うことにより、信用リスク(カウンターパーティーリスク)を排除しつつ、迅速、安全、秘匿性が高い取引を実現する。AML(マネーロンダリング対策)機能として不正取引の捕捉や規制当局が必要に応じて取引内容を検証できる仕組みも提供する。

 Crypto Garageは、Liquid Networkの参加者によるアプリケーション開発の促進を目的とするプロダクトSETTLENET(セトルネット)を開発中である。SETTLENETとはLiquid上のアプリケーション群である。その最初のアプリケーションとして、2019年春にLiquid Network上に任意のアセットトークンを発行できる「SETTLENET Issuing Assets」のリリースを予定している。

 Liquid Networkには、日本の仮想通貨取引所としてBitbank、BTCBOX、Zaif(現在の運営はフィスコ仮想通貨取引所)が参加すると公表されている。今回のCrypto Garageの実証実験に参加する仮想通貨交換業者の会社名は公表していないが、これらの企業が参加している可能性はあるだろう。

新技術が解決する課題とは

 Crypto Garageの説明によれば、今回の実証実験で実施する「サイドチェーン上のL-BTCとJPY-Tokenのアトミックスワップ」は、次のような仮想通貨交換業の事業者間の取引市場の課題を解決する。

(1)交換業者のカバーマーケットが確立していないため、流動性が乏しく価格が不安定になる状況が発生しやすい。

(2)共通の決済基盤、取引基盤がないことから、ある事業者が別の事業者から流動性を獲得する場合に大きな信用リスクを取る必要がある。また参加者間で取引を秘匿しにくく、当局が事業者間の大口取引を捕捉しづらい。

(3)一般投資家を対象とした仮想通貨交換業者は、主に秘密鍵を交換業者が預かる形を取っている。これはセキュリティ上のリスク(盗難のリスク)が高くなる。

 課題を要約すると、「仮想通貨交換業の事業者間の取引市場」は今までになかった。このような取引市場を従来型技術で作ろうとすれば、流動性を確保するため仮想通貨および法定通貨による預かり金を用意し、預かり金を守るための堅牢で信頼できるシステムを構築する必要があった。初期コストは非常に高くなる。また参加する仮想通貨交換業者にとっても利用コストが高くつく形となる。

 一方、今回のCrypto Garageの実証実験では「特定の事業者への信頼を前提としない(=トラストレスな)サイドチェーン上のアトミックスワップ」という新技術を用いることにより、巨額の預かり金や堅牢な新規システム開発というハードル抜きに取引市場を実現することができる。サイドチェーン上のアトミックスワップではカストディ(資金の預かり)が発生しないので、従来の仮想通貨交換所で何回も発生して問題となった「資金を預かるウォレットからの巨額の仮想通貨盗難」は、少なくともLiquid Network上では発生しないはずである。

 今回の実証実験により「信用リスクをトラストレスな技術で排除する」取り組みの実績が出てきたなら、今後の金融システムの作り方が変わってくる可能性もある。それだけ意義が大きな取り組みといえるだろう。

サンドボックス制度適用の意味

 サンドボックス制度は「卓越した新技術や新ビジネスモデルを社会実装」することを目的とする。法規制のグレーゾーンで展開する新ビジネスの実証実験を、一種の「お墨付き」付きで実施できる点にメリットがあるといえる。

 今回の実証実験について見ると、Crypto Garageは現時点では仮想通貨交換業の登録業者ではないが、この実証実験では仮想通貨の交換(L-BTCとJPY-Tokenのアトミックスワップ)を実施する形となる。政府発表の資料「認定新技術等実証計画の内容の公表」によれば、今回の実証実験が「関係規定に違反しない」理由は次のようになる。

(1)実証実験の参加者を3〜5社の登録済み仮想通貨交換業者に限定する
(2)取引高の上限など制限を設ける
(3)以上の制限により市場に与える影響は軽微
(4)営利目的ではない
(5)1年を期限とする実証実験である

 これらの理由があることから、この実証実験は仮想通貨の交換を「業として」行うことには該当しないと結論付けている。

 この説明は、考えさせられる要素を含んでいる。金融庁が2018年12月21日に公表した「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書によれば、「仮想通貨カストディ業務」に対する規制を強化する方向性が示されているが、今回のように「サイドチェーン上のアトミックスワップ」というカストディを伴わない新技術の場合にはどのような規制が適用されるのだろうか。今回の実証実験の成果が今後の規制の方向性に影響を与える可能性はあるかもしれない。

 今回の実証実験は、規制が追いついていない領域の新技術の適用のためにサンドボックス制度を活用した形となる。この点でも興味深い取り組みといえるだろう。