イベントレポート

「資産のトークン化とは?」資産管理におけるブロックチェーン活用の課題を語るBCCC新春対談

有識者が語り合う、法律面からみるブロックチェーンのこれから

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は1月15日、BCCC加盟企業が一堂に会する、親睦を目的としたイベント「BCCC Collaborative Day」を開催した。イベントレポート第2弾となる本稿では、「BCCC Collaborative Day」恒例の企画として行われた新春対談「法律面からみるブロックチェーンのこれから」について報告をする。

 「BCCC Collaborative Day」では有識者を招き、毎回テーマを決めた公開形式の対談が開かれる。今回は、「法律面からみるブロックチェーンのこれから」をテーマに、日本におけるFinTechやブロックチェーンの法制面の第一人者である森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の増島雅和氏と、業界でも著名なブロックチェーン技術のエキスパートであるカレンシーポート株式会社・代表取締役・CEOの杉井靖典氏を招いての対談か行われた。

「資産をトークン化する」上で大切なこと

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の増島雅和氏

 新春対談は、増島氏が「ブロックチェーンを資産管理に活用するにあたっての課題」として、資産管理についていくつかブロックチェーンに関する法律上の課題を挙げ、その解説を行っていく。杉井氏は聞き手となり、課題の再認識とそれらの解決方法について議論を重ねていくという方法で進行していく。

 「ブロックチェーンを資産管理に使うというトピックについて、杉井さんと議論をしていきたい」と口火を切った増島氏は、近頃、ブロックチェーンで{「資産を管理する」「トレーサビリティを上げていく」といったことや「資産をトークン化する」ということをよく聞くが、これらをやるときに具体的にどういうふうやっていくのか、これから話す法律面のことは、それらを社会で実装する段階でとても大事なトピックであるという。

 増島氏いわく、最近は本当によく「トークン」と言う言葉を耳にするようになったが、その「トークン」とは何のことを指しているのか、正しく理解をする必要があるというのだ。ブロックチェーンに記録される情報においては取引データのみが記載されているもので、実際にはブロックチェーン上の取引データから同一ウォレットアドレスにひも付くものを足し合わせて「残高」を出しているだけで、その残高に相当する「トークン」というもの自体は存在しない。ほとんどの方がウォレットの残高を見て、その残高が「トークン」であると錯覚しているというのだ。

 「資産をトークン化しましょう」というように「トークン」という言葉を使うのは自由だが、ブロックチェーンでは帳簿自身がガチャガチャと動いているだけで、特にアセットが動いているわけではないというのがこのトピックの大きなポイントだという、増島氏。「資産のトークン化」というのは、オフチェーンでアセットが動いた通りに帳簿が反映されるという状況を作らないとならないというのだ。

現実世界に存在するアセットの扱いの難しさ

 具体的にどういうことかというと、たとえばAさんとBさんがいて、小麦をトークン化した状況を考える。

 AはBに、小麦トークンを100引き渡し、BはAに対価として仮想通貨Ethereum(ETH)を20ETH支払ったとする。この場合、Ethereumはブロックチェーン上にしか存在しないアセットであり、この取引によってブロックチェーンの記録を更新すればAに20ETHが移転するため、特に問題はないという。しかし、小麦は現実世界に存在するアセットであるため、小麦管理ブロックチェーン上で小麦トークン100をAからBに移転しても、それによって小麦の所有権がBに移転したかどうかは、法律上はわからないというのだ。

 仮に、Aは同じ小麦をブロックチェーンの外でCに売ってしまったり、あるいは売った小麦がXに盗まれてこれをCが買った場合、それぞれ法律的には小麦の所有権はBではなくCになるという。つまりブロックチェーンの記録と実際のアセットの間で、法的な権利者がずれてしまうことになるのだとか。これは、アセットがブロックチェーン上以外にも存在するため、そうなってしまう避けられない問題だという。

 ブロックチェーンにデジタル的に記録されているのは、あくまでも取引データであり、そのデータ通りに取引が行われていることを確保されていることが前提の話であることを念頭に置かなければいけないというのが、法律上の考え方だそうだ。

カレンシーポート株式会社・代表取締役・CEOの杉井靖典氏

「帳簿の記録」と「権利の移転」について考える

 また、小麦は一例であり、ブロックチェーンを資産管理に活用するにあたっては、「帳簿の記録」と「権利の移転」をアセットごとに考えていかなければ、さまざまな問題が生じるだろうという。

既存アセットの主な類型

 たとえば、不動産や動産など物権をブロックチェーンで管理することを考える場合は、現行の物権の権利変動と帳簿の関係について考える必要があるという。

 民法では、物権は当事者間においては合意のみによって移転するとしている。ただし大切なのは、当事者間で決めた権利移転を世間にも認めてもらえるかどうかだという。不動産においては、物権の得喪および変更は、不動産の登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができないとのこと。

 これらを鑑みれば、不動産をブロックチェーンで管理するためには、究極的には登記自身をブロックチェーン化する必要があるとのこと。少なくとも、登記の内容をブロックチェーンでリアルタイムに反映できるよう、登記情報をAPI等で参照できる仕組みが必要だろうという。

 動産においては、物権の譲渡は、その動産の引き渡しがなければ第三者に対抗することはできないという。また、代理人によって物権を占有する場合においては、本人がその代理人に対して、以後は第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する、としている。

 これらを鑑みて、動産を管理する場合は、代理占有の仕組みを用いて管理者に動産を管理させ、占有移転の指図と占有代理人の承諾をブロックチェーン上で記録することで、動産の権利変動はブロックチェーン帳簿上で対世効(判決の効力が当事者だけではなく、第三者にもおよぶこと)を持つように設計できるだろうという。

 このようにトークンによる資産管理については、アセットの性質により法律が異なることから、アセットの類型ごとに、それらを明らかにしていかなければならないのだという。しかしながら、法律面においては、まだそこまでしっかりと考えられていないのが現状であると、両氏は語る。

法律における解釈とトークン化可能な資産

 仮想通貨の帰属と移転についての私法上のロジックは、仮想通貨は債務免責力という価値的機能を本質に持つ支払い単位であり、ブロックチェーン上の電子記録と切り離して存在し得ないものであるという。つまり、仮想通貨におけるブロックチェーン上の電子記録は、記録そのものに価値があるのではなく、支払い単位として権能に価値があるのだという。

 また、仮想通貨という支払い単位の移転は、秘密鍵を事実上支配している者のみが行うことができ、分散的に実行される正当性承認を経たブロックへの記録によって完了する点で、ブロックチェーン上の電子記録と切り離して認識し得ないものであるとのこと。

 これらのロジックは、法律として語るととたんに難しい表現になるが、要するに仮想通貨は、アドレスにひも付く秘密鍵の保持者が、仮想通貨の残高を一体的に保持し、記録の更新により移転することができるとしている。これは、銀行預金とまったく同様であり、預金を引き出す権利は、法律的な解釈では口座の開設者ではなく、通帳と印鑑、もしくはキャッシュカードと暗証番号を知る者が、預金を引き出すことができる者と解釈することと同じだという。

 それについて杉井氏は、マルチシグのように複数人で秘密鍵を管理する場合はどうなのかという質問を投げかけるが、増島氏は法律では複数人の誰がという問題ではなく、あくまでもその複数人の中での関係性、支配力によって決定される秘密鍵を支配できる者を指しているという。その関係性における権利・権限などは、また別軸の話だという。実際の権利や権限まで話を広げてしまうと複雑になってしまうので、この点においての法律上の権利者を定義すると、前述のようなことになるということを付け足した。

 こういった仮想通貨の私法上のロジックを鑑みれば、ブロックチェーン外にアセットが存在しない、契約の裏付けなくコードのみで分配まで行われるデジタルアセットについては、仮想通貨のロジックと同様に考えることができるものも多くあるだろうという。

 たとえば、デジタルサービスへのアクセス権として機能するユーティリティトークンについては、トークンの交付によりサービス対価の支払債務を免責するものであることから、仮想通貨と同等のロジックで考えることができるという。

 ICO等のセキュリティトークンについては、有価証券として位置づけられる可能性のあるトークンもあることから一概にこうだという意見を述べるのは難しいが、法律や契約によって創出されたものではなく、コードのみによって創出されたデジタルによるネイティブなセキュリティトークン、具体的に言うとコードによる収益分配などは、帰属や移転のロジックは仮想通貨と同じであろうとのこと。これらについては、仮想通貨と同様、ブロックチェーン上の記録通りに帰属や移転は認められるという。

まとめとして

 このようにブロックチェーンを資産管理に活用するにあたっては、技術面のみならず、法律面においても考えていかなければならないことは山積みであると増島氏は語った。資産をトークン化するという言葉の先には、ユーティリティトークン、セキュリティトークン、そして既存アセットのトークン化など、さまざまな類型があり、「帳簿の記録」と「権利の移転」についてもそれぞれに関係する法律があることから、今後は、しっかりと議論していかなければならないだろうという結論となった。増島氏いわく、これらはあくまでも私の解釈だが、この問題については避けて通れないので、より多くの人と議論していきたいとのことだった。2019年は、ブロックチェーンの発展とともに、ブロックチェーン業界のみならず、あらゆる分野、業種を捲きこみ、より有意義な議論が行われていく年になることを予感させる対談となった。

高橋ピョン太