イベントレポート
DAppsゲームに必要なのはゲームの面白さ。「記憶虫」開発者が思うゲームのこれから
FLOCブロックチェーン大学校特別セミナーレポート第2弾
2019年3月25日 06:00
ブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」を運営する株式会社FLOCは3月14日、東京・丸の内vacansにてFLOC特別セミナー「ゲーム領域におけるブロックチェーン実装の最前線講義」を開催した。本稿は、「ブロックチェーンゲーム業界有識者が語る、ゲーム領域におけるブロックチェーン実装の最前線」に続くイベントレポート第2弾として、3部構成で行われたトークセッションの第2部を報告する。
今回のFLOC特別セミナーは、ブロックチェーン技術の応用先として注目されるゲーム業界の実情を、ブロックチェーンゲームを開発する業界のトップランナー3名が語るトークイベント。第2部は、デジタル昆虫を虫相撲で戦わせる「記憶虫」を開発するブロックチェーンゲーム企画・開発者の大塚雄矢氏が、「今後のゲーム×ブロックチェーン業界の予想」をテーマにトークセッションを行った。
自己紹介から
モバイルゲームを運営するコロプラを今年の1月に退職したという大塚氏は、現在、フリーでブロックチェーンゲーム「記憶虫」をグループで開発中だという。今日は、コロプラ時代にモバイルゲームのディレクションや運用に携わった経験とブロックチェーンゲームを企画する現在の状況から、ブロックチェーンゲームのこれからについて語り、最後に大塚氏グループが開発中のゲームについて紹介するという。
大塚氏は、会場に参加する初心者に向けて、まずは「ブロックチェーン」についての解説をする。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、データの取引記録をユーザー同士が管理できるシステムだと説明をする大塚氏。これまでのシステムは、組織が仲介者となり取引を担保するものであるという。ブロックチェーンは、これまでのシステムと違い革新的であるとのこと。その革新性の1つは、耐改ざん性により取引の証明が行えること。個人間の取引をフロックチェーンに記録することで、その取引自体を保証することが可能になったことが革新的であるという。また、ブロックチェーンにより「デジタル情報」が確かに存在することが証明できるようになり、デジタル情報に資産的な可能性・価値が生まれたという。この2点が、ブロックチェーンの革新性であるという。
大塚氏はブロックチェーンの代表としてBitcoinとEthereumを例に挙げた。仮想通貨をブロックチェーンの活用事例の1つとして紹介する。そして、Bitcoinは「決済」を主にしたシステムであり、ブロックチェーン上で送金情報のやり取りを記録するものだという。Ethereumは、分散型アプリ(DApps)作成のプラットフォームであり、ブロックチェーン上で「スマートコントラクト」と呼ばれるプログラムに書かれた処理を自動で実行・記録するものだと端的に両者を紹介する。このDAppsが、ゲームとの親和性が高く注目を集めているという。
Ethereumの「スマートコントラクト」とは、プログラムによって記述された契約に対して条件を満たした場合、自動的に取引が行われる仕組みであると解説をする大塚氏。スマートコントラクトは、デジタルで表現された価値をプログラムを通して移転可能にするものであり、それがゲーム内のアセットに応用が可能だという。
大塚氏はゲームの応用例として、Ethereumのスマートコントラクト規格「ERC-721」を紹介する。ERC-721は、ノンファンジブルトークン(NFT)を発行できる規格であるという。NFTというのは、発行されるトークンそれぞれに固有の性質や希少性を持たせることができるため、世界に1つしかないアイテム等をブロックチェーンで管理ができるようになるという。これが特にゲームに向いているとのこと。
ブロックチェーンには、デジタル情報に有意性があればどんなものにも価値を付けられるという面があり、ブロックチェーンゲームは「遊び」にそれを応用することができるといというのだ。すなわちデジタルによる価値は、ゲーム内アセットとの親和性が高いという。例えば収集という状況においては希少性の高いものに価値が付き、競争という状況においては環境に有利なものに価値が付くので、ゲーム内アセットにそのような価値を付け、ブロックチェーンにて管理をすることで価値の移転がユーザー間で可能になるという。ブロックチェーンにより、ゲーム内のアセットをユーザー同士が取引をすることで、アセットの交換、価値の移転をベースにした「遊び」が表現できるというのだ。
ゲーム内アセットに現実的な価値が付く可能性としては、すでに日本で取引されたブロックチェーンゲームの事例として、とあるゲームのアイテム(手に入れた人が運営できるゲーム環境)が500ETH(日本円にして750万円相当)で取引された事例があるという。またブロックチェーンゲームはお金が絡むことで、ユーザーが価値変動するアセットで儲けることなどを意識し、課金への動機がより強くなり、キャラクターやアイテムをより販売しやすい状況が作れるだろうとのこと。そういった状況は、今後のゲームの世界を変えていくものになると、大塚氏は解説する。
ブロックチェーンゲームの注意点
大塚氏は、ブロックチェーンゲームがもたらす新しいゲームでは、法律やマネタイズの面で注意が必要であることを同時に報告する。
ゲームにおけるアセットは、法律上1つ1つに固有の価値、つまりNFTである必要があるという。アセットがNFTでない場合、それは仮想通貨と同等の価値を持つアセットとみなされ、ゲーム内アセットは第二仮想通貨と判断され、それらを交換するには仮想通貨交換業者のライセンスが必要になってしまうので注意が必要とのこと。
またマネタイズの方法についても注意が必要であるという。たとえばソーシャルゲームでおなじみのガチャシステムを、仮想通貨を使って課金できるガチャにしてしまうと、アセットによって異なる価値が手に入れられる行為が賭博罪になる恐れもあるという。なぜならばソーシャルゲームと違い、ガチャで手に入れたデジタルアセットは価値を持ち、取引可能なもの、換金可能なものなってしまうからだ。うっかり従来のゲームのようにアセットを取り扱うと、さまざまな法律に抵触してしまう可能性があるので、そこは慎重に考える必要があるだろうとのことだった。
ブロックチェーンゲームの課題
ブロックチェーンゲームは面白そう、儲かるかもしれないという話の一方で、まだまだブロックチェーンゲームには課題も多いという大塚氏。ブロックチェーンゲームは、現状、UX(ユーザーエクスペリエンス)が非常に悪いという。もっともUXについては時間と共に技術が解決するものと予想しているとのこと。また、投機的な一面ばかり目立っていることも課題だという。ゲームとして公開する以上は、まずはゲームとして面白くあるべきだという。前述のマネタイズが難しい部分も課題の1つであるという。ここはより練られたゲーム設計が必要だろうとのこと。
課題の延長線上として大塚氏は、開発者として携わっていく中で個人的に、結構、技術にとらわれてしまうことを実感したという。ブロックチェーンゲームとして面白さを追及する際には、技術にとらわれないようにすることが大切だという。ある課題を解消するためにブロックチェーンを利用する、または今までできなかったことを実現するために技術を用いるという動機を忘れないようにすることだと大塚氏はまとめた。
開発中のゲームについて
最後に大塚氏は、現在、グループで開発中のブロックチェーンゲームを紹介する。大塚氏は、ここまで語ってきたブロックチェーンゲームの注意点や課題解決を考えながら、息の合う仲間で一丸となってゲームを開発しているという。その一部を、今回は紹介してくれた。
現在開発中のブロックチェーンゲーム「記憶虫」は、まずモチーフとして誰でも分かるものを採用しようということで「カブトムシ」を選んだという(クワガタも存在)。しかし虫は人によっては嫌いだという人もいることを配慮し、生々しさを軽減させるためポップでかわいらしさを表現できるようボクセルを採用したという。そしてフロックチェーンの世界観とひも付けても違和感がないデジタル感を出したいということから、カブトムシを「8ビットの容量を持ったデジタルなムシ」にしたというのだ。そこにゲーム的な要素を足し、8ビットの容量に「スキル」を記憶できる、そんな世界観を設計したそうだ。
以上が、大塚氏によるトークセッションのすべてとなる。大塚氏のゲーム紹介で俄然プレイしたくなった筆者は、この後、β版として公開中の「記憶虫」について調べてみので、ゲームについてもう少し紹介したいと思う。
β版の「記憶虫」
ゲームのシステムは、育てたムシ同士を虫相撲(ジャンケン)で戦わせるゲームだ。ムシたちの大好物はハチミツとプログラムで、プログラムを与えることで成長し、スキルを記憶していく。記憶虫の行動や特性は、この記憶したプログラムによって変化するという。プログラムはチップに保存され、電脳世界のいたる所に散らばっているのだとか。チップの中身は、攻撃に特化したものや、補助的な効果を持つものなど、その種類は多岐に渡る。これらを集め(購入)、「記憶虫」にチップを記憶させる(インストール)ことで、さまざまなタイプの「記憶虫」を作り上げることができるのが「記憶虫」のベースになっている。
スキルを記憶させた「記憶虫」は、土俵となる切り株にて相撲(ジャンケン)をするという対戦モードになるのだが、現在はランダムで選ばれたNPCムシ(ノンプレイヤーキャラクターのムシ)を相手に対戦が可能とのこと。ここまでをβ版としてPC向けWebブラウザゲームとして、1月より公開中だ。この先、「記憶虫」の育成とユーザー同士の対戦モードの追加を予定しており、それぞれ鋭意開発中であるとのこと。
ちなみにゲームで遊ぶには、Webブラウザ(Chrome推奨)とプラグインウォレットのMetaMask、そしてEthereumが必要になる。このあたりの環境が、大塚氏のいうブロックチェーンゲームのUXの悪さだろう。現状は、Webブラウザで仮想通貨を扱うにはMetaMaskのようなプラグインが必須であることと、自前で仮想通貨を調達するのはやむを得ないのが実情だろう。しかし「記憶虫」は、確かにこれまでのブロックチェーンゲームとは異なり、投機的な面よりも、よりゲームらしい部分にブロックチェーンが使われている印象を感じることも伝えておきたい。