イベントレポート

ブロックチェーンゲーム業界有識者が語る、ゲーム領域におけるブロックチェーン実装の最前線

「くりぷ豚」を開発した井上氏らが登壇するFLOCブロックチェーン大学校特別セミナー

 ブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」を運営する株式会社FLOCは3月14日、東京・丸の内vacansにてFLOC特別セミナー「ゲーム領域におけるブロックチェーン実装の最前線講義」を開催した。セミナーは、実際にブロックチェーンゲームを開発する業界のトップランナー3名が、ブロックチェーン技術の応用先として注目されるゲーム業界の実情を語るトークイベントとなった。ブロックチェーンゲームやDAppsに興味がある人に向け一般公開されたイベントは、平日夕方にも関わらず満席となった。

 イベント前半は、登壇者がそれぞれのテーマで語る3部構成のトークセッション。豚のキャラクターを集め繁殖させるゲーム「くりぷ豚」を提供する株式会社グッドラックスリー・代表取締役の井上和久氏は「ブロックチェーンのゲーム領域における活用について」をテーマに、デジタル昆虫を虫相撲で戦わせる「記憶虫」を開発するブロックチェーンゲーム企画・開発者の大塚雄矢氏は「今後のゲーム×ブロックチェーン業界の予想」について、トークンで作られたカノジョと仲良くなれる「CryptoKanojo」を開発・提供する株式会社デジタルクエスト・代表取締役の鮫島洋幸氏は「ブロックチェーンの導入でゲーム業界はどう変わるか」をテーマにそれぞれ語る。そして後半は、3者のトークセッションに対する質疑応答を兼ねたパネルディスカッションが行われた。

 今回は、イベントレポートも3部構成で報告していきたい。本稿は、レポート第1弾として、井上氏の「ブロックチェーンのゲーム領域における活用について」を報告する。

最初の登壇者は「くりぷ豚」の井上氏

株式会社グッドラックスリー・代表取締役の井上和久氏

 「くりぷトン」という豚を作っていますとあいさつをするグッドラックスリーの井上氏の野望は、ブロックチェーン上で一番繁殖している動物を豚にすることだという。ブロックチェーンゲームは、DAU(デイリーアクティブユーザー)が100や200というレベルで、現状はDAppsのワールドランキングのトップ10にランクインをすることができる状況だという。「くりぷ豚」は常にトップ10内にいるが、今、ここにいる人40、50人が全員プレイしてくれれば、確実にランキングが4つぐらい上がるので、今日はそのために登壇を決意したと、冗談からトークセッションを開始した。

 「くりぷ豚」は、くりぷトンという豚を育て、交配させて新種を誕生させていく、いうなればDNAを継承させながら、より優秀なくりぷトンを誕生させることを目的にデジタルの豚を繁殖させることを楽しむゲームだ。ゲームの大きな特徴は、くりぷトンの血統はすべてブロックチェーンで管理されており、くりぷトンをアセットとしてユーザー同士がEthereum(ETH)で売買取引が可能という点だ。中には突然変異のくりふトンが生まれたり、能力値の高いくりぷトンなど、希少性の高いくりぷトンが誕生することもあるが、そんなくりぷトンは、当然ながら人気となり、価値が高くなるという。「くりぷ豚」は昨年の12月、新たにくりぷトンの育成とレースが追加されたという。

 レースは、これまでの「くりぷ豚」のゲームシステムとは別のモードで、アセットであるくりぷトンを出場させることができる新たなステージのような存在だ。くりぷトンが3D表示でバリバリと競争し合う、しっかりとしたレースゲームに仕上がっており、レース途中にプレイヤーの操作要素を入れたり、スキルを持つくりぷトンは特別な能力を発揮するなど、井上氏いわく、ブロックチェーンゲームにしては珍しい本格的なシステムであり、「くりぷ豚」で儲かってもいないのにレースゲームの開発に本気になりすぎて、大変なことになっているそうだ。しかし、レースの追加で毎日昼休みや夕食時、週末などにライブレースが開催され、「くりぷ豚」に対する熱量が高まったという。ユーザーはくりぷトンの繁殖だけではなく、育成にも力を入れるようになったそうだ。今後、Ethereumの賞金がかかったレースも開催されるという(トークイベント後に開催された)。賞金については、弁護士と相談の上「景表法」(不当景品類及び不当表示防止法)の範囲内で行っているので、法律面についても問題はないので、ユーザーも安心して遊んでほしいという。

育てたくりぷトンをレースに出場させるイメージ

 井上氏は、ブロックチェーンゲームはユーザー側が得をするという点が、これまでのゲームと大きく違うところであり、そこをうまく設定できるかがブロックチェーンゲームのポイントだという。誰もが稼げるというわけではないが、売買をした仮想通貨は法定通貨に換金もできることから、一部ではブロックチェーンゲームを稼げるゲーム「稼ゲー」と呼んでいる人々もいるそうだ。

 従来ゲームとの違いについて井上氏はさらに詳しく解説をする。ブロックチェーンゲームは、まず非中央集権の自動化システムによって不正が難しいという。また仮想通貨を利用しているので換金が可能であること。従来ゲームはゲームのサービスが終了するとデータがすべてなくなるが、ブロックチェーンゲームはゲームがなくなってもアセット(資産)は残るという。獲得したアイテム(アセット)はユーザー間で売買取引ができるのも大きな違いであるとのこと。

「くりぷ豚」の仕組み

 「くりぷ豚」は昨年の6月にリリース以来、すでに5万頭以上のくりぷトンが誕生しているという。「くりぷ豚」は、なぜ豚なのか? レースも馬ではなく豚が走るが、その理由の1つは井上氏の奥さんが実家で養豚ファームを経営しているということにあるという。奥さんの養豚ファームは40年かけて豚3頭から年間出荷豚数が10万頭に到達したそうだ。一方「くりぷ豚」は半年ですでに5万頭誕生しているため1年で追いつきそうで、「デジタルすげ~、ブロックチェーンすげ~」ということになっていると。そんなところで旦那のプライドを維持しているが、売上はだいぶ負けているがと付け足し、会場の笑いを誘った。

 改めて「くりぷ豚」の遊び方を紹介すると、まずEthereumでくりぷトンを1頭購入し、それを他のユーザーや自分の管理する別のくりぷトンとお見合いをさせる。ちなみにくりぷトンには性別はなく、お見合いの際に決める母トン、父トンで、母トンになったくりぷトンが出産できるというルールだ。お見合いによって、親くりぷトンの特徴を継承する子くりぷトンが生まれ、ときには珍しい新種が誕生したりする。こうして誕生したくりぷトンは、レースに出場させることもできれば、また別のくりぷトンとお見合いをさせることもできる。もちろん出品をして他のユーザーに実際にEthereumで買ってもらうこともできる。他のユーザーのくりぷトンを購入することも可能だ。多くは、互いに納得をした手頃な価格で売買されているが、中には数万円で取引されたくりぷトンもいるとのこと。

 「くりぷ豚」の仕組みの中でグッドラックスリーの売上となるポイントは、一番は第0世代のくりぷトンの販売売上だという。くりぷトンはお見合いをし繁殖することで次の世代が生まれどんどんつながっていくが、第0世代のくりぷトンはすべてグッドラックスリーが出荷したアセットになる。またユーザー間の売買取引時に手数料として、約定金の5%相当のEthereumを徴収する。現状の売上ポイントはこの2つだという。

 しかし、手数料については価格設定が低すぎたこともあり、これまでの運営経験からは儲かるレベルではないそうだ。ブロックチェーンゲームの課金ポイントは、手数料ビジネスではないかもという感触だと、井上氏はいう。また、取引手数料が低ければ、ユーザーも楽しんで売買ができることにつながり、その結果、元豚となる第0世代のくりぷトンが売れることになると思うので、ここは上げたくないという。

 レースゲーム機能の追加に向けて初めてくりぷトンのプレセールを行ったときは、およそ170ETHの売上があり消化率77%、高額価格帯の限定くりぷトンは完売だったという。当時のEthereumは1ETH2万円弱だったので、このときのプレセールは300万円近い売上といい結果だったが、その後、レースの開発が忙しくなり、あまりプレセールができてないという。実は現在、ジュエリーコレクションと称する限定セールを行っているので、会社のみんなに宣伝をしてこいといわれているという。ジュエリーコレクションでは1頭限定100ETHするダイヤモンドトンなど宝石トン4種類、パワーストン3種類の計7種類の限定くりぷトンを販売するも、さすがに1頭百数十万円もするくりぷトンは売れていないという井上氏。もう少し安いくりぷトンもいるが、全体的に芳しくはないとぶっちゃける。

 よくデジタルアセットにそんな価値があるのかという話になるが、円やドルの法定通貨だって数十年前は金本位制だったという井上氏。米国はあるとき金本位制をやめてドルを刷りまくったが、法定通貨の価値の裏付けがなくなっても国に力があれば価値は維持されるのだと語る。では、なぜ「くりぷ豚」はダイヤモンドトンなのか、これはデジタルデータだけではダメなんじゃないかということにあるとき気づき、思いつきでこの限定セールをやってみたいと思ったという。奥さんの実家は養豚ファームだが、実は井上氏の実家は7代続く宝石屋さんだというのだ。真面目な話、これで革命を起こそうと思い、100ETHの豚に本物のダイヤモンドの交換権を付けることを企画したという。ブランド店で買うと100万円相当するダイヤと交換できる権利を付けたデジタルデータの豚は売れるのか、あくまでも社会実験として始めてみたいという。

実際に用意しているダイヤモンドを見せる井上氏

 そもそもなぜジュエリーコレクションなのか、実は売り方を完全に間違っていると自分たちを分析する井上氏。今、現在、レースに強いくりぷトンを繁殖させようと頑張っているユーザーに対して、レースとは関係ないキラキラの高価な宝石トンなんて売って、それ誰が買うんだという話だと井上氏は笑いながら話した。実は、これらのくりぷトンは本当はすごくよく走るという。なのに、そこをまったく宣伝していないことに敗因はあるという。社長が売るのが下手なので、このセールの担当も社長に似たのだと井上氏は語る。今後は、方向性を変えて、ちゃんと走るぞと性能も前面に出して売っていくことにしたという。その上で、先ほどの宝石やパワーストーンと交換できる権利も付けていこうとしているとのこと。そのくりぷトンと宝石を交換したくなったらいつでもできるよ、というコンセプトでジュエリーコレクションは完結していきそうだ。

 こんなふうに、この1年はブロックチェーンゲームと格闘しながら、マネタイズのポイントはもしかしたらこの辺じゃないかと、探りながらいろいろと試しているという。法定通貨すら最初は金本位制だったのに、なんで仮想通貨という暗号資産は裏付けがないのに買われているのかがずっと疑問だったけど、なんとなく謎が解けてきたと思い、こうした実験をやり始めているという。

世界最高の養豚プラットフォーム構想

 そしてここからさらに思いは広がり、現在、「世界最高の養豚プラットフォーム」へと構想が発展しつつあるとのこと。構想では、ゲームとブロックチェーンで誕生した10万頭のくりふトンと、養豚ファームの10万頭をつなげたいそうだ。そして、2020年までには互いに出荷数100万頭を目指す構想だという。実際の豚を飼育する養豚ファームについては40年をかけて10万頭までになったことを鑑みると、ここから1万頭を増やすことは現実として難しいという。そこで、ブロックチェーンを始めとするIT技術を駆使しブランディングやマーケティングについてはIT化していきたいという。世間には「和牛」は存在するが「和豚」は存在しないので「和豚」を作りたいと井上氏は語る。そして、「くりぷ豚」に金本位制ならぬ豚本位制を取り入れ、「くりぷ豚」のくりぷトンと和豚を交換できる権利を担保するという。また、レースにの賞品に和豚を提供するというのだ。

 構想については井上氏は笑いながら語るので、半分は冗談であろうが、半分は本気のような印象を受けた。くりぷトンのようなデジタルアセットは空気同様に目に見えないが確かに存在する。それを和豚という目に見えるものに交換できる豚本位制の導入により、拡散しやすくなる安心感が出てくるという。

最後に

 そして最後に井上氏は、グッドラックスリーは、ゲームを始めとするあらゆるエンターテイメント領域に同社のブロックチェーン技術を導入し、みんなが安心して楽しめるシームレスかつボーダレスな巨大エンターテインメントエコシステムを構築することが目標だと話す。「くりぷ豚」でいろいろと実験をしながら続けてきた経験は、すでに「RAKUN」というブロックチェーンシステムへと昇華しつつあるようだ。「RAKUN」は、ブロックチェーンの特性をいかし、発行トークンを安全に流通させ、かつ流通を活性化させる機能を持つシステムだとのこと。トークン発行やリワードシステムを備える「RAKUN」は、投げ銭システムやコミュニティを内包する。そしてRMT(Real Money Trading)システムで、ユーザーがデジタルアセットを売買できる仕組みまでを提供する。システムは地域メディア通貨へと進化中であり、2019年に福岡と佐賀の自治体で実証実験を計画中であることも明かしてくれた。

 国産初のブロックチェーンゲームとして登場した「くりぷ豚」は、儲からなくて大変といいながらも、その技術と応用については着々と進化している様子がトークセッションから見てとれた。トークショーのあとのパネルディスカッションにて井上氏は、ブロックチェーン業界においてスタートアップが活躍できる場は今しかないという。市場が形成され、儲かることが確実になった市場においては、これまでの大手企業が、じっくりと従来の経験とルールに則ってビジネスを確立してしまうので、スタートアップに対する扉は今しか開いていない、だからやるのだという言葉は説得力のある力強いものだった。今年の暮れには扉はしまるだろうと井上氏は語り、トークセッションは終了した。

高橋ピョン太