イベントレポート
金融庁「仮想通貨カストディ業務の規制」「仮想通貨から暗号資産への呼称変更」など、研究会最終回の詳細レポート第一弾
仮想通貨交換業等に関する研究会報告書提出に向け、報告書案の最終調整とのこと
2018年12月18日 00:34
本稿では、12月14日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第11回の詳細レポート第一弾として、研究会を総括する「仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書(案)」について最終確認が行われた会議内容を報告する。
なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第11回イベントレポート会議速報では、今回の研究会の議題を要約しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。
本会議に資料として提出された「報告書(案)」には、4月10日の第1回会議からこれまで10回におよぶ会議を重ねてきた討議結果が総括されており、仮想通貨交換業者を巡る課題への対応について、研究会からの最終報告書として提出を行うための草案として、今回の議題に挙げられた。研究会は、第11回会議を最終とし、討議により草案に対して挙がった意見を反映したのち、会議メンバーの合意を得て最終報告書とするとしている。
実際の討議順と前後するが、草案にて改めて明確化された項目として、仮想通貨カストディ業務の規制案と、仮想通貨から暗号資産への呼称変更について報告する。
仮想通貨カストディ業務の規制
今回の草案では、「仮想通貨カストディ業務の現状と規制導入の必要性」という項目が追記されているが、これまで討議してきたウォレット業務を行う業者について、草案にて仮想通貨カストディ業務という呼称を新たに定義している。ウォレット業務を行う業者は仮想通貨の売買等は行わないため仮想通貨交換業には該当しないが、顧客の仮想通貨を管理し、顧客の指図に基づき顧客が指定する先のアドレスに仮想通貨を移転させるなど、受託仮想通貨の流出リスク、業者の破綻リスク等、仮想通貨交換業と共通のリスクがあると考えられることから、一定の規制を設けた上で、業務の適正かつ確実な遂行を確保していく必要があるとし、その対応についてまとめている。ちなみに呼称については、証券取引において有価証券投資の際に、証券の保管、管理を行う業務のことをカストディ業務と言うことから、それにならいウォレット業務について、仮想通貨カストディ業務と定義をしている。
また、仮想通貨カストディ業務については、前述の仮想通貨交換業と同等のリスクがあるほかに、10月に国際協調を目的とする政府間機関FATF(金融活動作業部会)によって、仮想通貨カストディ業務を行う業者についても、マネーロンダリング・テロ資金供与規制の対象にすることを各国に求める旨の改訂FATF勧告が採択されていることから、国際協調の必要性が強く訴えられている。
それらを踏まえて、仮想通貨カストディ業務に対する規制内容についても、仮想通貨交換業者に求められる対応と同程度に、業者の登録制、内部管理体制の整備、業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理、分別管理監査、財務諸表監査、仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持、顧客の仮想通貨の返還請求権を優先弁済の対象とすること、利用者保護や業務の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる仮想通貨を取り扱わないこと、顧客の本人確認、疑わしい取引の行政当局への届出といった規制案を列挙している。
なお、仮想通貨カストディ業務に関する草案については、会議メンバーもおおむね同意であり、呼称や規制について、しかっりまとまったのではないだろうかという意見も聞かれた。
「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更
草案では最後の項目になるが、国際的な動向等を踏まえ、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更する旨が追記された。
仮想通貨交換業への規制導入時においては、FATFや諸外国の法令等で用いられていた「virtual currency」の邦訳から「仮想通貨」の呼称が用いられた経緯があるという。また、日本国内においても仮想通貨という呼称が広く一般的に使用されていたことから、これまでそう呼んできたが、最近では、国際的な議論の場においては「crypto-asset」(暗号資産)という表現が多く用いられつつあるという。また、現行の資金決済法において、仮想通貨交換業者に対して、法定通貨との誤認防止のための顧客への説明義務を課しているが、「仮想通貨」の呼称は誤解を生みやすい、との指摘もあるとのこと。こうした国際的な動向等を踏まえ、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられるとしている。
草案ではあるが、呼称変更について項目として追記されたことからその必要性が明確化された。ちなみに、前々回の討議では、認定協会である「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」からは、仮想通貨から暗号資産にするにあたり、新たに「暗号資産」というものができたという誤解を与えたくないという意見が述べられた。前回の研究会でも、しばらくは「仮想通貨」という名称でいきたいという意向が告げられるも、もしも仮想通貨から暗号資産へと呼称を変更する場合は、しっかりと国際協調の上で変更する旨を徹底して告知いただきたいという意見があった。しかし、今回の討議では反対意見が出なかったことから、呼称変更についてはその可能性が高くなったのではないだろうか(決定ではない)。
顧客財産の管理・保全の強化
研究会では、度重なる受託仮想通貨の流出事案から、顧客財産の管理・保全の強化について、討議を行ってきた。特に、受託仮想通貨の流出リスクへの対応は最初の課題として挙げている。
仮想通貨交換業者の中には、顧客からの仮想通貨の移転指図に迅速に対応するために、一般的にはコールドウォレットよりもセキュリティリスクの高いホットウォレット(オンライン)で秘密鍵を管理している場合が多々あるが、これまでの流出事案では、ホットウォレットで管理していた受託仮想通貨が不正アクセスに遭い流出していることから、セキュリティ対策の観点から受託仮想通貨はコールドウォレット(オフライン)で管理することが望ましいとしている。
流出等のリスク対応としては、仮想通貨交換業者において、法令等で求められるセキュリティ対策を着実に講じることが重要であるとし、セキュリティ対策に加えて、流出事案が生じた場合の対応についても予め明確であることや、顧客に対する弁済原資が確保されていることも、利用者保護の観点から重要であるとしている。
さらに研究会では、仮想通貨交換業者は、受託仮想通貨を流出させた場合の弁済方針の策定・公表や、ホットウォレットで秘密鍵を管理する受託仮想通貨に相当する額以上の純資産額及び弁済原資(同種・同量以上の仮想通貨)の保持を求めることが適当であるという。
また、仮想通貨交換業者の倒産リスクへの対応についても言及をする。一般的に、業務上、顧客財産を預かる業者には、顧客財産の流用の防止や破綻時における顧客財産の明確化等の観点から、自己財産と顧客財産の分別管理が求められるという。ちなみに金融法制で求められている分別管理の方法には、自己財産と顧客財産を明確に区分した上で、「顧客を受益者とする信託により顧客財産を保全する方法」もしくは「顧客毎の財産を直ちに判別できる状態で管理する方法」の二通りがあるという。
仮想通貨については、私法上の位置付けが明確ではないが、過去の破綻事例において見られたような顧客財産の流用を防止する観点から、資金決済法上、仮想通貨交換業者には、受託仮想通貨について、顧客毎の財産を直ちに判別できる状態で管理することが求められているとしている。また、仮想通貨交換業者に対し、公認会計士または監査法人による分別管理監査及び財務諸表監査が課されているが、これまでの行政当局による検査・モニタリングを通じて、仮想通貨交換業者の職員が受託仮想通貨を私的に流用していた事実も認められていることから、各仮想通貨交換業者におけるコンプライアンスの徹底を求めるという。
しかしながら、現状では適切に分別管理が行われたとしても、受託仮想通貨について倒産隔離が有効に機能するかどうかは定かではない。また、倒産隔離の観点から、仮想通貨交換業者に対し、顧客を受益者とする信託義務を課すことも考えられるが、仮想通貨の種類や扱う量が増加していることから、それに対応する信託銀行・信託会社の態勢整備の必要性を踏まえれば、現時点で、全種・全量の受託仮想通貨の信託を義務付けることは困難であろうとのこと。
また、信託が困難である現状では、仮想通貨交換業者の財務の健全性を認識できるよう、仮想通貨交換業者に対し、貸借対照表や損益計算書をはじめとする財務書類の開示を求めることが適当だという。さらに、仮想通貨交換業者の破綻時においても、受託仮想通貨の顧客への返還が円滑に行われるように、顧客の仮想通貨交換業者に対する受託仮想通貨の返還請求権を優先弁済の対象とすることも考えられるとしている。
仮想通貨交換業者が管理する顧客の受託金銭については、資金決済法上、自己資金とは別の預貯金口座又は金銭信託で管理することが求められているが、制度の施行時と比べて、受託金銭の額が高額になってきているほか、検査・モニタリングを通じて、仮想通貨交換業者による受託金銭の流用事案も確認されていることから、受託金銭についても、流用防止および倒産隔離を図る観点から、仮想通貨交換業者に対し、信託義務を課すことが適当であろうという。
以上の顧客財産の管理・保全の強化については、草案に対し会議メンバーもおおむね同意であるという。ただし、セキュリティ対策については、本報告書でセキュリティ基準を策定し、それを仮想通貨交換業者が厳守するよう体制を整備していくことが何よりも重要なのではないかという意見が挙がっている。草案には、「セキュリティリスクへの対応としては、まずは、仮想通貨交換業者において、法令等で求められるセキュリティ対策を着実に講じることが重要である」と記載されており、また、脚注に「関係団体等において技術面からの指針等が整備されることが望まれる」としているが、あっさりしすぎているという指摘があった。仮に安全対策基準ができた場合、それを誰がチェックするのか、そういったことがまったく書かれていないので、物足りないという厳しい意見も挙がっている。
本稿でのレポートは、ここまでとする。さらに別稿にて、仮想通貨の不公正な現物取引、仮想通貨デリバティブ取引、ICOについて等、実際の取引に関する規制についての討議をレポートする。そちらも併せて一読いただきたい。