イベントレポート
既存の教育概念や課題解決にインパクトを与えるアイデアが続出。最終審査と結果発表
経済産業省開催「ブロックチェーンハッカソン2019」レポート後編
2019年3月13日 06:30
経済産業省は2019年2月9日、2月16日、17日の3日間でブロックチェーンの教育利用を考える「ブロックチェーンハッカソン2019」を開催した。初日は、オープンニングイベントやワークショップが行われ、その様子は前編でも紹介した通りだ。
後編の本稿では、最終日に行われたハッカソンの結果発表をレポートする。教育分野においてブロックチェーン技術はどのような可能性があるのか。最終審査に残ったチームを紹介しよう。
参加22チームの中から、4チームが受賞
ブロックチェーンの教育利用を考える「ブロックチェーンハッカソン2019」は、一般募集で集まった個人やグループなど98名が参加し、22チームに分かれて競い合った。与えられたテーマは「学位・履修・職歴証明」と「研究データ管理」の2つで、チームによって、そのどちらかを選ぶ。第1次審査(審査は非公開)を通過した12チームが最終審査に進み、最終日はこれらのチームがプレゼンを行った。今回のハッカソンで審査員を務めたメンバーについては、こちらを参照。
最終審査はプレゼン7分、質疑応答3分の形式で行われ、各チームは制限時間内で自ら考案したアイデアを説明し、ブロックチェーンを活用したデモ画面も披露した。最終審査はどのチームも非常にハイレベルな内容であったが、受賞したのは下記の4チームという結果になった。
<最優秀賞>
・学位・履修・職歴証明部門
チーム名:DigiD
発表内容:学位や在学期間のポートフォリオを一括管理するシステム
・研究データ管理部門
チーム名:egateam
発表内容:臨床研究の解析アウトソーシング分散プラットフォーム
<優秀賞>
学位・履修・職歴証明部門より
チーム名:OVP
発表内容:オープン型資格・履修履歴プラットフォーム(OpenVerifiablePlatform)
<アーリーエッジ賞>
研究データ部門より
チーム名:AuthorizedMoment
発表内容:研究の信憑性を担保し、世界中の研究者が継続利用可能なドローンプラットフォーム「ソラノメ」
では、受賞した4チームの内容を詳しく見ていこう。
組織から学習者へ、学位や学習履歴を学習者が管理できる世の中へ
学位・履修・職歴証明部門で最優秀賞に輝いたのは、デジタルハリウッド大学院とBlockBaseのメンバーで構成されたチームDigiDだ。同チームはデジタルアイデンティティをテーマにし、学位や在学期間のポートフォリオを一括管理するシステム「DigiD」を合同企画として発表した。
DigiDがめざしたのは、これまで組織に管理されていた学習者(ユーザー)のアイデンティティを、学習者主導の管理へ転換することだ。これは実際に、デジタルハリウッド大学院での運用を視野に入れた構想で、学生が在学期間中に受賞したコンペ履歴や作品のポートフォリオなど、自分で学習履歴を管理できるシステムをブロックチェーンで構築しようというのだ。学生が単位取得履歴や学歴、作品の受賞歴、ポートフォリオなどを一元的に管理できれば、クリエイターとして個人の価値を高めることができるとの考えが起因となっている。
DigiDの全体モデルとしては、大学が発行した学位などの認証情報をブロックチェーンに書き込んでいくのだが、特徴的なことはユーザーの公開鍵を使って暗号化された情報のみを記録すること。つまり、ユーザーの許可がなければ大学は証明書などを発行することができない。もちろん、すべての情報にアクセスできるのはユーザーのみであり、学生は学位などの管理をスマートフォンのアプリケーション画面で操作する。
DigiDのチームは、同システムをデジタルハリウッド大学院で運用するにあたり、そのポイントとなる部分や課題についても述べた。最初からいきなりDigiDに置き換えるのはむずかしく、学位の証明などについては今のやり方と併用しながら、誰が、いつ、どのような形でDigiDを使って承認していくのか、ルール化や監査の必要があるという。公開鍵をアイデンティティにし、学校で何を学んできたか、学習者が自分で管理できるシステムをめざしたいと発表を締めくくった。
第三者がデータ検証に関わり、報酬を受け取るプラットフォーム
研究データ管理の部門で最優秀賞を受賞したのは、チーム名egateamが発表した「臨床研究の解析アウトソーシング分散プラットフォーム」だ。同チームは、臨床試験における研究データの検証作業をブロックチェーン上で行うプラットフォームを構築した。
そもそも臨床試験とはなにか。大きくは臨床研究の括りに入るが、治療の有効性や安全性を検証することが目的となる。この領域では昨今、臨床試験の論文掲載後に解析結果の信頼性が疑われ撤回された事例や、臨床試験の質が疑われる事例が多数発生しているという。
同チームはこうした課題解決に向けて、ブロックチェーンを用いて第三者が解析過程を検証できるようにし、解析の人為的ミスや不正を防ぐ管理体制を構築した。具体的には解析工程の依頼内容をブロックチェーンに公開し、ネットワーク参加者が解析の検証作業を行い、その報酬としてトークンを受け取る仕組みだ。
同チームはこのプラットフォームの利用価値について、「解析を分散化することで不正が起こりにくい」「法人契約なしにフレキシブルに依頼ができる。しかも24時間稼働」「解析プログラマの新たな報酬体系を構築し、空いているプログラマリソースも有効活用できる」といった点を挙げた。今後は解析計画とデータがあれば解析関連の実作業をすべて同プラットフォームに丸投げできるような仕組みへ発展させていく考えだ。
アイデアとブロックチェーンの可能性が広がる優秀賞・アーリーエッジ賞
優秀賞は、学位・履修・職歴証明の部門からチームOVPが選ばれた。同チームが発表したのは、国家資格や民間資格などを連携して検証し、時代に即した形で評価をする「オープン型資格・履修検証プラットフォーム(Open Verifiable Platform)」だ。
現在の国家資格や民間資格は、それぞれの資格の価値が分かりづらい。本当に必要とされている資格なのか。時代に合っているものなのかなど検証する仕組みもない。また逆に、必要とされている資格であっても、そのニーズを引き出せていないケースもある。そこで同プラットフォームでは、あらゆる国家資格や民間資格を連携させ、国・民間・第三者機関による評価を加えて、時代に即した形で「準公的」な資格へ認証させる仕組みを提案した。
ポイントとなるのは、資格をどう評価するかだ。同プラットフォームでは、アイデンティファイ用のメタデータとレピュテーションをリンクさせ、利用者自身が資格を評価できる仕組みも内蔵した。また国家や第三者機関による公的認証をブロックチェーン上で行えるようにもした。電子書籍やeラーニングなど、あらゆる学習履歴や資格とさまざまな資格認定者の評価を関連付けることで、個人を広い観点で評価できる仕組みを作った。
アーリーエッジ賞を受賞したのは、チーム名AuthorizedMomentが発表した研究の信頼性を担保するドローンプラットフォーム「ソラノメ」だ。
同チームは、研究機関による画像の合成や改ざん問題が後を経たないことから、自動操縦のドローンを飛ばし、研究状況を画像・動画で公開するシステムを開発した。その画像が本当に、その日に、その場所で、その人が撮影したものなのか。人が関わる限り、その疑いはつきまとうため、自動操縦のドローンを用いる方法で研究状況を撮影することにした。撮影したデータは、リアルタイムでブロックチェーンに保管され、誰もが見ることが可能だという。絶対的な信用を得ることができる研究を創出したいと同チームはアピールした。
受賞を逃したチームも紹介!
独創的なアイデアが満載のブロックチェーン×教育の世界。
ここまでは受賞した4チームを紹介したが、最終審査に残りつつも、惜しくも受賞を逃したチームも紹介しよう。
【学位・履修・職歴証明部門】