イベントレポート

幅広いステークホルダーとのオープンな議論がブロックチェーンを強固なインフラへと育てる

村井純・松尾真一郎・松浦幹太らがインターネットとの対比をテーマに討論

6月12日から14日、幕張メッセ(千葉県)にてインターネット技術の展示会とコンファレンスであるインターロップ東京2019(Interop Tokyo 2019)が開催された。この記事では基調講演として行われた「インターネットから見たブロックチェーンの発展」について、その概略をレポートする。

会期初日の夕方に開催されたこの基調講演は、パネルディスカッション形式で行われた。

スピーカーとして登壇したのは慶應義塾大学環境情報学部教授で慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ代表の村井純氏、ジョージタウン大学教授の松尾真一郎氏、東京大学生産技術研究所教授の松浦幹太氏、セルビア科学芸術院数理研究所所長のミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏、NTT西日本技術革新部 R&Dセンタ真殿由美子氏の5名で、モデレーターは慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ副代表の鈴木茂哉氏だった。なお、松尾氏は海外からビデオシステムによる遠隔参加となった。

基調講演の様子(写真左から鈴木茂哉氏、村井純氏、松浦幹太氏、ミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏、真殿由美子氏)
松尾真一郎氏(スクリーン上)

BASEアライアンス・ユース・アワード贈賞式

パネルディスカッションに登壇した6名は、2017年に設立されたBASEアライアンスというブロックチェーン技術のオープンな国際産学連携グループのメンバーである。BASEアライアンスの活動骨子はブロックチェーンの技術に関して、アカデミアの視点からの「オープンな議論」「研究開発」「実証実験」「コミュニティー形成」である。

パネルディスカッションに先立ち、BASEアライアンスが主催した「BASEアライアンス・ユース・アワード」の贈賞式が行われた。このアワードは人材育成の一貫で企画・実施され、日本の大学の学部生、大学院生、社会人大学院生をはじめ、それ以下の中高生を含む学生を対象とした「ブロックチェーンについて論じるオリジナルのエッセイ」を募集して、優秀作を選考するものである。第2回となる今回の「奨励賞」を受賞したのは千葉工業大学大学院生の柳原貴明氏。タイトルを「ブロックチェーンは電気自転車システムの夢を見るか?」と題する作品である。受賞作品はBASEアライアンスのウェブページから閲覧することができる。

「BASEアライアンス・ユース・アワード」奨励賞を受賞する千葉工業大学大学院生の柳原貴明氏

ブロックチェーンに対する各専門的な視点からの状況整理

以下には、スピーカーとして登壇した5名のプレゼンテーションの骨子をまとめる。また、最後にはディスカッションの内容の概略をまとめておく。

インターネットとブロックチェーン―本質的な類似性と今後の課題(村井純氏)

このInteropが開かれる直前、福岡県で開催されたG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)の事前の閣僚会合と位置づけられる財務大臣・中央銀行総裁会議でもブロックチェーンが大きな話題になった。こうした場でブロックチェーンについて議論をしようとすると、いくつかの言葉や概念の問題も出てくる。クリプトアセット(暗号資産)とか、DLT(分散型台帳システム)とか、さらにはブロックチェーンとBitcoin(ビットコイン)はなにが違うのかというような混乱がありつつも、金融に関する規制を作る人たち、インターネットに関わっている人たち、ビットコインを作っている人たちが一堂に会したことは重要な機会となった。

言うまでもなく、ブロックチェーンはインターネットの仕組みの上で、それを前提として動いている。インターネットから見たブロックチェーンの考え方の特徴は「decentralized」(非中央集権化)で、それがまさに重要なキーワードである。そもそも中央制御ではないというのはインターネットの基本的な理念であり、インターネットでは完全な自律分散システムが実現されている。つまり、みんながインターネットの部分を少しずつ作っていって、それが連携すると1つの大きなシステムとなって動くというところがインターネットの重要なところである。しかも、すでに地球規模で何十年ものあいだ動き続けている。ブロックチェーンも中央制御ではなく、きちんと動き続けることを期待できるシステムである。この点において、インターネットと同じ役割を果たしているともいえる。

また、インターネットの普及が進むにつれて、それに乗り遅れている人もいなくなりつつある。インターネットの世界には「すべての人たちにインターネットを(internet for everyone)」という悲願があるが、すでに普及率は全人類の6割を超え、日本においては人口の9割を超える。インターネットの普及とブロックチェーンや金融システムとが結びついたとき、それによる経済活動に参加できる人がどのくらいいるのか、参加できない人がどのくらいいるのかということを考えたとき、インターネットという基盤の普及は大変に大きな使命を負っていると考えている。そして、人類がインターネット上の経済活動に参加できるようにするという使命を果たすために、インターネット上にどのような仕組みがいるのだろうかと考えていたところに登場したのがブロックチェーンだと思うし、その意味でも今後への期待感がある。

既存の各国の銀行システムとは別に、すでに暗号資産はグローバルに動いてしまっている。お互いの関係をどうするかということが、今後大きな課題となる。かつて、インターネットができたときに、各国では電話システム、つまり政府とともに発展した分散型のネットワークを形成していた。そこにインターネットというグローバルな単一の仕組みを作っていったので、この2つの関係がわからなくなっていった。お互いがどういう関係になればよいのか、既存の電話のシステムとインターネットがどういう関係にあるのかということだ。当時のインターネットは明らかに電話システムの上に仮設で作られたインフラだったが、だんだんとネイティブなインターネットになっていった。光ファイバーや電波を使ったインフラにしても、それらをインターネットのために作っていく方向へ変わっていき、ついに5GはTCP/IPで動くインフラになった。このアナロジー(類推)は、これからのブロックチェーンやその上で動く暗号資産との関係にもあてはまるだろう。

インターネットというインフラストラクチャー上の、次のステップにブロックチェーンがあるのだと考えている。

将来の普及にも影響を与えるコンセンサスメカニズムの抜本的なイノベーション(松浦幹太氏/ミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏)

セキュリティーの研究に関して、われわれは長年にわたり連携をしてきた。そのなかで、ブロックチェーンのセキュリティーに関する研究もしてきた。ブロックチェーンにおけるセキュリティーとして重要な要素技術はコンセンサスアルゴリズムで、われわれがこれまでに取り組んできている研究の一端を紹介したい。

ブロックチェーンは新しい技術であり、新しい技術には必ず新しい課題が生じる。ブロックチェーンの安全性を担保する上で、もっとも重要なコンポーネントがコンセンサスメカニズム(合意形成の仕組み)をどうするかということだ。とりわけ、私たちが研究する上で重視しているのは「デザイン」という観点である。なんでもいいので使うことができる暗号技術を使えばいいということではなく、用途に応じて専用に設計をしたり、あるいは専用に評価をしたりする必要がある。つまりブロックチェーン特有の研究が必要になるということだ。

コンセンサスメカニズムとしては、研究者のあいだでよく知られているものがいくつかある。ただし、セキュリティーはタダではなく、なんらかのコストを払わなければならない。ビットコインなどに採用されるPoW(Proof of Work)はエナジーオーバーヘッド、すなわちエネルギーコストが大きな課題であり、それ以外の方法でもさまざまなオーバーベッドが生じる。特に、エナジーオーバーヘッドは計算負荷という程度の課題ではなく、エネルギー負荷をどうするかというような言い方をすべき規模での課題が指摘されている。さらに、エネルギー負荷はできるだけ軽い方がいいという程度のことではなく、そこにイノベーションが生じれば、その後の普及に大きな影響が生じると思われるほどの大きな課題である。

コンセンサスメカニズムのそれぞれの方法には特長があるので、それらをうまく組み合わせればいいとするハイブリッド化という考え方もあるが、組み合わせるとセキュリティー評価が困難になる。つまり、コンポーネントができてさえいればいいという問題ではない。

そこで、われわれはエネルギー負荷が高い方式と通信負荷が高い方式でのいいところを取り入れて実現できないかと考えている。多様な応用に合わせてこれらをフレキシブルにコントロールできるようなものを単一メカニズムで行いたいということである。要するに、それぞれの方法があるからそれを組み合わせるのではなくて、単一のセキュリティー評価メカニズムで実現できるような方法はないかと模索している。そこで、着目してきたのが古くから暗号の解析で利用されてきているタイムメモリートレードオフという考え方である。この手法は開発されてからすでに30年の歴史があり、これを使って新しい取り組みをしているところである。

技術による課題解決にとどまらず、運用面と制度面での課題解決が重要(真殿由美子氏)

事業会社としてブロックチェーンに3年ほど取り組んでいるが、いまだに風あたりが強い。いまでも社内でいわれるのは、ブロックチェーンについてはよくわからないということだ。インターネットが普及し始めたときには、ウェブやメールといったユーザーが実感できるわかりやすいメリットを説明できたが、ブロックチェーンの場合は、わざわざこの技術を使わなくてもできそうなサービスだったり、顧客企業にブロックチェーンによるシステムを提案したら、「おたくの会社は信用できないという意味か」と皮肉をいわれてしまったりという笑い話まであるほどだ。同業他社と話をしても、ブロックチェーンの特徴は耐障害性が高いことだとしても、そこまでの耐障害性が必要なケースはまれではないかというところに落ち着くこともある。確かに、耐改ざん性があるとか、トレーサビリティーがあるとか、高い耐障害性があるとかいわれるが、ブロックチェーンがいったい何に使えるかということの説明にはなっていない。私たちはこれまでの技術的な観点からの説明を考え直していかなければならない。

ブロックチェーンをわかりにくくしている理由は、ビットコインが目指していたコンセプトが十分に伝わっていないからではないか。当初、ビットコインが目指していたのは、インターネット上の少額取引の可能性を失わせるほどの金融機関で取引上発生するコストを回避すること、そして、希望する2者間の取引を可能にする信用ではなく、暗号化された証明に基づくシステムによる解決、インターネットにつながる人がインターネット上での商取引に関して、オープンさと公平さを取り戻したいと考えていたことだろう。しかし、現実には、2,000種を超える仮想通貨が乱立し、優先処理に必要な手数料が高騰し、取引による本人性の確認(KYC)なども煩雑になっていった。いまの状況を見ると、求めていた世界とはちょっと違うのではないかと思うことがある。

つまり、いま起きていることは、技術的に発展する方向性をも左右する「理想的な」ガバナンスの維持はとても難しいということである。技術者は目の前に課題があればそれを越えようとする。どんどんと改良を加えたり、新しいものを生み出したりするものだが、そのあとの運用面と制度面に対する取り組みが十分ではない。各省庁でもさまざまな事業が行われているが、技術的な難しさよりも、ブロックチェーンという技術を適用したあとの法制度と運用面に課題があるという点について、各省庁の資料においても指摘されている。

企業ではこれからの5年間でどのように収益を上げるかというビジョンを示すことが必要だが、これからのSDGs経営、つまり、今後100年をどうやって乗り切るのかという長いタイムスパンでのビジョンも示さなければならない。多様性を維持しつつも、地に足の着いたビジネスをしていかなければならない。世界にいる70億人の「個人」が主体となる時代に、企業も目先のビジネスだけではなく、100年先を見据えてどんなビジネスをするかを考えなければならない。

そういう企業や個人がどういう未来を描きたいと思うのか、1人ひとりに向き合う必要性が出てくる。そのために、リアルの生活とデジタルの生活の双方を見つめ直さなければならないし、日本も世界と向き合う必要がある。人間、経済、社会も循環が重要である。そうなったときに、さまざまな問題をかかえながらもブロックチェーンをどう位置づけるのか。デジタルの世界のなかで、社会的レジリエンスを支える一技術であってほしいと思っている。ブロックチェーン的な見方でビジネスを再確認、再構築していくことは重要である。そういう未来と関係のある技術なのである。

ステークホルダーが共にゲームのルールを作っていく重要なフェーズ(松尾真一郎氏)

ブロックチェーンについて、先日のG20サミットの財務大臣・中央銀行総裁会議でどのようなことが話されたのかを紹介したい。

当初、ビットコインが目指したのは、帳簿をみんなでアップデートし続ける技術であって、それ以上ではないということだ。たまたまビットコインがお金のように見えて、お金もうけができるように見えたので、それでビジネスができるのではないかと思った人が世界中にいただけだ。

ただし、ここでいう「みんなで」というのが大きなポイントだ。ビットコインの場合、帳簿をアップデートしていく、それをお金のように使っていくために、みんなでノードを維持していかなければならない。そのノードを維持していくためのインセンティブのために、マイニングという行為とマイニングをしたことによる報酬がある。つまり、このエコシステムを支えるステークホルダーとして「マイナー」という人や「送金する人」たちがいると考えられる。ビットコインという“ゲームの設定”としては、ステークホルダーとしてマイニングをして報酬を得る人と、手数料を払って送金をする人がいると設計されている。

同様に、スマートコントラクトやさまざまなブロックチェーンを利用するアプリケーションについても評価していくとき、重要になるのはそのエコシステムにおいて「ステークホルダーは誰なのか」という点だ。それぞれのステークホルダーが帳簿であったり、帳簿を使ったアプリケーションだったりを意識しなければならないとしたとき、サステナブル(持続的)に回る“ゲームの設定”ができているのかどうかがブロックチェーンという技術を使うか使わないか、それによって成功するかしないかの鍵になる。

こうした“ゲームの設定”という考え方は、そのままグローバルな社会でも適用できるため、一般の生活者であったり、ビジネスをする人であったりとか、国としての形を作る規制当局だったりと、各ステークホルダーにとって都合のいいゲーム設計ができなければならない。

最近では、詐欺まがいのICOなどが出てきているが、それは社会にとって都合の悪いことなので、だんだんと当局による規制が強まるだろう。しかし、国としてはイノベーションを促進したいと本心では考えていて、うまくいかないのでそうせざるを得ないのだ。規制当局はできるだけイノベーションを促進したいけれども、悪いことが起きてはいけないということなど、さまざまな目標を同時に達成しなければならない。しかも、いろいろな人がプログラムコードによって新しいブロックチェーンを作ってしまうので、1つずつ法律を作って規制をしても追いつかない。

そういう時代にどうするかというと、これからの規制当局はエンジニアと一緒に社会の秩序を作るというマルチステークホルダープロセスを作っていかなければならない。今はこれが理解されつつある段階だ。そして、それを作っていく方法が話し合われ始めている。

ビットコインが登場し、仮想通貨についていろいろと議論されて、詐欺まがいのICOが出てきて、ようやくブロックチェーンを使うことがステークホルダー間の“ゲーム設定”であるとか、それをみんなでどうやったら作れるかという極めて大事なフェーズに入ってきたと思う。そのタイミングでG20が日本で行われることになり、日本から課題を提起するというのは大きな意味があることだ。

ディスカッション:オープンな議論がより強固なインフラへと成長させる

——各氏のプレゼンテーションを受け、村井氏より今後の技術や規制に関するオープンな議論の重要性について指摘がなされた。

村井氏:インターネットを作ったときのことを思い出すと、最初にプロトコルを設計して、コードを書いて、それが動き出したとき、世界中とつながることが面白くてしょうがなかった。かつて、名刺に電子メールアドレスを書いたりするとなにかおかしい人じゃないかと思われたが、お互いにつながり始めると、うらやましがられるようになった。つまり、なにかベスト・プラクティスができることがその求心力だった。

ところが、いま考えると恐ろしいことに、インターネットでセキュリティーを必須にしようとしたのはかなりの年月がたってからのことだった。なぜなら、インターネットを使っていたのは「俺たち」なので、互いの信頼を基本としていたからだ。もちろん、セキュリティーの必要性は理解していたが、その実装はいいかげんで、ソースコードを見ても肝心なその部分は空欄で終わっていた。それどころか、ウェブがHTTPSを使うことを必須にしようと言い出したのはつい去年のことだ。セキュリティーの問題に取り組むにあたっては、公開鍵暗号を使うことにしたり、パスワードを強くするための技術が生まれたりした。そうした積み重ねでようやくインターネットが「みんなの」基盤になっていった。

また、通信性能の問題もあった。ネットワークが混雑して遅いとか、パンクしたとかということはよく起きていた。しかし、ネットワーク上で混雑が起きたら、どうやってそれを緩和するかというアルゴリズムは次々と新しいものが出てきて、ついにインターネットは混んだときも正しくつながって、正しく通信できるTCPが生まれた。いまでもその改造が行われていて、毎日のように新しい技術が開発されている。つまり、これは需要が関わっているわけだ。ビデオのトラフィックがものすごく大きくなったと思うと、細かいけれども大量なトラフィックが流れたりする。それらに対する技術開発は広い範囲で、広い目的のために、広い課題に対して解決するためのコミュニティーがある。

これからの問題としては、ブロックチェーンの発展やビットコインの発展のためには、このなかでの活動の連鎖、つまりエコシステム、具体的にいうなら発展と開発のエコシステムができているのかということだ。こうした輪が大きくなって、国際的になっていかないと力強いインフラ整備はできない。

松浦先生の研究成果の発表も、実はそうした議論を誘発するためのものだったのではないか。

松浦氏:そのとおりだ。今日、この場で伝えたかったのは、自分たちの研究成果を紹介するということだけではなく、コミュニティーで形成していく技術を、オープンな議論のもとで管理していかなければならないという課題の提起である。これまでもセキュリティーの分野ではオープンなディスカッションのもとで技術を育成していく、決めていくということが行われてきた。これは、諸先輩方の時代から、オープンな議論のなかで客観的な評価ができた技術を普及させる努力をされてきたからである。ブロックチェーンでもこうしたオープンな議論ができる仕組みをしっかりと形成して、それを育てていきたいと思う。

——さらに、村井氏から、インターネットという基盤の上に新たな経済活動の基盤が安価に構築されることの意味について補足した上で、真殿氏にその事業的な実現性について考えを聞いた。

村井氏:デジタルテクノロジーとインターネットが生み出した最大のベネフィットは、新しい仕組みを生み出すときの投資コストが低いということだ。新しいシステムを動かすとき、インターネットがすでに動いていれば、すでにあるリッチなプラットフォームを前提とできる。つまり、ウェブはどこでも動く、スマートフォンのようなモバイルデバイスはどこにでもあるということを前提にできる。その上でサービスを作るというのは、ものすごく薄い投資をするだけで、全く新しいサービスを大規模に、グローバル規模に提供できるという特徴がある。社会のイノベーションは、デジタルテクノロジーとインターネットから生まれてくるという根拠はここにある。

かつて、新しいことをしようとすると、データの標準化もしなければならないし、つなげるためのコネクタも標準化をしなければならないと大変なコストがかかったが、だんだんといろいろな標準化が進んできたので、今やなにかを始めるための投資コストは少なくなっているのではないか。

そうしたことを踏まえると、いずれはマイクロなやりとりが行えるサービスが実装できて、経済が社会のなかで実現できるのではないかと考えられるか。

真殿氏:世界のなかには銀行口座を持たない人も多い。銀行口座がなければ、その人たちにはお金が行き渡らない。なにか長期的な資産を管理しようということではなく、ただ明日の生活に必要な10円を受け取るための仕組み、そうしたお金を十分に回す仕組みとしてマイクロペイメントが実現することは重要だ。

——また、村井氏は「国境を超えた信用のある基盤をどう作るかということはインターネットでは真正面からはできていないので、インターネットの上にブロックチェーンがあるということでこのトラステッドスペースをボーダーレス、グローバルに作れるのではないか」と述べた。

そして、ブロックチェーンが今後グローバルな中で動くようにしていくためにはどうしたらいいのかという問いが松尾氏に投げかけられた。それに対し、松尾氏は次のように述べ、締めくくった。

松尾氏:ビフォービットコインにおいては、金融の規制はそれぞれの国が作ればいいと考えられてきた。ところがアフタービットコインではどうやら金融にもグローバルスペースができてきたということに気がついたというのが現状ではないか。福岡のG20の共同声明に「幅広いステークホルダーと対話を始めなければならない」という趣旨の文言が盛り込まれたのは大きなことだ。

規制当局は自分が持っている権限だったり、規制を作る能力だったりを維持したいわけだが、いろいろなステークホルダーと対話しなければ法律や秩序を保てないことに気がついた。今後のグローバルとインターナショナルの付き合い方を考えなければならないということをある意味で宣言をさせられた状態だと思う。少なくともエンジニアの力を借りようということになったので、これからエンジニアとともに対応をしていかなければならなくなった。この意味において、画期的な文書になっていると思う。

中島 由弘