イベントレポート
SBIアートオークション、美術品落札者にブロックチェーン証明書を発行
スタートバーンとの共同プロジェクトが本格的始動
2019年5月7日 06:00
スタートバーン株式会社とSBIアートオークション株式会社は、ブロックチェーン技術を応用したアート作品に関する所有権等の証明を行う共同プロジェクトを開始した。美術品オークション市場の活性化を目指し、2019年4月のSBIアートオークション主催「Modern and Contemporary Art」セールより、美術品落札者のうち希望者にブロックチェーンによる証明書を付与していく。併せて4月26日のオークション当日、スタートバーン・代表取締役の施井泰平氏と最高執行責任者の大野紗和子氏によるトークイベント「スタートバーンによるブロックチェーン証明書発行について」を開催した。
SBIグループの美術品販売代行会社であるSBIアートオークションは、年4回、現代美術を中心とした多ジャンルの美術品を取り扱う公開型オークションを開催している。同社は4月26日、27日に東京都代官山にてオークション「Modern and Contemporary Art」を開催し、500点超・総額4億5000万円の美術品を出品した。
共同プロジェクトでは、スタートバーンが運営するブロックチェーン証明書発行サービス「startbahn.org」内にオークションと連動したコンテンツを展開し、落札者のうち希望者にブロックチェーンの証明書を付与するとしている。今回のトークイベントは、オークションの開始直前にコレクター等参加者に向けて、スタートバーンの開発・運営をするブロックチェーンの仕組みと、美術作品の証明書を扱うアートブロックチェーンネットワークについて解説を行った。
アートにおけるブロックチェーンとは?
バズワードとして「ブロックチェーン」という言葉がよく聞かれるようになったが、実際に社会適用、社会実装されているモデルは少なく、アートにおけるブロックチェーンとはどのような取り組みなのか、アートオークションにどう関わってくるのか、そのあたりが本日お集まりの方々は疑問ではないか? と、冒頭でスタートバーン・代表取締役の施井氏は語った。
施井氏は現代美術家としても18年ほど活動をしているという。以前より、美術業界はテクノロジーでもっとインフラを整えることができるのではないかと思っていたそうだ。インフラが整備されれば、より業界を活性化できると思い立ち、起業したという。会社は、施井氏が東京大学大学院学際情報学府在学中に起業したということもあり、東京大学エッジキャピタル(以下、UTEC)ほかが出資する、東大内にオフィスを構えるという。現在、スタートバーンの組織はアート部門やテクノロジー部門など、普通のスタートアップとはちょっと違った体制で、24人で運営しているそうだ。
施井氏は2006年に開催されたトークイベントで、すでにこれら共同プロジェクトのコンセプトとなる初期構想を話していたという(当初はインターネットベースのアイデア)。当時は、まだWebサービスでアート作品をやり取りする時代ではなかったことから、「面白いね」とはいわれたが、実際にビジネスをしようという話になると賛同者を得ることができなかったそうだ。しかし施井氏は、2007年にはスタートバーンの中心的な発明の特許を出願し、ブロックチェーン時代を先行して、来歴の記録と二次流通の管理に関する特許を後に日米両国にて取得している。
そして2014年にスタートバーンを創業し、2015年にアーティストやギャラリーが作品を販売できるWebサービス「startbahn.org」を公開している。
スタートバーンのブロックチェーンプロジェクトの開始は、2016年。現在、株式会社丹青社、株式会社BTCompanyほか国内数社のアート関連企業と共同で、ブロックチェーン技術を活用したアート市場活性化プロジェクト「アート・ブロックチェーン・ネットワーク」を進めている。アート作品に対して、あらゆる団体が発行した作品証明書や来歴の管理を、作品流通時の規約順守も含めて、Ethereumのスマートコントラクトを用いてパブリックチェーン上で実現するネットワークを構築し、世界中のアート関連事業をつなげた情報共有を目指している。
アート・ブロックチェーン・ネットワークは、すでにTESTNETを公開している。証明書の発行・権利の移転が可能な状態だ。2019年には海外配信を開始し、MAINNET公開予定としている。公開までの半年で最終仕様を策定するとしている。
アート・ブロックチェーン・ネットワークについてはオープンとし、たとえスタートバーンが会社として存続していようがいまいが、それとは無関係に未来永劫稼働するネットワークになるという。そして前述の「startbahn.org」もまた、これにつながるサービスの1つに過ぎないとのこと。
ブロックチェーンによる証明書発行機能については、現在開発中の部分もあるが、アート作品の売買の履歴だけでなく、展示・貸し出し・鑑定といった作品の評価と信頼性に関わる様々な履歴についても連続的に記録できるようになるとのこと。また、スマートコントラクトによって、リージョンコントロールや著作権管理を含めた流通管理を行うこともできるという。将来的にはアーティストが作品を売り切りにするのではなく、展示やイベント等での収益などを、定期的にアーティストへ還元金として支払いができる設定も可能になるという。これは作品の移転(所有者の変更)が行われた際に、スマートコントラクトによって作者に還元金が自動的に支払われる仕組みになるそうだ。
施井氏いわく、還元金などのサービスは従来のプラットフォームではできなかったという。ブロックチェーンの登場でそれが可能となり、これらをサービスではなくプロトコルのレベルで仕組み作りを始め、現在に至ったという。
ブロックチェーン証明書のメリットとは
「Modern and Contemporary Art」とスタートバーンのコラボレーションについては、同社の最高執行責任者である大野紗和子氏から解説が行われた。
今回のオークションによる美術品落札者のうち、希望者にはブロックチェーンによる証明書が無料で発行されることを改めて大野氏は発表した。証明書に記載される内容は、カタログ等に記載されている作品に関する情報に加えて、今回のSBIオークションにて落札されたものであることが示されるという。その後、その作品が他のサービスや様々な方法で売買される際には、それらについてもブロックチェーン上に来歴として付加されていくとのこと。
これらを希望する落札者には、ブロックチェーン証明書が付加された電子アカウントの権限をSBIアートオークションより渡されるという。そのアカウントを使い、スタートバーンのWebサイトにログインすることで、今後は落札者自身が権利の管理や移転を行うことができるようになるとのこと。
また大野氏はコレクターに向けて、ブロックチェーン上で発行する証明書について、そのメリット等を解説する。
まずブロックチェーン証明書は、従来の紙など証明書と比べると、ブロックチェーン上で管理するため、紛失や複製、改ざんの心配がないことを最初に挙げた。また作品の来歴を記述することから、作品の評価や信頼に関わる情報の管理と、二次流通時の来歴・真贋調査が容易になるという。これは今後のアップデートの話になるが、還元金の仕組みにより、作品レンタル等の二次利用の可能性も広がるだろうという。
会場からの質問として挙がったコレクターの個人情報が流出するのではないかという問いに対しては、ブロックチェーン上には作品にまつわる情報と各所有者のEthereumアドレス(ブロックチェーン上のIDのようなもの)のみが記載されるため、所有者の実名や住所等、個人情報が記載されている分けではないので、その点については心配ないという。Ethereumアドレスと個人情報のひも付けは、各サービス上で管理されるものであることから、ブロックチェーン上の情報を閲覧されても問題はないとのこと。
またSBIオークションは、オークションに関わる参加者情報など個人情報については、一切スタートバーンとは共有していないため、今回のオークションについても個人情報や落札価格等がブロックチェーン上に記載されることもないという。
なお、今回の証明書発行についてはすべて無料だが、通常は発行手数料がかかるものだという。今後のセールにおいては料金がかかる可能性もあるとのこと(現時点では未定)。
トークショーによるブロックチェーンに関する一通りの解説は終了し、「Modern and Contemporary Art」の本番であるオークションがスタートした。会場にて直接参加をするコレクターを始め、電話やWebによる参加者も含めて、次々と出品される素晴らしいアート作品でオークションは大いに盛り上がった。アートオークション新時代の幕開けを感じるイベントとなった。