イベントレポート
チケット転売防止問題はNEMのブロックチェーンと経済的インセンティブが解決
NEMの性質やその応用例について実例を多数紹介「BlockChainJam 2018」レポート
2018年11月29日 15:53
これからの未来を創る「ブロックチェーン」の可能性を探求するカンファレンスイベント「BlockChainJam 2018」が10月21日、東京・六本木アカデミーヒルズのタワーホールにて開催された。イベントレポート第4弾となる本稿ではカンファレンス第2部で行われたブロックチェーンプロジェクトの概要解説から、NEMの紹介パートを報告する。同パートは「Ethereumなどからの比較の観点からみたNEMの性質や、NEMの応用例について」をコンセプトに、前半は株式会社LCNEM・代表取締役の木村優氏が「BlockChainJam 2018」のチケット販売にも使用されているLCNEMについて解説し、後半は株式会社イーサセキュリティ・代表取締役の加門昭平氏が「NEMを使ったプロジェクトの紹介と特徴」をテーマに報告する。なお、イベント概要については、「仮想通貨・ブロックチェーンの課題を解決する最新技術を知る『BlockChainJam 2018』」の記事にてレポートしているので併せて読んでいただきたい。
チケット転売問題をブロックチェーンで解決
最初にNEMを紹介するのは、株式会社LCNEM・代表取締役の木村優氏。LCNEMは、価値か変動しないいわゆるステーブルコインと呼ばれるコインの移転システムを開発するほか、ブロックチェーンウォレットアプリ「LCNEM Wallet」の開発や、今回紹介するブロックチェーンを利用した転売防止チケット「Ticket Peer to Peer」を開発するスタートアップ企業だ。これらのシステムは、NEMのブロックチェーンを活用しているという。
LCNEMのTicket Peer to Peerは、今回「BlockChainJam 2018」のチケット販売にも使用されている。Ticket Peer to Peerは、多くのチケットサービスで問題になっている転売を防止する、ブロックチェーンを応用した新しいチケットシステムだ。ブロックチェーンにおいては、アドレスと呼ばれるランダムな文字列が口座番号の役割を果たすが、Ticket Peer to Peerのポイントは、そのアドレスをチケットとみなすという。
ブロックチェーン上に、このチケットとなるアドレスの取引履歴がなければそのアドレス、つまりチケットは有効なチケット、何らかの取引履歴があれば無効なチケットであると判断することができるとのこと。
木村氏は、これまでもブロックチェーンを応用したチケット管理は考えられてきたが、どれもチケットとなる仮想通貨(トークン)の取引をブロックチェーンに記録していくという非効率なアイデアばかりだったという。アドレスそのものをチケットとみなしてしまえば、効率よくチケットの管理ができるという。この発想は、現在、特許申請中とのこと。
チケットはまず主催者がアドレスをQRコード化する。そのQRコード自身を、チケット購入者であるイベント参加者へ送信する。重要なのは、誰もがこのQRコードを読み取り、読み取ったアドレスに対してブロックチェーン上に取引したことを送信することが可能なことだという。実際にチケットを使う際にもこのフローは実行されるが、アドレスが分かっていれば誰もがチケットを無効化することが可能であるという。またブロックチェーン上に記録されるということで、誰が一最初にそのチケットを無効化したのかも分かるとのこと。この仕組みを活用し、イベント主催者は「無効化したアドレス」に対して通報報酬を送るのだという。キャンセルによるチケットの払い戻しに関しても、この通報報酬が兼業をする。たとえばだが、キャンセル料としてチケット代の2割を手数料とした場合は、通報報酬を定価の8割にすることで払い戻しを行うことができるとのこと。
この仕組みと、次に解説をする経済学的インセンティブを取り入れたのが、Ticket Peer to Peerの基本的な仕組みであるとのこと。
たとえば、チケットに関して転売屋と2次購入者がいるとする。まず転売屋はチケットを売る際に、QRコードを見せずに売らなければならない。なぜならば、QRコードを見せてオークション等に出品してしまうと、誰もがそのチケットを無効化することができてしまうからだ。これは、その転売屋が本当にチケットを持っているかどうかが分からないため、より怪しさが生じ、購入者はリスクと感じるという。つまり2次購入をしないという経済的インセンティブが働くというのだ。
仮にそれを2次購入者が買ったとする。ここで今度は、通報報酬の機能が働き、転売屋自身が通報報酬を受け取りたいがために自らチケットを無効化し報酬を受け取る可能性が出てくるという。もちろん転売屋は無効化せずに転売のみを行うことも可能だが、2次購入者にとっては、これもまたリスクであり、おのずと2次購入しないという経済的インセンティブがここでもまた働くのだという。さらには、イベント運営者のパトロールや正義感の強いファンが転売を見つけて通報することも容易になるメリットも生じるとのこと。
また、Ticket Peer to PeerはQRコードを発行するだけなので、決済等も分離可能なため、どのようなプラットフォーム上でも導入が可能だという。転売防止のために身分証明のような個人情報とひも付ける必要もなく、チケット使用時もQRコードを読み取るだけというシンプルさを兼ね備えている。Ticket Peer to Peerは、チケットとなるQRコードを発行するAPIを提供しているので、各サイトはこれを利用し簡単にチケット購入機能を埋め込めるという。チケットを購入するためにわざわざ購入ページに移動せずに、自社サイト内で完結できるのは、イベント主催者にとっても参加者にとってもメリットだろう。
NEMを使ったプロジェクトの紹介と特徴
続いてNEMを紹介するのは、株式会社イーサセキュリティ・代表取締役の加門昭平氏だ。加門氏は「NEMを使ったプロジェクトの紹介と特徴」をテーマにスピーチをする。
加門氏自身は、2015年頃より暗号通貨に興味を持ち始めたという。自身の会社では、NEMのノード運用代行やPoS(Proof of Stake)系ノード関連のリサーチやコンサルティングを行っているそうだ。
最初に加門氏は、NEMの特徴について解説をする。NEMは、パブリックなブロックチェーンであり、合意形成にはPoI(Proof of Importance)という方法をする。承認時間は約1分、NEMによる通貨はXEM(ゼム)という通貨単位を使用、特徴としては標準でマルチシグに対応、また、プライベートブロックチェーンのmijinと互換性があるなど、その特徴を説明した。加門氏は「NEMあるある」として、「それってEthereumでいいじゃないですか?」という疑問を掲げた。加門氏いわく「いい」そうだ。しかしながら加門氏は、NEMの導入の簡便さをアピールした。NEMはAPIとのやり取りでほぼ完結するのだという。
現在、アナウンスされているNEMによるプロジェクトは、分類すると「決済・寄付」「ライセンス証明」「ポイントシステム」「ノード・マイニング関連」といったものに分かれるという。
決済としては、決済サービス「nemche」(ネムシェ)といったサービスがあるそうだ。nemcheは、フリーマーケット等で利用されているとのこと。またポイントの例では、政治系SNSの「PoliPoli」を紹介。PoliPoliはSNS内のポイントとしてNEMを利用しているという。寄付では、寄付機能付きブログ投稿サイト「nemlog」や、スポーツチームや選手に投げ銭をして応援するコミュニティ「Engate」、Twitter上でNEMをチップとしてあげることができる「tipnem」が紹介された。
また、ライセンス証明となる権利管理の実例として、NEMのオープンアポスティーユ機能(文書が改ざんされていないことを証明する機能)を使ったデジタルデータの所有権証明ツールや、前述の「Ticket Peer to Peer」も紹介された。
このように多くの実例を示した加門氏は、NEMはAPIで呼び出せることから、ブロックチェーン以外の部分を別のプログラムで表現でき、新規開発、ルールが変化しうるものに向いているという。また、アポスティーユ機能など権利関連の領域にも強いことから、トレーサビリティやデジタルアートの証明等にも向いているだろうという。
さらにNEMはコミュニティの強さも売りだという。さまざまなことが語られ、またお互いが助け合うなど、その活動は盛んであることを挙げる。加門氏のNEMのまとめがコミュニティの話であったことも印象的なトークであった。