イベントレポート

NEM JAPAN、日本仮想通貨ビジネス協会勉強会にて社会実装に選ばれるNEMについて解説

NEMブロックチェーンの基礎から特徴的技術やグローバルな採用事例まで多数紹介

 一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)は11月28日、協会会員向けに月例勉強会「11月度勉強会」を開催した。2部構成で行われた勉強会は、講師として第1部にアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健氏を招き「ステーブルコインの法的論点」について、第2部に一般社団法人NEM JAPAN・代表理事の古賀大喜氏を招き「増えるNEMブロックチェーンの採用 - PoCでなく、社会実装に選ばれるNEM -」について、それぞれのテーマで1時間ずつの講義を行った。

 本稿では、第2部「増えるNEMブロックチェーンの採用 - PoCでなく、社会実装に選ばれるNEM -」について報告する。

NEMについて

一般社団法人NEM JAPAN・代表理事の古賀大喜氏

 講師の古賀氏は、まもなく設立登記が受理されるという一般社団法人NEM JAPANの代表理事を務める(同28日登記完了)。講義は、NEMについてより良く知ってもらいたいと古賀氏自らが、ユースケースの紹介を中心にNEMの特徴を解説する。

NEMは多目的ブロックチェーン

 NEMは、ブロックチェーン初心者のエンジニアでもすぐに使える多目的ブロックチェーンであると古賀氏はいう。NEMにはブロックチェーンに関する強力なAPIが標準機能として備わっているため、バックグラウンドとしてある程度のプログラミングの知識があれば、NEMを使って簡単にプロダクトやサービスを開始できるという。よって開発コストも抑えられることから、実際にユースケースも多数あるそうだ。

 古賀氏はNEMの歴史についても語る。NEMは、New Economy Movementをコンセプトに掲げ立ち上がったプロジェクトで、その頭文字を取ってNEMとしている。「経済的な自由と平等」を標語に、2014年にBitcointalkフォーラムにて参加者を募り、それに賛同した有志が集まり、国際的なプロジェクトとしてスタート。現在は「The Smart Asset Blockchain」という標語を掲げ、ブロックチェーンの普及に邁進しているという。

 NEMはブロックチェーン技術の名称であり、NEMで使用される仮想通貨はXEM(ゼム)という単位で呼ばれている。その発行枚数は89億9999万9999XEMで固定されており、今後、新たなXEMの発行がないのが特徴であるとのこと。最初のXEMは、公募で集まった1600のBitcointalkフォーラムのアカウントに対して均等に販売されたという。

 その後、2016年12月にシンガポールを拠点にNEM.io Foundation(NEM.io財団)が発足され、翌年の夏頃より、NEMブロックチェーン技術に関する教育や普及活動に努めていきながら発展を続けてきた。現在は、世界各地にNEMの拠点や施設が誕生し、さらなる広がりを見せ、この11月、日本でも一般社団法人NEM JAPANの設立が決定したのだという。ちなみに、NEM.io財団は現在、22の国および地域に拠点や窓口を構えている。各地のNEM.io財団では、NEMに関する技術的なサポートやビジネス面での相談にものってくれるそうだ。

NEM.io財団、世界各地の活動拠点

グローバルな活動、グローバルな事例

 NEM.io財団は2018年5月、米ニューヨークで開催された世界最大規模の仮想通貨とブロックチェーン技術のビジネスカンファレンス「Consensus 2018」に出展し、会場の1フロアすべてを使い、NEMを使ったビジネスモデルの紹介や、NEMのスケーラビリティ等が向上や機能が拡張されるCatapult(オープンソース)について発表を行っている。

 また、NEM(XEM)の仮想通貨としての利用についても、多くの人々に使用してもらえるように、NEM.io財団は世界中の仮想通貨交換所にアプローチをかけ、NEMの上場や取り扱いってもらえる仮想通貨交換所が増えるよう、働きかけているという。

アラブ首長国連邦(UAE)の事例

 さらに直近の活動として古賀氏は、アラブ首長国連邦(UAE)のMOCD(Ministry of Community Development:コミュニティ開発省)とNEM.io財団が協定を締結したことを紹介する。完全な電子政府を目指すUAEが、技術としてNEMブロックチェーンを採用するという基本合意書にサインをしたという。

 また、マレーシアの事例としてマレーシア教育省による学位証明システム「e-Scroll」についても紹介をする。「e-Scroll」には、NEMブロックチェーンのソリューション「LuxTag」が採用されていることが報告された。アジアでは、闇市場で学位が売買されているという。そこでマレーシア教育省は虚偽の学位証明書を排除するために、学位証明書のハッシュ値をブロックチェーンに記録し、のちにその真正性の確認や検証が行えるよう「e-Scroll」に記録を行ったという。今回、11月にマレーシア国際イスラム大学(IIUM)にて博士課程を修了した200人の学生の学位を記録したことが紹介された。

 既存のポイントシステムの問題を解決するフィリピンの事例では、各ブランドが個々に発行していた複数のポイントを、共通のNEMプラットフォーム上で、NEMのmosaicトークンとして、発行、流通、管理するLoyalCoinというシステムが紹介された。LoyalCoinにより、バラバラに管理されていたポイントがスッキリとまとまり、かつ、有効期限によるポイントの失効などが防げるという、ユーザーにとって便利なサービスだという。1つのブロックチェーンで複数のトークンが発行できるNEMの特徴がいかされたサービスだと古賀氏は解説をする。

米ラスベガス「Kind Heaven」の事例

 2019年に米ラスベガスにてオープン予定のエンターテインメント施設「Kind Heaven」では、プレミア商品の真正性を証明するためにブロックチェーンを用いるという。Kind Heavenは、最先端テクノロジーとハリウッドスタイルのストーリーテリングを組み合わせた画期的なエンターテインメントで、東南アジアの文化、音楽、食べ物、ファッション、探検などエキゾチックな旅体験ができるのだという。その施設で販売を予定しているデジタルコレクター商品をNEMのブロックチェーン技術を用いて商品化し、その希少性を担保するというプロジェクトが進んでいるそうだ。

ロシアの無人エアタクシー「VIMANA」の事例

 ロシア人エンジニアが起業し飛行テストを行っている無人エアタクシー「VIMANA」は、パイロットが同乗しないVTOL AAV(Vertical Take-Off and Landing Autonomous Aerial Vehicle)と呼ばれる無人エアタクシーの分散管制システムにブロックチェーンを利用するという。システムの課題として軽くてセキュアなデータ通信の必要性が挙げられ、その解決策としてNEMブロックチェーンの暗号化署名やmosaic機能を活用するという。航空管制や目的地までの飛行を自動操縦で行う計画とのこと。

 グローバルなサービスとして、その他にも株式の小口売買サービスや、バーチャルな空間でのデジタルアセットの地理情報の発行や流通、異なるバーチャル空間をまたいでの交換・移動を可能にするサービス、トレーサビリティによるフェアトレードの証明など、それもごく一部だというが、さまざまな活用例が紹介された。

日本でのNEM

 続いて古賀氏は、日本におけるNEMの活動について解説をする。日本では、テックビューロホールディングスが提供するプライベートブロックチェーン「mijin」が有名で、NEM.io財団とは協力体制にあり、mijinとNEMのAPIには互換性がある。mijinのバージョン2であるCatapultが5月にオープンソースとして提供開始されている。

 また、国内の活動として、NEMブロックチェーンを活用したアプリの開発コンテストなどの開催、イベントにて仮想通貨NEM(XEM)の決済体験等、コミュニティ活動についても簡単に紹介が行われた。NEM JAPAN設立により、今後も積極的にコミュニティ活動を行っていきたいと古賀氏はいう。

 NEMは将来、どのような分野で活用されるかについても言及をする。ここでは、一例としてNEMブロックチェーンの一機能である「Apostille」(アポスティーユ)について紹介する。Apostilleは、簡単に文書ファイルの公証ができることから、話題となった公文書改ざん問題等を解決することができるという。Apostilleを活用し文書ファイルのハッシュ値を求めNEMブロックチェーン上に登録し、登録日時(秒単位で記録可能)、トランザクションID、登録者IDをひも付けることで、文書ファイルの監査が可能になるという。実際の文書ファイルと登録時のハッシュ値を比較することで、文書が改ざんされているかどうかについて確認が可能になる。これらは、Apostille機能によって簡単に実現することができるそうだ。

国内事例の一例

 さらに、国内におけるNEMの活用例についても併せて紹介をする。国内では、イノベーションの遅れている分野「政治」にトークンエコノミーを導入し活性化を図る政治SNS「PoliPoli」や、スポーツチームや選手をギフティングで応援をする「エンゲート」、歩数計と連動し歩くことでトークンを獲得し運動不足の解消や店舗の集客を行う「FiFiC」など、すでにサービスが公開されているNEMの活用事例についても紹介が行われた。

NEMが使われる理由

 このように非常に多くの採用事例のあるNEMだが、最後に古賀氏はその理由を簡潔にまとめた。

 まず、NEMはその導入が簡単であること。NEMは標準で用意されたAPIを活用すると、非常に簡易に短期間でブロックチェーンサービスに必要な基本機能を実装できることから、開発プロセスを簡略化できることが最大のメリットであるという。また、2015年にNEMの最初のブロックが作られて以来、ブロックチェーンプロトコルが原因でアセットの流出が起きたことは一度もないという安全性、堅牢性を紹介する。

 サービスに応じて、パブリックブロックチェーンならNEM、プライベートブロックチェーンならmijinと、APIが共通の両ブロックチェーンを使い分けられるメリットも挙げている。

NEMの技術について

NEM JAPAN・技術顧問の北山氏

 続いてNEMの技術についてNEM JAPAN・技術顧問でNEMに関するビジネスコンサルタントも行っている北山氏より解説が行われた。

 古賀氏のこれまでの解説にあったように、NEMは標準機能としてブロックチェーンに関する機能がWeb APIにて提供されていることから、通常はプログラミングが必要な機能をすべてAPIで呼び出せるため、低コストかつより早くプロダクトを実現させることができることを改めて紹介し、さらに具体的な使い方として、標準機能として提供されるトークン発行やマルチシグ機能は、無償で配布されている「nanowallet」を用いてブラウザーから使いたい機能を設定することが可能など、詳細な解説が行われた。

NEM Japanが取り組みたいこと

 そして最後は、設立されたばかりのNEM Japanが今後取り組んでいきたいことについて、報告をする。古賀氏は、これからもNEMがより多くの社会実装に活用されるブロックチェーン技術として選ばれるよう、情報の提供や教育、そしてサポート体制を整えながら、エンタープライズ用途で使われるプラットフォームとしてのNEMを目指すという。

 具体的には、エンジニア向けのセミナーや教育イベントを実施しつつ、経験豊かなブロックチェーン導入コンサルタントと技術コンサルタントによる実装のサポートなども行っていくという。また、国内においてもより多くの仮想通貨交換所にてNEMを取り扱ってもらえるよう働きかけていくとのこと。NEMに興味が沸いたら、ぜひNEM Japanに相談して欲しいという言葉で、セミナーの幕を閉じた。

高橋ピョン太