イベントレポート
「データを出せない」を逆手にブロックチェーン活用データ連携ビジネスを立ち上げた富士通
Mirai Salon #8- ブロックチェーンによる新規事業開発
2018年6月14日 06:30
6月6日に開催されたイベント「Mirai Salon #8- ブロックチェーンによる新規事業開発」(主催:アドライト、共催・協力:EGG JAPAN(三菱地所))では、スタートアップ企業のALIS、大企業の中部電力と富士通、クラウドサービス提供企業のアマゾンウェブサービスジャパンがブロックチェーンへの取り組みを報告した。新しい事業領域に挑戦する各社の取り組みを個別記事で紹介する。
富士通・ネットワークソリューション事業本部・サービスビジネス事業部・シニアマネージャーの池田 栄次氏は、同社の新規事業として立ち上がりつつある「Virtuora DX」について説明した。
池田氏はモバイル通信インフラのシステム開発を経験した後、新規事業開発を手がけてきた。諸々の試みは「全敗でした」と率直に語る。そして、今手がけるのがブロックチェーンを活用した異業種企業間データ連携のビジネスだ。「100社以上の企業と接点を持てた」と話す。
「日本でビジネスを展開しようとすると、3つの『出せない』に直面します。データが出せない。アイデアが出せない。世の中に出せない」(池田氏)。ビッグデータを活用できる会社が勝つ、と分かっていても、データをおいそれとは社外に出せない。
そこでデータそのものは各企業の手元におき、その概要を示すメタデータを共有することで、データの内容は秘匿したままでデータを活用しやすくするという考え方にたどり着いた。メタデータを使って必要なデータを探し、個別のデータは個別に暗号化データ通信により交換する仕組みだ。
この考え方に沿って同社が構築したプロダクトが、一種のコンソーシアム型ブロックチェーンである「Virtuora DX」と、分散データアクセス制御技術「VPX(Virtual Private digital eXchange)」である。このVPXは富士通研究所の成果を取り入れたものだ。メタデータのフレームワークとして、東京大学大学院工学系研究科・システム創成学専攻・大澤研究室が提唱した「データジャケット」を活用する。
基盤技術としてオープンソースのプライベート型ブロックチェーン技術「Hyperledger Fabric」を用いる。ちなみに、富士通は同技術を推進するLinux FoundationのHyperledgerプロジェクトのプレミア・メンバーである。
池田氏は、「市場接点を早期に持つ」「知識獲得ネットワークの発見」の重要性を指摘した。例えば、富士通研究所の成果や、大澤研究室との出会いが、データ連携の事業開発では非常に重要だった。「VPX」は商標を取っている。「アルファベット3文字で商標を取ることはふつう難しいが、今回はたまたま取ることができた」と裏話を明かした。
このVirtuora DXは、約1年前、2017年6月開催の展示会「Interop Tokyo 2017」で初めて展示した。それ以来、仮説を検証しながらサービス開発を続けている。活用事例として、三菱地所、ソフトバンクらと手を組み丸の内エリアで異業種データ連携の実証実験を実施している(プレスリリース:業種を超えたデータ活用で新たな街づくりを目指す実証実験を東京・丸の内エリアで開始)。
パネルディスカッションでは興味深い発言があった。池田氏は「(ブロックチェーンという用語が)バズったのは良かった。存分に活用させてもらっている」と語った。国内外でブロックチェーン活用の話題が増えてきたことは、ブロックチェーン関連事業に取り組む人にとって追い風となっている。