イベントレポート

ブロックチェーンで世の中はこう変わる! JBA理事の小川氏が示した7つの可能性

Interop Tokyo 2019「ブロックチェーンのビジネス動向と実用例」講演レポート

一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)理事の小川晃平氏は6月14日、幕張メッセで開催されたInterop Tokyo 2019において、ブロックチェーン技術の動向や応用例を紹介する講演を行った。

JBAは「仮想通貨およびブロックチェーン技術の健全な産業発展」などを目的に2014年9月に設立された団体で、今年で5年目を迎える。同講演では、冒頭で現在のブロックチェーン市場を整理し、今後ビジネスへの応用が期待できる7つの用途を紹介した。

一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)理事の小川晃平氏。株式会社VALUの代表取締役も務める

ブロックチェーンは「あらゆる価値を記録し、流通をなめらかにする基盤」

2016年の経済産業省調査では、ブロックチェーンにかかわる潜在的な国内市場規模は67兆円と予測されている。まだ世の中に定着したといえるサービスは仮想通貨しかないが、仮想通貨はブロックチェーンを利用したサービスの1つでしかない。

小川氏はブロックチェーンを「あらゆる価値を記録し、流通をなめらかにする基盤」だと説明する。ブロックチェーンは「特定の管理者を持たない」「情報を変更・改ざんできない」という特徴がある。この特徴を踏まえて、小川氏はブロックチェーンを「少し前の事実を未来永劫保証する仕組み」と表現する。ブロックチェーンをビジネスに応用する際は、その特徴に合わせて「ブロックチェーンに何を記録するか」が重要になってくるわけだ。

ブロックチェーンに何を記録するかがポイントになる

ブロックチェーンを活用したビジネス応用例7つ

では、仮想通貨以外のブロックチェーンの活用例にはどのようなものがあるのだろうか。小川氏は、ブロックチェーンをビジネスに応用できる7つの例を挙げた。

  • 価値流通
  • 流通のトレーサビリティ
  • IoT
  • 広告技術への応用
  • ゲーム内通貨・アイテム
  • デジタルライツマネジメント
  • オンライン選挙投票

1つめの「価値流通」は、仮想通貨や電子マネーも含む用途なので想像しやすいだろう。通貨以外にも、企業がファンを作るために自社トークン(ポイント・コイン)を発行して顧客に利用してもらうという手法も考えられる。また、企業でなく地方自治体や商工会が地域で使えるコインを発行し、インバウンド施策に活用できる可能性もあるという。

企業や商工会が独自のコインを発行することが可能

2つめの「流通のトレーサビリティ」は、流通をトラッキングすることで信頼性を高めるものだ。海外ではルイ・ヴィトンを傘下にもつLVMH、グッチを傘下にもつケリングといった世界を代表するブランドが、ブランドの信頼性を高めるためブロックチェーン技術に取り組むことを発表している。ブランド以外でも、発注した部品が勝手に変更されるといったトラブルを防止できる。

製造から配送、小売店に並ぶまでトレースすることで信頼性を担保できる

3つめの「IoT」は、シェアリングエコノミーやスマートシティ構想にもつながる広い用途だ。小川氏はレンタカーサービスを例に挙げる。店頭で乗車トークン入りのキーを発行し、期間が過ぎたらオーナーに自動的に乗車トークンが戻る仕組みだ。車の走行データを記録することで、エビデンスの真正性証明にもつながると説明する。また、IoTデバイスやセンサーが普及すればM2M(Machine to Machine)による機械同士の支払いも普通のことになっていくという。

IoT機器同士で少額の支払いを行うことが普通になっていく

4つめに示されたのは「広告技術への応用」だ。クーポンをブロックチェーンで発行することで「駅前で受け取ったクーポンを同僚に渡して、その同僚が翌日利用する」といった権利の委譲も追えるようになる。つまり、本来接触できなかった本当の潜在ユーザーにリーチできるようになるわけだ。クーポンを他者に譲ることで譲った人にインセンティブが入る仕組みにすれば、メディアやインフルエンサーが広くクーポンを配布してその後流通する様を可視化することもできる。

クーポンを誰に委譲したかも追跡できる

5つめの用途は「ゲーム内通貨・アイテム」だ。ゲーム内アイテムの希少性をブロックチェーンで保証できる。たとえばゲーム内に普及したアイテムとユニークなアイテムを組み合わせて、それを他人に譲渡するといった遊び方も可能になるという。

代替可能なトークンと代替不可能なトークンを組み合わせて貴重なアイテムを流通させられる

6つめは「デジタルライツマネジメント」。著作権や権利の移転をブロックチェーンに乗せて管理すれば、より透明性が高い流通が可能になるという。たとえば音楽なら、CDの販売数やカラオケで利用された回数などをレーベルの担当者が管理して権利者に分配している。スマートコントラクトを利用すれば、作詞者にいくら、作曲者にいくらといった利益分配をすべて自動化できる。カラオケで1曲歌われたらすぐに支払われる仕組みも実現可能だ。小川氏は、音楽だけでなく書籍や映像などすべてのデジタルコンテンツに応用可能だと説明する。

デジタルコンテンツの権利や支払いの分配を透明化かつ自動化できる

最後に挙げられた7つめは「オンライン選挙投票」だ。現在は投票用の封筒が各戸に郵送されているが、莫大な手間とコストがかかっている。たとえばマイナンバーカードにQRコードでブロックチェーンのアドレスを埋め込むなど、ブロックチェーンの特徴である信頼性の高さ・改ざんの難しさは、公的な手続きにも応用できると小川氏は説明する。

小川氏は「いろいろな可能性を駆け足で紹介したが、ブロックチェーンは始まったばかりで、まだまだこれから」だと語る。一部の用途はすでに企業が開発に取り組んでいるものもある。「ブロックチェーンといえば仮想通貨」というイメージは根強いが、今後は「データに価値を持たせて、それを高い信頼性で流通させる」というブロックチェーン本来の特徴を生かしたサービスが続々と出てくることだろう。

「ブロックチェーンはまだまだこれから」と語る小川氏

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。