イベントレポート
エンゲートが切り開くNEMブロックチェーンによるスポーツとトークンエコノミーの世界
日本発スポーツ特化型投げ銭サービスとして世界を視野に、JEITAワークショップ勉強会
2018年12月27日 19:14
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)は12月13日、ソフトウェアエンジニアリング技術における新市場の創出を推進する活動の一環として「JEITA ソフトウェアエンジニアリング技術ワークショップ2018」を開催した。前回、同ワークショップのレポート第1弾として「基調講演」の内容を報告したが、本稿では技術講演から「パブリックブロックチェーン上で実稼働する『エンゲート』のご紹介」について報告する。
同ワークショップは、JEITAのソフトウェアエンジニアリング技術専門委員会が、関連する企業等の有識者の方々を講師として招き、同協会の会員企業および当該分野に関係、関心のあるエンジニア等に向けて開催する勉強会である。
技術講演「パブリックブロックチェーン上で実稼働する『エンゲート』のご紹介」では、エンゲート株式会社・Blockchain PR(マーケティング)の藤田綾子氏を招き、ブロックチェーン技術を使った実例として、すでに稼働中である同社のサービス「エンゲート」を紹介する。
NEMブロックチェーンを活用するエンゲート
エンゲートは、スポーツチームや選手をギフティング(投げ銭)で応援できるNEMのブロックチェーンを応用したギフティングコミュニティ。ファンが投げたギフトは、チームの運営費や選手への支援金として支払われる。そして、その履歴はチームや選手とファンとの結びつきを示すものとして、ブロックチェーンに記録されるというサービスである。10月20日よりサービスを開始したエンゲートは現在、野球、サッカー、バスケットボール、フットサル、女子プロレスなどさまざまなジャンルのチームが参加する。
エンゲートが実現したい世界は、スポーツ分野でプロを目指すアマチュア選手を応援したり、プロ選手の活躍をファンとして応援することで選手が一層の励みになる仕組みを作るほか、選手の引退後もさまざまな形で応援できるなど、ファンとチームや選手がより長く交流できるコミュニティの構築だという。サービスを始めたきっかけは、エンゲートの代表取締役社長である城戸幸一郎氏が、高校時代の親友がヨット競技でオリンピック選手に選ばれるも、その遠征費用は膨大で、到底一個人では調達が困難であるという状況だったという。そこで城戸氏は友人たちと一丸となり、みんなで関連するTシャツを作って売り歩き、そこから遠征費用を捻出したという経験から、いつかこういった問題をIT技術で解決したいと思っていたというのだ。
世の中には、すでにライブ配信等を見て応援する「投げ銭」サービスは多々あるが、エンゲートのチームや選手を支援するスポーツ特化型のギフティング・コミュニティは初めてだという。ファンは、実際にスポーツ中継などを見ながら応援し、素晴らしいプレイや感動のシーンに対してギフトを贈ることで、チームや選手はそれをまたモチベーションとしてさらに頑張るという、チームや選手に成長する循環が生まれるという。また、チームや選手は、ギフトに応じて「リワード」という形でファンに何か特別なお返しをするというのも大きな特徴だ。この循環が、これまで以上にファンとチームや選手を身近なものにし、強い絆が生まれることが期待されているという。
NEMを採用した理由
エンゲートは、NEMのブロックチェーン技術を使用していると、藤田氏は技術面についても解説をする。ブロックチェーン技術にNEMを採用した理由は、同社にはBitcoin、Ethereum、NEMそれぞれのブロックチェーンでアプリやサービスを開発したことのあるエンジニアがいるが、各ブロックチェーンの特徴を分析した結果、経験的にトークンを発行するサービスについては、NEMが一番いいと判断をしたという。
また、トークン発行できるブロックチェーンは多々あるが、NEMを選択したその他の理由として、手数料が安いというのもポイントであるという。NEMは他の仮想通貨と比較しても手数料が数十分の1に抑えられるとのこと。技術面においてもエンジニアがNEMのAPI経由で簡単にトークン発行ができるため、より早くサービスを展開したいスタートアップには向いているというのが、同社の見解であるという。
エンゲートのサービスの特徴は、ファンは仮想通貨を持っていなくても参加できるものであるという。また、仮想通貨を発行するサービスではなく、発行したトークンはエンゲートのサービス内でしか価値を持たないものとしている。そのため、投資・投機的な対象とならず、流出や二次流通のリスクが少ないという。
サービスの仕組みは、まず、ギフティングを行いたいファンは、日本円でエンゲートポイントを購入する。ギフティング用のギフトは100ポイント、1000ポイントなどギフトによってポイントが異なり、また、そのときの感情、声援を表現することができる絵柄を選択することができる。そして応援しているチームが試合中継などライブ配信をしている最中に、自分の感情や選手の頑張りに合わせ、投げたいギフトを投げるという。こうして、ファンが行ったギフティングの履歴は、すべてブロックチェーンに記録されていく。
ギフティングは、チームや選手がどれだけギフトを贈ってもらったかをすべてブロックチェーンに記録していくので、選手の人気度も一目瞭然となる。また、どのファンがどれだけギフティングを行ったかも明確になる。将来的には、蓄積されたデータを分析することで、どのタイミングでどのようなギフティングが行われたかなど、その分析結果から新たなサービスへと展開できることも期待されているという。
NEMブロックチェーンの特徴的な機能について
ここで、エンゲートに使われているNEMのブロックチェーン技術について、さらに詳しい知見を持つ、一般社団法人NEM JAPAN・技術顧問でNEMに関するビジネスコンサルタントも行っている北山氏が登壇し、NEMブロックチェーンの特徴的な機能について解説を行う。
NEMは、ブロックチェーン初心者のエンジニアでもすぐに使える多目的ブロックチェーンであると北山氏はいう。NEMは強力なWeb APIが標準機能で備わっていることから、ある程度プログラミングの知識があれば、簡単にブロックチェーン技術を応用したプロダクトやサービスを開始できるという。具体的な作業としては、トークン発行やマルチシグ機能などを使用するには、無償で配布されている「nanowallet」を用いてブラウザーから使いたい機能を設定し利用開始するなど、その方法についても解説をする。NEMのこれらの機能は、プロトコルレイヤーで発行されるため、セキュアであり、扱いも簡便であるという。
また、北山氏はNEMの手数料についても、その安さについてより詳細を語る。NEMの仮想通貨であるXEM(ゼム)は、送金手数料として10000XEMあたり0.05XEMだという。1XEMを10円と仮定すると、10万円を送金するのに0.5円程度であるというのだ。また、メッセージ送信は32バイトあたり0.05XEM、1回のモザイク送信が0.05XEMであるという。
NEMのトークン発行には、ネームスペースというインターネットでいうドメインのようなものが必要だが、これもまた安いという。ちなみに、ネームスペースを1件作成するには100XEM(年間)、日本円にして1000円程度。このネームスペースがトップレベルドメインになっていて、その下にサブネームスペースとして2階層持てるような構造になっているのがNEMの特徴であるとのこと。NEMのネームスペースはユニークなものであり、パブリックブロックチェーン上に取得したネームスペース名は重複不可であり、IDのようなものだとのこと。また、サブネームスペースの作成については1サブネーム10XEM(年間)であるという。こうしてNEMでは、ネームスペースのトップレベルドメインを取得し、モザイクと呼ばれるトークンを発行していくのだそうだ。
こうしたネームスペースやサブネームスペース、モザイクによるトークンの発行は、すべて前述のnanowalletより可能であり、どれもほぼ1分程度の作業で完了するという。発行した各トークンは、可分可能・不可能といった設定も可能であり、トークンを小数点以下何桁まで分かられるかといった設定もnanowalletにてできるとのこと。トークンの発行数も上限の90億から限定100トークンというような設定まで、追加発行のあるなしも選択可能であるなど、NEMのトークン発行について詳細を聞くことができた。
最後に
エンゲートのコミュニティに参加するスポーツチームは、10月20日のサービス開始時に第1弾として、サッカーの「湘南ベルマーレ」やバスケットボールの「横浜ビー・コルセアーズ」ほか、野球、フットサル、ハンドボールなど6チームのスポーツチームが紹介されたが、現在、合計12チームがコミュニティに参加、ジャンルとして新たに女子プロレスも加わる。
また、エンゲート社は同社サービス「エンゲート」を通し、日本発のサービスとして海外チームやマーケットへ導入展開し、世界中のスポーツチームや選手を支援しながら、スポーツファンに新たなスポーツの楽しみ方を提供していきたいという海外展開を目標として掲げているが、今回、エンゲートは同ワークショップ終了後の12月27日、欧米スポーツマネジメントにて活躍するプロジェクトマネージャー・中村武彦氏がGlobal Partnerに就任したことを発表する。中村氏は、欧米サッカー界におけるプロジェクトマネージメントで得た知見や人脈を生かし、エンゲートの海外事業を推進していくという。
同ワークショップにて伺った目標が、こうして記事として報告している最中にも、着実に前進していることがわかる。スポーツの世界がエンゲートによってさらに盛り上がるのはもちろんのこと、ブロックチェーン技術の新しい応用例として、トークンエコノミーの世界が現実のものになっていくこともまた、大きく期待したいところである。