イベントレポート
NEMをお題に作り手が集まった「ネムフェス」を楽しんできた
NEM CREATORS FESTIVAL
2018年5月29日 19:27
NEMのお祭りに行ってきた。仮想通貨(暗号通貨)は使ってみることで見方が変わる。それを自分の肌感覚で体験することができた。
今回の記事は、5月19日に都内で開催した仮想通貨NEMをテーマとしたイベント「NEM CREATORS FESTIVAL」(以下、ネムフェス)のレポートである。運営主体は開発者らの勉強会コミュニティー「NEMDev.tokyo」。つまり有志による手作りのイベントだ。そこで参加者としてまず楽しみ、その様子を報告するスタイルとさせてもらった。通常のイベントレポートと多少、ノリが異なる部分もあるかもしれないが、そこはご容赦願いたい。
まずイベントの主な内容は次のようになる。
- NEMを使った新サービスのコンテスト
- NEM(トークン名称はXEM)決済を受け付けるフリーマーケット
- 講演やクイズ大会
こうした各要素が入り交じった「NEMのお祭り」だった。公式ホームページでは「NEMを『触って・使って・楽しむ』ことを目的としたNEMのお祭りです」と説明している。
イベント規模は参加者、スタッフ、出展者を含めて約220名。多すぎず少なすぎずといった印象だ。会場はDMMグループ本社のミーティング用スペースで、地上24階からの眺めとジャングルのような緑のデコレーションが印象的だった。
会場には長机が並び、同人誌即売会にも似た雰囲気。大型モニタースクリーンの前には肘掛け付きの椅子が並ぶ。休憩コーナーもあり、お菓子や軽食も振る舞われた。全体に「いい感じ」に過ごせるように配慮されている。
何より印象的だったのは、イベントの雰囲気が和気あいあいとしていたことだ。赤ん坊や幼児連れの参加者もいて「なんとなく安全な感じ」がする空間となっていた。
仮想通貨といえば、世間では投機対象とのイメージがまだ強いかもしれない。この2018年1月に起きたコインチェックからのNEM大量盗難事件も記憶は新しく、NEMに対して怪しいイメージを持っている人もいるかもしれない。だが、今回のイベントは「NEMのロゴがかわいい」「NEM決済は楽しい」「NEMと組み合わせたWebサービスを作ってみたい」、そんな思いを持った人々が集まったイベントとして成立していたと感じた。
イベント専用「FESTCOIN」を用意
イベントの受付の後でまず案内されたのは「FESTCOIN」、そしてイベント専用Webウォレットだ。
FESTCOINとは、NEMのトークン発行機能「モザイク」で作られたイベント限定のコインで、参加者には10festを配布した。このコインを使って飲み物や公式グッズの購入、それにクリエイターズ投票に使うことができる。特筆すべきは、このFESTCOINを扱うためのWebウォレットを、このイベントのために開発して用意したことだ。イベント限定コインにイベント限定ウォレット──これは気合いが入っていると感じた。NEMの作りがWeb開発者フレンドリー(Web開発者にとってAPIが使いやすい)であることの反映と見ることもできるだろう。
NEMを活用したプロダクトが続々登場
印象的だったのは、NEMという「お題」を使ったプロダクト(Webサービス、スマートフォンアプリなど)が多数出展されていたことだ。ネムフェスでは新サービスのコンテストを行い「クリエイター表彰」を行った。その受賞作品から紹介しよう。
1位は「RaccoonWallet」(※1)。このイベントを一つのターゲットに開発してきたスマートフォン上のNEM専用ウォレットだ。UI/UXにこだわり操作性を追求したことが特色で、店舗運営者向けの機能も盛り込んだ意欲作だった。協賛企業COMPによる「COMP賞」も合わせて受賞した。
2位は「memQ」。Webアプリケーションとして実装したクイズアプリで、正解するとXEMがもらえるというもの。
3位は「PoliPoli」。政治&トークンエコノミーのスタートアップ。政党と、政治への意見を発言したい市民の両方をターゲットとし、良い情報を発信するインセンティブとしてトークンを活用する構想。なお「PoliPoli」はこのイベント後の週明け5月21日には資金調達を発表している(日本経済新聞によれば1000万円弱の規模)。
4位は「Tipnem Faucet」。Twitterで「@tipnem_faucet」に向かって「合言葉」をつぶやくと、投げ銭サービス「tipnem」を通して少額のXEMがもらえる場合もあれば、もらえない場合もあるという内容だ。手軽にXEMを手に入れて遊んでもらう趣旨のサービスだ。
5位は「nempass」。これはイベントチケットをNEMモザイクを使って実現するというアイディアである。チケットの効率的かつ不正がない流通を促進する狙いだ。
このほか、海外で人気急上昇中という日本茶の偽造防止にNEMモザイクを使う「Teaguru」、NEMモザイクでカードを交換できるゲーム「マスカレードAI」、NEM決済の結果を音声で教えてくれたりする一種のスマートスピーカー「ネム坊Mk-II」、ゲームの“ガチャ”結果をブロックチェーンで証明する「nem FIGHT」、NEM決済を取り入れたオンラインフリーマーケット「nemche」などのサービスがコンテストで登場した。
さらに会場を見渡すと、「次世代NEMの機能カタパルト(※2)対応ウォレットのモック」(作者は文書が改ざんされていないことを手軽に証明できるサービス「オープンアポスティーユ」の開発者であるDaoka氏)、「ECサイト構築ソフトEC-CUBE用XEM決済プラグイン」、オフィスグリコをヒントに「置き菓子」をNEM決済で購入するアプリ「Office NEM」、「電子ペーパーとワイヤレス給電を組み合わせた電子工作による『絵皿』と『仮想通貨価格表』」など特徴ある作品が並んだ。
会場内の大型モニターを囲むスペースでは、会場を提供したDMM.comスマートコントラクト事業部による事業内容に関するプレゼンテーション、今回のイベントの主催者の一人「ぃぬx」氏(@koma2hiroki)によるNEM初心者講座、Daoka氏によるNEMの次世代コア技術「カタパルト」の講座、@nemicon 氏による名古屋で開催したイベント「NEM DAY名古屋」報告といった講演が行われた。
記念グッズ、手芸、食品と賑やかな物販コーナー
ネムフェスにはNEM決済を受け付けるフリーマーケットもある。NEMロゴをあしらったグッズのほか、手芸作品などが並んだ。以下、イベント当日に筆者が購入したものを並べてみる(※3)。「砂絵屋ねねね」はNEMロゴをモチーフに入れたオリジナルの砂絵作品を展示していて、その1点を購入した。
「ネムフェス公式販売店」では1XEMと破格の値段でNEMのロゴをあしらったアクセサリを販売していたので購入。NEMロゴを扱ったメダル「NEMリアルコイン」も入手した。「珈琲ねむりや」ではケニアレッドマウンテンのコーヒー豆を購入。NEM決済できる雑貨店「クリプトマルシェ」では福岡県飯塚市の物産「あまおうジャム」。「ねむぐま屋」ではNEMロゴをモチーフにしたアクセサリ(これは購入したが、我が家の子どもが気に入って取られてしまった)。それに最近NEM決済の受付を開始した飲食店チェーン「炭火焼肉たむら」の食品。仏像をデザイン化した「仏像ピクト」のバッジ。こうした買物をすべてNEM決済で購入してみた。
これ以外にも、魅力的な出展が多かった。NEMロゴをあしらった革製の財布「レザーNEMウォレット」、レース編みのアクセサリー「nico’sCATULUS」、NEMロゴをモチーフにしたチタン製ネックレスを展示した「エンジョイ☆クリプト」などにも心動かされた。仮想通貨で猫を保護する「NEM猫プロジェクト」も各種グッズを展示販売。それにNEMロゴをあしらったTシャツ販売も目立った。
物販ともまた違う変わり種の出展もあった。NEMロゴを入れたミニカー、プラモデルを展示した「まるや」、暗号通貨決済による店舗デザイン設計施工を受け付けている「FEATHER STONE HOUSE CO.,LTD.」、アイデア企画書を展示した「nemicon」などがあった。
ここで特筆しておきたいのは、NEM決済フリーマーケットは「気持ちが高揚する」ということだ。初めての海外旅行で、手持ち資金を外貨に両替して買物をしてみるとき、気分が高揚した経験はないだろうか。そのような非日常の楽しさを体験できる側面が、仮想通貨による決済にはある。NEMに限らず仮想通貨決済が普及すると、おそらく世の中全体の消費行動がより活発になるのではないかと筆者は考えている。実際、ビットコイン決済を受け付けたビックカメラは当初2店舗から始め、想定以上の反響があったために全店舗に適用範囲を広げた。仮想通貨で経済をもっと回せる可能性があることの一つのサインといえるだろう。
スマホNEMウォレットが乏しい状況が急速に改善
ここで、ネムフェス参加の準備の話もしておきたい。イベント当日は、ぜひNEM決済をしたいと考えていた。日本円でも購入可能だが、せっかくだからNEM(XEM)で決済してみたい。
そのためにはスマートフォンで動くウォレットアプリが必要だ。NEMには、NEM財団(NEM.io Foundation)がリリースする公式スマートフォンウォレット「NEM Wallet」がある。ところが手持ちのAndroidスマートフォン2台ではこの「NEM Wallet」が起動直後にクラッシュしてしまい利用できない。うち1台はリファレンス機ともいうべきNexus 5X。ここは改善を望みたいところだ。
そこで使ったのは「LCNEM」と「もにゃ」だ。「LCNEM」はスマートフォンのWebブラウザーを開きGoogleアカウントでサインインするだけで使える手軽さが特徴。Webアプリだがスマートフォン画面上にアプリと同様に配置することも可能だ。秘密鍵をWebアプリケーションに預けるタイプなので多額の資金を扱う目的には向かないが、このようなイベントで少額決済のために使うにはまずまずの使い勝手だった(※4)。
「もにゃ」はモナコインのウォレットとして登場し、今では多種類の仮想通貨に対応する。Webアプリおよびスマートフォンアプリとして動作し、秘密鍵を利用者自身が管理するタイプ。例の「モナー」のキャラクターをデザインに取り入れているし、インストール時に利用者の理解レベルを測るクイズが出てきて、独特のノリを感じる作りだ。その一方でWebアプリ版ではアトミックスワップ(異なる仮想通貨へ直接交換)にも対応するなど機能の先進性も特徴とするウォレットだ(※5)。
そのほか、イベント会場に出展しクリエイターズ表彰1位を獲得した「Raccoon Wallet」は魅力的なウォレットだった。現状、Android版はリリース済みで、iOS版はPWA(高機能なWebアプリでホーム画面に配置できる)としてリリース予定とのこと。次の機会にはぜひ使ってみたい。
以上に加えて、前述したようにこのイベントでは専用のWebアプリケーション型ウォレットが用意されていた。これはNEMモザイクを使って作品に投票する目的で使われていたのだが、QRコード読み取りにも対応していてウォレットとしての基本機能を満たしていた。後から振り返ると、この専用ウォレットに手持ちのXEMを送金して店頭決済に使うこともできたはずだ。
ついこの間まで、NEMの弱点の一つがスマートフォンウォレットの選択肢が乏しいことだったが、その状況が急激に改善していると感じる。なぜウォレットが急に充実してきたかといえば、ひとつには今回のネムフェスのようなNEM関連イベントに向けてソフトウェア開発者たちが腕を振るう構図がある。
以上、5月19日に東京で開催されたNEM CREATORS FESTIVAL(ネムフェス)の概要を報告した。イベントに参加して暗号通貨決済を使ってみると、暗号通貨への認識はだいぶ変わるはずだ。NEMを題材にしたイベントは、他にも名古屋、福岡で開かれてきた。5月26日には福岡で「nemcafe」が開かれ「XEM自動販売機」や、NEMモザイクと連動してイラストを表示できるアプリ「モザイクギャラリー」と連動したイラスト展示もあったとのことだ。次のNEMイベントは、機会があれば足を運んでみてはいかがだろうか。
※1:「Raccoon Wallet」は、ネムフェスの1週間後の5月26日に福岡市で開催されたイベント「nemcafe」内で開催されたコンテスト「NEMCON」において、最優秀賞、トレスト賞、nemcafe賞の3賞を受賞した。全体にNEMコミュニティーから高評価を得たウォレットといっていい。記事執筆時点ではAndroidアプリ版が公開中だが、iOS向けにはPWA版(ホーム画面にインストールできるWebアプリ)の準備が進んでいるとのことだ。
※2:カタパルトはNEMの次世代コアとして開発された技術で、最近オープンソースとして公開された。NEMに取り入れられて使えるようになるのは少し先の話になる。現行NEMと比べた強化点は、アーキテクチャ見直しによる性能向上、マルチレイヤーシグネチャ(例えば課長決裁と部長決裁の両方を実施するような概念を実現できる)、アグリゲートトランザクション(当事者が3人以上いるような複雑な取引を1回の取引で完結させる)の各点。ネムフェスでカタパルトについて講演したDaoka氏は、「アグリゲートトランザクションは複雑な取引を表現できるが、制限時間内に署名が揃わないとロックした資金を没収されてしまう。署名する当事者全員にとってUIが分かりやすく、迷わず署名できることが大事だ」と指摘した。
※3:今回、筆者がネムフェスに参加する旨をツイートしたところ、暗号通貨界隈で一目置かれる有名人で、かつNEMに積極的な@GodTanuXT さんから投げ銭サービスの@tipnem を経由して100XEMの寄付をいただいた。そこで当日は投げ銭分以上を使うよう心がけた。
※4:LCNEMは、Twitterで「いいNEMウォレットを知りませんか」と、この界隈に助言を求めたところ、作者の Yu Kimura(@YuKimura45z)さんからプッシュされたので当日使ってみることにした。PWA(Progressive Web Apps)という手法で作られていて、Webアプリケーションでありながらスマートフォンのホーム画面にアプリであるかのようにアイコンを置いて使うことができる。操作法もシンプルで使いやすい。ただし、(1)QRコードのデータの書式(JSON形式)に厳しく、解釈してくれないQRコードがあった点、(2)LCNEMではXEMの送金を「添付モザイク」のかたちで行うが公式のスマートフォン向けNEMウォレットはモザイクにまだ対応しておらず着金の確認ができない点には戸惑った。もっとも、自分としては「アーリーアダプター感」を味わえたのでむしろ満足している。このあたりは、今後各種ウォレットの利用経験と知見が貯まっていくにつれて解消されていくだろう。
※5:ネムフェス当日に使った「もにゃ」のNEM決済は「拡張機能」扱いで余分な操作が必要になり、使い勝手が良くなかった。ところが5月26日に福岡で開催したイベント「nemcafe」では「もにゃ NEM Edition」なる新バージョンが登場した。最近のNEMウォレット分野は油断しているとすぐ情報が古くなるので要注意だ。