イベントレポート

仮想通貨系ベンダーの経験値は大手ベンダーの技術力にも引けを取らない

ガートナーのアナリスト鈴木氏が語るブロックチェーンの今と未来

ガートナー ジャパン・バイスプレジデント兼アナリストの鈴木雅喜氏

 ガートナー ジャパン株式会社(以下、ガートナー)は4月23日から25日にかけて、「ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス」を東京都内にて開催した。同社はガートナーサミットと銘打って、IT企業の意思決定権者向けに、同社が収集した知見の共有と参加企業の交流を目的としたイベントを定期開催している。

 3日間にわたって多数のセミナーが開催された同イベントから、今回は最終日の早朝、ガートナー ジャパン・バイスプレジデント兼アナリストの鈴木雅喜氏による講演「ブロックチェーンの真実:その現実と未来」についてお伝えする。

ガートナー鈴木雅喜氏講演、ブロックチェーンの真実:その現実と未来

 ガートナーの鈴木氏がブロックチェーンについて、そのユースケースの現状や今後の予想などを、同社の調査・分析結果を基に論じた。鈴木氏はITのユーザーとベンダー双方から知見を収集し、21年間にわたって数々の企業にコンサルティングを実施してきた。直近では、同社は国内企業に対してブロックチェーンに関する意識調査(関連記事)を実施しており、鈴木氏が分析を行っている。

 ガートナーの調査結果として有名なものに「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」がある。ブロックチェーンはIoTやAIと共に、同社の定義する「幻滅期」を迎えつつある技術とされる。「幻滅期」とは、技術に対する正しい認識が進む時期と言い換えられる。

 同社が行った国内企業のブロックチェーンに関する意識調査では、ブロックチェーン技術の実証実験に取り組む企業が減少する一方で、ブロックチェーンそのものに対する認知度の拡大が見られたという。こういった調査結果もまた、「幻滅期」を示すものとなる。

日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年(ガートナー「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」より引用、2018年10月)

現在におけるブロックチェーンのビジネスへの適用状況

 ブロックチェーン技術の大規模な適用、とりわけビジネス領域では、それがまだ実現していない。故に最適な手法(ベストプラクティス)が確立されていないというのが現状だ。そこには、技術がまだ安定化していないことに起因して、コストの増大などさまざまな要因があるという。

 ブロックチェーンが持つ利点を分類し、各ビジネスの分野で実証実験として実施されている状況を、米ガートナーが調査した。グローバルでのデータとなるが、日本語訳したものを鈴木氏が示す。横軸を合算して100%となる下図は、各ビジネス領域において実施されたブロックチェーン適用の実証実験の目的を示す。

各業界に広がるブロックチェーン応用への取組み (世界)(出典:ガートナー、2019年4月/「Blockchain Trials Across Industries Show a Market in Transition」、2018年3月)

 縦軸のヘルスケア・保険に注目すると半分以上の実証実験が「記録の共同保存」を目当てに実施されていることが分かる。このように割合が大きく偏っているものは、適用すべきブロックチェーンの持つ利点が明確な分野と言える。記録系では小規模ではあるものの、国内でも複数の実証実験が進められているという。

 また、縦軸に注目すると、ブロックチェーン技術の中で活用される要素の傾向が見えてくる。異なる企業間で同じデータベースを持てるようにする「記録の共同保存」は、さまざま分野から広く注目されていることが分かる。また、トレーサビリティを活用する「資産の履歴」は輸送業が特に注力しているが、他の分野からも一定の注目を集めている。

 ブロックチェーンの持つさまざまな利点について、各業界が注目する中、その本質とも言える「非中央集権化」という特性は、一部しか活用されていない。各所でさまざまな取り組みがなされているが、その規模がまだ小さく、非中央集権化のメリットを100%生かせていないからだ。現在はビジネスへブロックチェーンを活用した大規模な成功事例はまだないものの、この先1年のブロックチェーン技術の進歩によって、大規模な成功事例が現われてくると鈴木氏は予想した。

日本のITリーダーはブロックチェーン技術にどう向き合うべきか

 「新しいテクノロジ群の一角を占めるブロックチェーンへの理解や試行を進めようとしないIT部門のほとんどが、2021年までに自社のデジタル・ビジネスに向けた活動をリードできない状況に陥る」と鈴木氏は述べる。ITビジネスにおいては、特定の技術だけでなく、広範な新技術を網羅して課題の解決に取り組まなければならない。ビジネスの将来を大きく変える可能性を持つブロックチェーンを、その選択肢から除外してしまうと立ち行かないということだ。

 ブロックチェーンをビジネスに活用する手段として視野に入れながらも、それだけに注力してはならないと鈴木氏は言う。新規ビジネスを検討する場合は、まずビジネス側の目標を定め、ブロックチェーンの他にも既存技術を含めた選択肢が多数ある状態から検討を始めるとよいとした。ブロックチェーンをすぐさまビジネスの中核に据えるのではなく、最新の動向を見守りながら、小さな規模で実証実験を重ねる。粘り強く取り組んでいくのが当面の向き合い方になるという。

 他方、ITビジネスにブロックチェーンを取り入れる最短経路として、近年ブロックチェーンのソリューションを提供するベンダーが現われ始めた。ガートナーは2019年2月に実施した国内企業のブロックチェーンに関する意識調査にて、「今後協業を進めたい/使いたいと思われるベンダー」についてアンケートを実施した。

どのベンダーの力を借りるべきか(出典:ガートナー、2019年4月)

 回答には、サポートまで含めたベンダーとクラウド・プロバイダーの両者が混在している。上位にはNTTデータ、Amazon、IBMといった有名企業の名が並んだ。鈴木氏は、どの企業もスタートラインに立ったばかりと言えるので、その力関係は定まっていないとした。

 また、アンケート結果には表れていない、比較的ビジネス規模の小さいところにも注目すべき企業があるとした。鈴木氏がその例に取り上げたのはbitFlyerとテックビューロホールディングスだ。これらの企業は仮想通貨のプロバイダーとして知見を蓄えている。ブロックチェーンの運用上のリスクや、そこに施すべきセキュリティを、経験をもって得ているため、ベンダーとしての力も折り紙付きだという。

 鈴木氏が仮想通貨系ベンダーとして取り上げたbitFlyerは独自のプライベート型ブロックチェーン「miyabi」を開発・提供している。テックビューロホールディングスは、NEMをベースとした独自のプライベート型ブロックチェーン「mijin」を開発・提供している。

まとめ

 IT企業は、ブロックチェーンについて、まずは理解度を高める必要がある。その最新の動向を探りながら、必要な場面で導入に動けるような土台作りが重要になるのだ。そういった調査コストを削減するために、ガートナーのような調査会社を活用することも一つの手だという。

 実際のビジネスへの導入を検討する段階では、何もかもブロックチェーンで置き換えようとしてはならない。従来型のシステムを含めて検討し、ビジネスの目標達成に主眼を置いて取り組むべしとして、鈴木氏は講演をまとめた。

日下 弘樹