イベントレポート
ゲームメディアにトークンエコノミーを導入、mijinブロックチェーンでシステム構築
「インサイド」「Game*Spark」でトークンを活用しゲームに対する熱量を可視化
2018年9月18日 10:59
「トークンエコノミーの創造」をミッションに掲げるテックビューロホールディングス株式会社は9月12日、「第4回プライベートブロックチェーンmijin活用セミナー」を開催した。同社のプライベートブロックチェーン製品「mijin」を活用した事例を紹介するセミナーは、自社サービスにブロックチェーンを活用したい企業向けに「mijin」導入企業自らが実践的な内容を解説する定期開催セミナーである。
「mijin」は仮想通貨NEMと共通の技術を用いたプライベート型ブロックチェーン技術だ。テックビューロホールディングスがNEMのコア開発者らを迎え入れて開発を進めてきたもの。パブリック型ブロックチェーンよりも高速に動作させることができ、NEMと共通の機能を備える。なお、mijinに関する詳細記事はINTERNET Watchの2018年2月27日付け記事「NEM(ネム)をもとにした『mijin』ブロックチェーンが作る今と未来」が参考になる。
Webメディアにおけるトークンエコノミー
開催4回目となる今回の活用セミナーでは、株式会社イードのメディア事業本部本部長・土本学氏とゲーム事業部部長・宮崎紘輔氏を講師として招き、「ウェブメディアにおけるトークンエコノミーの導入、ゲームメディアの事例」をテーマに、イードが「mijin」を導入し取組んでいるプロジェクト「GameDays」についての事例を紹介した。
イードは、IT・ビジネスニュース「RBB TODAY」や総合自動車ニュースサイト「レスポンス」を始めとする、20以上の多岐にわたるジャンルをテーマにWeb中心のメディア事業を展開する。総合Webメディアを運営するメディア事業本部本部長の土本氏は、テクノロジーが日々変化し続けるインターネットのメディアにおいて、常々マネタイズの難しさを痛感しているという。現在のWebメディアの多くは、よりページビューを稼ぐ努力をして集客した読者に広告を提供する、いわゆるPV/広告モデルがほとんどだが、そこにメディアの限界を感じていると土本氏はいう。
また、イードはWebメディアとしては古株であることから、時代の流れであるメディアの動画化やアプリ化などに乗り遅れた感もあると、自社メディアを分析する。そんな中で総合メディアであるイードは、2月に「仮想通貨の先生」という仮想通貨関連のメディアを立ち上げたという。そこで土本氏が感じたのは、仮想通貨は投資対象としてだけではなく、それ以外のものにもつながっていくのではないかということに気づき、特にトークンエコノミーに興味を持つようになったという。
土本氏はPV/広告モデルに限界を感じていたこともあり、すぐにメディアとトークンエコノミーがつながらないかという検討に入り、まずはトークンと相性の良さそうな同社のゲーム情報サイト「インサイド」と「Game*Spark」を組み合わせて、考えてみることにしたという。また、それと同時期に「仮想通貨の先生」の取材で参加したイベントで「mijin」に出会い、興味を持ち、トークンエコノミーとメディアの関係についてその場でテックビューロに相談をしたということを明かした。
「GameDays構想」を考案
ゲーム事業部部長の宮崎紘輔氏は、「インサイド」と「Game*Spark」をベースにした構想を考案する。早速、「ゲームを遊ぶことが価値になる社会」の実現に向けたプロジェクト「GameDays」を立ち上げたという。「GameDays」では、ゲームに関するさまざまなデジタルアセットを「mijin」でトークン化して可視化し、ゲームを遊んだユーザーが得をするゲーム業界におけるトークンエコノミーの構築を目指すというのだ。サービスイメージとしては、「GameDays」の中核となるスマートフォン向けアプリをリリースし、アプリを使ってトークンを発行し、自社メディアと連動をさせるという。
コンセプトはゲームに対する熱量の価値化
「GameDays」のコンセプトは、ゲームに対する熱量の価値化だ。ゲームをプレイした時間やそのゲームがどれだけ好きかなど、これまで一感想レベルでしかなかったものに価値を与え、その熱量を可視化していく。プレイ時間のほかにも、ゲームの記事に対するリアクション(コメントなど)にトークンを発行したり、記事を書くライターに対しても原稿料のほかにいい記事には読者がトークンを使って投げ銭をするなど、あらゆるものを評価し、価値を付けていくという。単なる情報を伝えるだけのメディアではなく、ゲームで遊んでいる人、ゲームを紹介する人、ゲームを開発する人などを対象に、これまで価値として伝えにくかったものを、トークンエコノミーによって価値を付け、ゲームに対する熱量を可視化する世界が作れるだろうという。
プロジェクト「GameDays」では、まずはユーザーがゲームをプレイした時間に応じてトークンを付与するほか、ゲームの購入や、情報をシェアするといった行動にもトークンを付与していくという。発行するトークンは「Super Gamers Coin」と「Super Gamers XP」の2種類を予定している。
「SuperGamersCoin」はユーザーがさまざまなシチュエーションで利用可能なトークンで、貯めることによってサイト内の特典コンテンツ(トークン限定の特典マンガや映像を提供)が見られたり、将来的には、トークンでゲームの購入やゲーム内アイテムと交換などができることも視野に入れているという。また、一方の「Super Gamers XP」はゲームでいう経験値のようなもので、ユーザーがどれだけゲームに愛情を注ぎ込んできたかを可視化するトークンとして利用されるとのこと。いずれのトークンも有償での販売や、法定通貨や他のトークンとの交換を実施する予定はなく、あくまでも「GameDays」プロジェクトでのみ使用可能な投資目的ではないトークンであると宮崎氏は語る。
「GameDays」アプリはまもなくリリース予定とのことだが、リリース前に開発秘話を聞くことができた。今回のプロジェクトでは、「mijin」を導入することでブロックチェーンを一から開発する必要がないことが大きなメリットであるという。「mijin」では、トークンの発行や取引など各機能をすべてAPIで提供されているため、エンジニアはブロックチェーンに関する開発をGET、POSTのみで作成ができるので、かなり開発負荷を下げることができたという。独自トークンもNEMのモザイクで作ることができるので、簡単だったという。逆に、どういうトークンを設計するかあらかじめの構想が大事になるとのこと。また、開発する際に「mijin」の中身を理解する必要がないという点も楽だったという言葉も印象的だった。
「GameDays」システムの構成についても触れた。「GameDays」は、イードBC(ブロックチェーン)と呼んでいる部分と「mijin」の組み合わせで構成されており、ユーザー管理の部分をイードBCで行いユーザーとウォレットをひも付けるが、イードBCと「mijin」のアクセスは、外部からのアクセスができないような方法でセキュリティをあげているとのこと。ちなみに「mijin」のノードは、現在5台ほど用意しているそうだ。
まもなくアプリがリリースされる「GameDays」では、最初はパソコンゲームのプラットフォームである「Steam」のAPIを利用してパソコンゲームのプレイ情報を集めるところから始めるそうだ。対象となるゲームについては、実はハードやゲームジャンルにこだわりはないという。どういったプレイ情報が収集できるかは、パソコン、スマホ、ゲーム機を問わず、今後の環境次第とのこと(賛同してくれる相手次第)。また、まだ具体的な話はないが、競合である他メディアとも連携をして、より大きな経済圏を目指したいそうだ。
トークンエコノミーの未来像
最後に土本氏と宮崎氏は、ゲームメディアにおけるトークンエコノミーの未来像についても語った。将来、「モンスターハンター」のようなゲームでみんなと狩りをして、その働きによって得たトークンで他のゲームのアイテムが買えたり、またゲームをプレイすることで電気代が払えたりなど、ゲームを真剣にプレイすることが社会的な価値につながるような未来ができたらうれしいなぁと、楽しそうに語ってくれた。「僕らがそうなれるかはさておき、そういう将来は面白い」と、あくまでも夢の話であると語りつつも、「メディアと流通、ユーザーがトークンエコノミーでつながったら、絶対に面白くなる」という言葉に自信を垣間見ることができた。
ある種の価値観をトークンエコノミーで可視化することで、お金には換算できない価値が世の中にはたくさんあることに気がつくだろうと、土本氏はいう。これからのメディアは、コミュニティ内のそういった価値を可視化していくことが大切ではないかという。また、イードは、そういった価値を大切にするためにも、仮想通貨交換所と類されるようなトークンエコノミーはやらないことも断言をした。ゲームの世界で、まずは新しいメディアの第一歩としてトークンエコノミーを機能させていきたいと締めくくり、セミナーは修了した。