イベントレポート

「お金のインターネット」たる理由、業界第一人者が2019年ブロックチェーン業界の行方を語る

FLOC「丸の内vacans」のオープ二ング記念イベントでトークショーによる記念講演を開催

 ブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」を運営する株式会社FLOCは12月10日、東京・丸の内にブロックチェーンビジネスの活用促進を目的としたコミュニティスペース「丸の内vacans」の開設を記念し「丸の内vacans オープ二ング記念イベント」を開催した。本稿では、記念イベント第1部のレポートに引き続き、第2部にて行われた記念講演「2019年の日本のブロックチェーン業界の行方 -ビジネス活用はどう進むのか-」についてレポートする。

 第2部は、トークショー形式で行われた。司会進行は、株式会社コルク・代表取締役会長の佐渡島庸平氏。講談社時代「バガボンド」「ドラゴン桜」「宇宙兄弟」等の編集を担当する編集者として知られ、ビジネスにおけるコミュニティ活用に関しても造詣が深く、現在は作家のエージェント会社を経営する。

第2部は、トークショー形式

株式会社コルク・代表取締役会長の佐渡島庸平氏

 佐渡島氏の司会のもと、日本のブロックチェーンビジネス第一人者であるビットバンク株式会社・代表取締役CEOの廣末紀之氏と米R3社日本統括責任者の山田宗俊氏を招き、「2019年の日本のブロックチェーン業界の行方」をテーマに意見を伺う。

 廣末氏と山田氏は、共にFLOCブロックチェーン大学校の講師を務めているが、ここで改めて両者のブロックチェーンとの関わりについて、自己紹介も兼ねて伺いたいと佐渡島氏が口火を切る。

ビットバンク株式会社・代表取締役CEOの廣末紀之氏

 仮想通貨交換所「bitbank」を運営する廣末氏は、金融とITがバックグラウンドだという。2012年に初めてBitcoinを知り、勉強していく課程で「これはお金のインターネットだ」と思って感激したそうだ。それ以来、どっぷりとハマり、2014年にビットバンクを創業したという。廣末氏は現在、仮想通貨とブロックチェーンが産業として成立することを目指し活動をしているとのこと。

米R3社日本統括責任者の山田宗俊氏

 米R3社に入って2年5か月ほど経つという山田氏。ビジネス向けブロックチェーンソリューションを提供するコンソーシアムであるR3社は、本社がニューヨークにあり日本人は山田氏1人であるという。山田氏は、前職で金融関連の顧客と携わってきた関係で自然とBitcoinやブロックチェーンに興味が沸き、ある時、R3社のブログで東京における業務があることを発見し、現在に至るとその経緯を話す。

 佐渡島氏は、ブロックチェーンはインターネットの誕生と同じぐらい世の中を変えるという話を良く聞くが、また、世間もブロックチェーンはすごいという認識を持っていると思うが、誰もが実感としてそこまでは行ってないと思っているのではないかという。その中で、廣末氏はブロックチェーンのどういうところを見て「お金のインターネット」と感じたのかという質問を投げかけた。

 実社会では、お金のやり取りには金融機関等の仲介が必要だと話す、廣末氏。これまでのインターネットでは、直接のお金のやり取りは難しかったという。特に見ず知らずの相手にお金を送るのは危険であり、メールアドレスだって別の人かもしれないというリスクがあるという。しかし、仮想通貨の技術では、相手が誰かということを信頼する必要がないというのが新しいと感じたとのこと。これは今の金融構造ではありえないものだという。

 廣末氏のイメージは、インターネットの登場以前は個人がメディアになるということは不可能であり、情報の収集と発信はマスコミがすべて行っていて非常にパワーを持っていた。しかし、インターネットによって個人自らが発信者になることができるようになったという。それと同様に、ブロックチェーンによってこれからは個人が自分たちの価値を持つだろうという。特権者たちが持っていた価値が、民間の手へと価値、パワーが権限委譲されていく時代になるのだという。情報がインターネットに移ったように、お金はBitcoinや仮想通貨に移っていくことになると語る。

 それについて山田氏は、ブロックチェーンの業界にいると「価値のインターネット」ととも言われるが、これはデジタルにおける現金の手渡しの良さだという。山田氏は、それはインターネットでの電子メールの良さを挙げると分かりやすいという。

 法定通貨による現金の手渡しでは、物理的なお金を直接やり取りするため改ざんや二重支払いが不可能だという。これが、現金手渡しの良さとなる。電子メールは瞬時に、多くの人に届けられるのが良さだ。しかし価値を証明することができない。ブロックチェーンの良さは、現金の良さと電子メールの良さを兼ね備えている。すなわち、勝手に改ざんできない、二重に使うこともできない。電子的なので瞬時に届けられる。この仕組みをBitcoin以外のいろんな取引に使えたら良さそうなことが起きるんじゃないかと考えて、各社がブロックチェーンを使い、いろんな検証をしているというのが現状であるという。価値のインターネットというのはこういう風に考えると感じ取れると思うと語る。

 佐渡島氏は、なるほどと納得をするも、インターネットによって人とモノが繋がるようになったけど、そこの信用が裏打ちされていない。SNSなどでフォロワー数が価値の可視化という人もいるが、それはBOTかもしれない。ブロックチェーンでは、そこの信用が裏打ちされる、という理解で合っているだろうか? と再度、確認の意味で疑問を投げかけた。

 山田氏は、ブロックチェーンは可視化というよりもパブリックブロックチェーンではみんなで検証する、みんなで取引の情報をチェックするから信頼が生まれるという。誰かを信頼することなく検証ができる仕組みがある。信頼する必要がなく、検証した結果、改ざんされていない、不正に使われていないということを確認できるのだという。

 「そこに価値があるんですね」と納得をする佐渡島氏は、去年と今年はブロックチェーンがこれまで以上に注目されているが、この時期にブロックチェーンが注目されているのはなぜかという理由について尋ねる。

 廣末氏は2014年にビットバンクを起業したが、注目されたのは仮想通貨の投機的な高騰、そしてその要素技術であるブロックチェーンが徐々に注目されたという流れがあったという。

 佐渡島氏は、なぜ2014年に起業しようと思ったのか、改めて廣末氏に質問をする。

 もともとBitcoinはすばらしいストラクチャ(構造)を持っていた。うまく社会応用すれば社会にプラスになると、廣末氏は考えたそうだ。2014年の当時、渋谷にBitcoin好きが集まるオフラインのコミュニティがあり、廣末氏も参加していたという。そこには、当時の世界最大の取引所の関係者やギーク中のギークが世界中から偶然にも集まっていて、議論や交流をしていたという。そんな流れに身を置いている矢先、2014年1月にMt.Gox社の事件があり、新聞やメディアはBitcoinに対してバッシングを行ったが、廣末氏は、そんな社会的ストレスの中でBitcoinとブロックチェーンがどう動くのか注目していたという。こんな大きなストレスを受けてもBitcoinの仕組み自体は微動だにせず、正確に可動していたことに感動したそうだ。仮想通貨に対して世の中が誤解している中、真実は違うということを廣末氏は感じたという。これは超優良株が叩き売られている状況であり、10年に一度のビジネスチャンスだと確信したそうだ。誰かがサービスを通じてこの良さを形にしなきゃいけないと考え、2014年5月に会社を創立したという。

 同様に佐渡島氏は、山田氏はブロックチェーンに対してどう見ていたのかと尋ねる。

 山田氏は、前職でITプロジェクトのマネージャー、金融機関計のITコンサルティング、業務改善を行っていたという。その頃、ある金融機関が新たに送金システムを作ろうとしていたが、別の金融機関も似たようなものを同じぐらいの予算で作ろうとしていたのを知ったという。これは同じ仕組みでいいのではないか? と山田氏は疑問を抱いたとのこと。またその頃、ブロックチェーンの技術を使えば、アプリは共通で、従来通りに台帳はそれぞれの金融機関ごとに持つという仕組みが可能であることに気づいたという。今まで10億円のシステムを10社が作ると業界全体で100億円かかったが、ブロックチェーンを使えば10億円で同じ仕組みができる。こういうことに気づいてブロックチェーンにハマっていったという。

2018年はブロックチェーンとってどんな年?

 山田氏に、2018年はどういう年だったかと尋ねる佐渡島氏。

 今年は非金融のブロックチェーン実証実験が進んでいったという印象だという。たとえば広告業界では、アドフラウドという広告詐欺(ロボットを使って広告のクリック数を稼ぐ手法)があるが、これを防ぐためにブロックチェーン、AI、マシンラーニングを組み合わせて仕組みを作っている会社があるという。また、ほかには土地登記、サプライチェーンの受発注プロセスといった部分でブロックチェーンを活用している会社もいくつか出てきており、現在、トレンドとしてブロックチェーンは存在するという。

 一方の廣末氏に対して佐渡島氏は、今年は仮想通貨交換所の問題がいろいろあったが、2019年の仮想通貨はどうなると見ているのかを尋ねる。

 廣末氏は、ブロックチェーンの発展プロセスとしては広告や不動産登記などに活用されるのは正しいと思うと述べた。なぜならはインターネットにおけるベースはトラフィック、ブロックチェーンには、仮想通貨でいうとリクイディティ(流動性)という取引のベースがある。そこからインターネットでいえば広告ビジネスだったりECのビジネスだったりというものがある。仮想通貨交換所はインターネットでいうプロバイダみたいなもので、世界のゲートウェイとなる。入り口にすぎないが、次の世界ではここから進展してくるとインターネットでいう広告技術やEコマースというものが発展してくる。2019年以降は、実際にリクイディティベースができた今、その上に仮想通貨やアプリケーションの発展ペースに入っていくと思うと回答した。

 また、山田氏は、仮想通貨やブロックチェーン技術そのものについて、技術の組み合わせが1つのトレンドとなるだろうという。AI、IoT、ブロックチェーンを組み合わせて今までになかったソリューションを作り上げる会社が出てくるだろうとのこと。これは一企業では難しいし、協業でも難しい。だからコンソーシアムを作る動きが海外だと大きいのだという。海外では自動車業界、広告などで業界別コンソーシアムが出てきている。日本ではハード業界コンソーシアム、証券コンソーシアム、不動産コンソーシアムぐらいしか、なく、その動きは少ないという。今後は、サプライチェーンコンソーシアム、保険コンソーシアムとかいろんな形でコンソーシアムが立ち上がってくるだろうとのこと。海外ではすでにトレンドがあるので、日本ではなかなか手を挙げる企業がないが、みんなが望んでいることだと思うので手を上げたもの勝ちという状況にはあると思うと語る。

 山田氏はブロックチェーンの技術は、今どういう風に世に広まっていると思うかと、佐渡島氏は尋ねる。

 R3社も元々は金融機関のコンソーシアムで、ウォールストリートの競合する9行の金融機関から始まったという。なぜ集まったかというと、戦う部分と協力する部分を切り分けて考えようという発想からとのこと。戦う部分は社内で、クローズな環境で研究して新商品を発表する。バックオフィスの業務改善みたいなことは、戦うべき部分ではないと考えるという。社内だけでは限界がある部分、契約作業のような部分をみんなで一緒にやることで業務改善ができるなら、そこはフェアにやろうという流れで始まったのだという。

ブロックチェーンにおけるエンジニアの資質

 佐渡島氏は、ブロックチェーンにしても仮想通貨にしても、エンジニアが全然足りないと言われるが、そういう流れでFLOCブロックチェーン大学校ができているのだろうかと問う。ここで、ブロックチェーンを扱うエンジニアに求められる資質は、普通のプログラマとはどういうところが違うのかという質問を、両者に投げかける。

 廣末氏いわく、それはこれまでのエンジニアの資質と何ら違わないという。ここは先輩のいない業界なのでチャンスがある。お金のインターネットは現行の情報のインターネットよりも遥かに社会に与える影響は大きい。そんな場所にチャンスがあって「なぜやらない?」と問いたいという。イメージや怪しさなどで二の足を踏む人が多いが、インターネットも最初は使えないと思われていたとのこと。しかし、最初に乗り込んだ人たちがフロントランナーとなってインターネット産業の勝者になった。仮想通貨も同じで、まだ産業が始まって間もないから技術のアップデートは見込めるし、未来はとても明るいと思うという。起業家はとにかく早くやるべき。アイデアもいらないからFLOCで初期のインプットを受けて、こういう場所(vacans)でいろんな人に出会って、いろんなインスピレーションを受けて、どんどん事業を始めるべきだろうと力説をする。

 山田氏も同じ意見だという。特別にブロックチェーンだからコレが必要ということはないと同調をする。弊社のCordaの場合なら、JavaとSQLができれば誰でもできる。何が求められるかというと、ブロックチェーンは分かりにくい概念・技術なので、それを形として人に見せられる、プロトタイプを一気通貫で作ってしまって人に見せられる技術者がいると非常に助かるのだという。自分の守備範囲を区切ってしまう人より、一貫して実装が行える技術者が求められるだろうとのこと。

 佐渡島氏は、廣末氏に先程の渋谷のBitcoinコミュニティとはどんなものだったのかと、ここで改めて尋ねた。

 好きだから集まって、特に何かを一生懸命勉強したりではなく、どうやって今までできなかったことが実現できるかとか、そういう夢を語り合う場だったと廣末氏はいう。非常に学びが多く刺激を受けたとのこと。自分と好きなものが共通な人たちが集うと人生が豊かになる。そういうコミュニティの場は非常に重要だという。

 コミュニティは今も場は継続しているが、儲け話が多くなってきて、廣末氏は距離を置いてしまったという。初期は純粋な人たちがいて、そういう人たちは今でもそういう方向で進んでいると思うと述べた。

 FLOCブロックチェーン大学校も、丸の内に新しいそういう純粋な人たちのコミュニティを作っていこうということでしょうか? と佐渡島氏は両氏に問いかける。

 廣末氏は、こういう場は貴重であり、フラッと立ち寄って隣の人と話しをして、偶然の出会いから何かが生まれて、という状況を起こしやすい場は必要だと思うとのこと。オンラインでもそういうところはあるけど、オフラインにはオフラインの良さがあって、こういうやつがこういうことを考えるというところが分かってすごく勉強になるのだという。それに絆も強くなる。当時の渋谷のコミュニティから、今のビジネスにまで続いている関係もあるのだそうだ。

 山田氏は、弊社のCordaもオープンソースで、オープンソースコミュニティもある。技術を持ったエンジニアが週末に趣味でプログラミングをやっていたりする一方で、ブロックチェーンのアイデアはあるけど技術者がいないという人もたくさんいる。こういう人たちが出会う場があれば、その場で何かが生まれる。1か月で見せられるものができれば、その人達が第一人者になれる。そこにお金を出したいという人が集まれば、たった3か月で人生が変わるということもあるのではないかという。

 では、おふたりはこの業界をどんな風にしていきたい? と佐渡島氏は質問を返した。

 今年いろいろな事件があったが、あまり白い目で見ないでほしいというのが正直なところ(笑)と、廣末氏は語る。自分自身は仮想通貨の値段の上がり下がりには興味がなく、社会にいい形で、仮想通貨技術を使って今までにできなかったことを通じて、より社会を発展できるようにしたいと考えているという。まだ始まって5、6年しか経っていないので、新しい仲間とか同じ価値観を持つ人と巡り合って世界観を切り開いていってほしいし、この会場にいる皆さんにもチャンスがあると思うという。

 山田氏は、日本人として、日本発でどんどん世界に発信していきたいというのが希望だという。日本だけに目を向けているとガラパゴス化してしまうので、英語のブロックチェーンのニュースもチェックして、グローバルでのトレンドを見てほしいとのこと。日本発でやっていくということで、まさにこの場は1つの出会いの場となる。アイデアを持ったビジネスパーソン、技術力を持ったエンジニア、ここに投資家の人も呼び込むことができれば、アイデア・技術・お金が全部揃って日本発でソリューションを打ち出していける、そうした世界が作れると思っていると語った。

 両者のトークを聞いた上で最後に佐渡島氏は、ブロックチェーンはこれから未来があって面白い業界だと思うと感想を述べた。今までみんな個人単位で学んでいたところ、こういう風に学校で学べて、学ぶ人同士会える場が公式にしっかりできたのはここが初めてだと思う。ここに集まったみんながここを使って新しい技術・産業を作るきっかけとなればいいなと思うと語った。今までブロックチェーンに深く興味がない人も今日来ていると思うが、今日の廣末氏や山田氏の話を聞いて業界に興味を持つ人出るよう、ここがそういうフレンドリーな場になっていけば最高ですね、という言葉でトークショーを締め、イベントは終了した。

高橋ピョン太