イベントレポート
金融庁、「仮想通貨研究会の討議結果の総括」資料を第10回目の会議で発表
新制度や規制案の方向性の確定を目標に、仮想通貨を巡るさまざまな課題を整理
2018年11月28日 16:27
本稿では、11月26日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第10回のイベントレポート第3弾として、研究会にて議論されてきたこれまでの討議結果を総括した資料「論点整理」について報告する。「論点整理」は、本研究会の最後に当局より研究会のまとめとして発表が行われたものだが、ICOに関する議論については除くとしている。
なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第10回イベントレポート第2弾「金融庁“ICOは問題を抱えるも低コストかつグローバルに資金調達可能なメリットもある”と分析、研究会会議第10回の詳細レポート」にて、今回の研究会の議題を要約しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。
仮想通貨に関する課題解決に向けて
資料の趣旨は、仮想通貨を巡るさまざまな課題についてこれまでの討議結果を踏まえ、今後、制度的対応をする上での方向性を考察する目的として、整理されたものだ。
始めに、仮想通貨交換業者を巡る課題への対応について報告する。
仮想通貨交換業者を巡る課題として「顧客財産の管理・保全の強化」「仮想通貨交換業者による業務の適正な遂行の確保」「問題がある仮想通貨の取扱い」を挙げ、それぞれの対応についてまとめている。
「顧客財産の管理・保全の強化」については、受託仮想通貨の流出リスクおよび仮想通貨交換業者の倒産リスクへの対応が求められている。仮想通貨交換業者が受託仮想通貨を流出させた場合を想定し、純資産額および弁済原資の保持を受託仮想通貨に相当する額以上(同種・同量以上の仮想通貨)を求めることは適切か。
また、倒産リスクに対して倒産隔離の観点から、受託仮想通貨について顧客を受益者とする信託義務を課すことも考えられるという意見があるが、仮想通貨の信託が有効なものとして機能するかどうか定かではないことや、仮想通貨の種類や受託仮想通貨の量の増加に伴った信託銀行・信託会社のセキュリティリスク管理等に係る態勢整備の必要性があることなどから、現時点では困難であるという理由が述べられている。
「仮想通貨交換業者による業務の適正な遂行の確保」については、第一に取引価格の透明性の確保、利益相反の防止を挙げている。現行の仮想通貨の取引においては、仮想通貨交換業者によって取引価格が大きく違うことが指摘されており、課題として顧客に対して取引価格を公平に知らせることが必要であるという意見も出ていた。そういったことから、顧客との取引に関しては、提示する売値と買値の相対取引価格(他社との違い)およびスプレッド(売値と買値との差)の明確な提示など、認定協会(自主規制機関)が算出する参考価格との相対取引価格差を公表することで、透明性が確保できるのではないかとしている。
さらに、顧客がリスクについて誤認するようなことがないように、また、投機的取引の助長を抑止する観点から、誇大広告、虚偽告知、断定的判断の提供、不招請勧誘の禁止や、顧客の知識等に照らして不適当と認められる勧誘、投機的取引を助長する広告・勧誘を行わないことを求めることが適切か、といった議題が挙げられている。
自主規制規則との連携を考える上で、仮想通貨交換業者に関しては自主規制機能を有する認定協会への加入を促すとともに、認定協会未加入の業者に対しても自主規制規則に準じた体制整備を求める観点から、認定協会の自主規制に準ずる内容の社内規則を作成していない者や当該社内規則を遵守するための体制を整備していない者については、仮想通貨交換業者としての登録拒否・取消要件を設けることが適切であるかといった意見も述べられている。
「問題がある仮想通貨の取扱い」については、仮想通貨の中には匿名性が高く移転記録が公開されず、マネーロンダリング等に利用されるおそれが高いものがあるが、仮想通貨交換業者において、利用者保護や業務の適正な遂行に問題が生じるような仮想通貨を取り扱わないといった措置は必要か。また、問題がある仮想通貨をあらかじめ法令等で明確に特定することは難しいことから、行政当局と認定協会が連携し、柔軟かつ機動的な対応を図っていくことが重要ではないかといったことも挙げられている。
仮想通貨の不公正な現物取引への対応
第9回の研究会にて、仮想通貨の現物取引について不公正な事案として、仮想通貨交換業者における未公表情報(新規仮想通貨の取扱開始)が外部に漏れ、情報を得た者が利益を得たとされる事案や、仕手グループがSNSで特定の仮想通貨について、時間・特定の顧客間取引の場を指定の上、当該仮想通貨の購入をフォロワーに促し、価格を吊り上げ、売り抜けたとされる事案が報告された。
仮想通貨の不公正な現物取引を通じて他の利用者に損害が生じることや、不当な利得の取得がなされることを抑止していくためには、仮想通貨交換業者に対し、不公正な行為の有無についての取引審査を行うとともに、取引審査を通じてそうした行為が判明した場合には、取引停止を含めた厳正な対応を求めることが適切かどうか考える必要があるという。
実際に不公正な行為を行う者は、仮想通貨交換業者以外の者である場合が多いと想定されることから、有価証券の取引に係る不公正取引規制と同様に、行為主体を限定することなく、実効性確保の観点から不公正な行為を罰則付きで禁止することも有効ではないかとしている。
インサイダー取引規制については、多くの仮想通貨には発行者が存在せず、存在する場合であっても、グローバルに存在し得るものであり、規制相手を特定することが困難な面があることや、仮想通貨の価格の変動要因については不確定であることから未公表の重要事実をあらかじめ特定することが難しいなどの理由から、禁止されるべき行為を明確に定めることは困難ではないかという意見もある。
ウォレット業務への対応
ウォレット業務については、そのリスクや国際協調の必要性を考えると、ウォレット業務を行う業者についても、顧客の仮想通貨の管理について求められることから、業者の登録制、内部管理体制の整備、業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理、仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持、顧客の本人確認、疑わしい取引の行政当局への届出など、仮想通貨交換業者に求められる対応と同様な対応を求めることは適切か、といったことが挙げられている。ウォレット業者に対するハッキング等を鑑みると、これらについても重要な課題であるという。
仮想通貨デリバティブ取引等への対応
原資産の有無を問わず、デリバティブ取引はリスクを有するものと考えられることから、仮想通貨デリバティブ取引についても、金融商品におけるデリバティブ取引と同様の業規制を適用することが基本ではないかという。
仮想通貨の証拠金取引における証拠金倍率については、現状、最大で25倍を採用している業者も存在するが(認定協会の自主規制では上限4倍としているが、1年間は会員自身が決定した水準でも可という時限措置)、仮想通貨の価格変動は法定通貨よりも大きいことを踏まえ、実態を踏まえた適切な上限を設定することが求められている。
仮想通貨デリバティブ取引については、過当な投機を招くおそれがある取引でもあることから、資力や知識が不十分な個人に害悪がおよばぬよう、業者に対し、最低証拠金等の取引開始基準の設定や資力等に照らして取引を行うことが不適切と認められる顧客との取引を制限するための措置、顧客に対する注意喚起の徹底を求めることが適切ではないかとしている。
仮想通貨信用取引への対応に関しても、仮想通貨の現物取引か想定元本の取引かという差異はあるものの、元手資金(保証金)にレバレッジを効かせた取引を行う点で、仮想通貨デリバティブ取引と同様の規制の対象とすることが適当ではないかという。
業規制の導入に伴うみなし業者の経過措置のあり方
仮想通貨デリバティブ取引等についてなど業規制を導入する際に、仮想通貨交換業への規制導入時に設けられたようなみなし業者に係る経過措置を設ける場合には、業務内容や取り扱う仮想通貨等の追加を行わないことや、新規顧客の獲得を行わないこと、Webサイト等に、登録を受けていない旨や、登録拒否処分等があった場合には業務を廃止することとなる旨を表示することとし、また、登録の見込みに関する事項を表示しないことなどに対応することを求めることは妥当か、といった意見も挙っている。
「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更
最後は、国際的な動向等を踏まえ、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられるか、といった項目も挙げられている。
これについては、認定協会から「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会」という名称を、仮想通貨から暗号資産にするにあたり、新たに「暗号資産」というものができたという誤解を与えたくないという意見が述べられた。前回の研究会でも、しばらくは「仮想通貨」という名称で行きたいという意向が告げられた中、もしも仮想通貨から暗号資産へと呼称を変更する場合は、しっかりと国際協調の上で変更する旨を徹底して告知いただきたいとのことだった。
最後に
以上が「論点整理」に関する内容である。発表後の各メンバーの感想は、おおむね同意するという意見でまとまり、全容として異論がないということが確認された。次回以降の研究会では、これら整理された課題について制度的対応の方向性を確定し、さらに一歩先に進んだ議論を行っていく。