イベントレポート
Facebookの仮想通貨リブラ、日本法での論点は仮想通貨に該当するか
JBA斎藤顧問弁護士がステーブルコインの扱いを法的側面から解説
2019年6月25日 13:47
一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)は6月24日、Facebookが新たに発表した仮想通貨Libra(リブラ)に関する勉強会を開催した。Libraは運用主体であるLibra協会が6月18日にその全貌を公開し、2020年にリリースを予定している。Facebookを含む名だたる企業からなるコンソーシアムが運用する。その規模から、各国機関から賛否両論のさまざまな意見が寄せられるなど、仮想通貨業界に波紋を呼んでいる。
勉強会は3部構成。前半ではトークセッションとして、LayerXの福島代表によるホワイトペーパーの解説、創・佐藤法律事務所の斎藤弁護士によるステーブルコインの日本法分析が発表された。後半ではパネルディスカッションを行った。パネリストとして先の2名に加えて、コンセンサス・ベイスの志茂代表、カレンシーポートの杉井代表、渥美坂井法律事務所の落合弁護士が登壇。司会進行はグラコネの藤本代表が務めた。
本稿では、創・佐藤法律事務所の斎藤創弁護士によるステーブルコインの日本法分析と、後半のパネルディスカッションから、Libraが日本国内で展開するにあたって考慮される法的規制についてまとめる。Libraの概要や仕組みに関して説明した福島氏の講演は別の記事としてまとめる予定だ。
なお、同イベントでの発表内容は関係当局の確認を経たものではなく、法令上合理的に考えられる議論となる。開催時点で公開されているLibraの情報を基とした議論であるため、その時点での解釈となることはご留意いただきたい。
斎藤弁護士がまとめるLibraとステーブルコインの日本法分析
創・佐藤法律事務所の斎藤創弁護士が、Libraとステーブルコインについて、国内でどのような規制が適用されるかを分析した。斎藤氏はJBAの顧問弁護士を務め、仮想通貨・ブロックチェーン・FinTechといった分野を専門に扱っている。今回のイベントで斎藤氏が用いた資料はSlideshare上にて公開されている。
Libraには数種類のトークンが存在する。本稿で登場する2種のトークンの内、一般ユーザーが通貨として利用するトークンをLibraコイン、出資者が後に配当金の分配のために受け取るトークンを投資家トークンと便宜上呼称する。
ステーブルコインだからコレ、という規制はない
斎藤氏は、ステーブルコインであるLibraにどのような規制が適用される可能性があるかを説明した。現在の日本の法律で、ステーブルコイン自体に適用される規制はない。さまざまな方式のステーブルコインがあり、細かな違いがある。その仕組みについてそれぞれ分析する必要があるという。
国内外で発行されているステーブルコインの例を分類すると、大きく3つの種類に分けられる。1つ目はTrueUSD(TUSD)、Tether(USDT)、Horizen(ZEN)に代表されるIOUモデル。これらは特定の通貨や資産による裏付けを持ち、発行体がトークン保有者に対して一定金額での償還を約束している。2つ目はシステムによってコインの安定性を確保するオンチェーン担保モデル。MakerDAO(DAI)などが分類される。3つ目は貨幣数量説を用いてトークンの供給量を調節する通貨発行益モデル。すでにプロジェクトは中止してしまったが、Basisが分類される。
LibraはIOUモデルに分類される。裏付けとする資産は、Libra協会によるリザーブだ。協会はリザーブを各国法定通貨や公債などの低リスク資産に分散投資して運用する。この投資による利子収入は一般ユーザーには還元されず、Libraのエコシステム発展と、後に投資者への配当とされる予定だ。償還の仕組みとして、協会は仮想通貨交換業者をLibraの認定再販売業者として設定する。認定業者は協会を通じてリザーブにLibraコインを持ち込むことで同額の法定通貨を受け取ることができる。
仮想通貨に該当するか否か
ステーブルコインを日本で展開する場合、まず仮想通貨に該当するかどうかが重要な検証要素になると斎藤氏は言う。仮想通貨に該当する場合は、仮想通貨法の規制が適用される。Horizen(ZEN)のように、金融庁から認可を受ければ国内の仮想通貨交換所によって販売が可能になる。
仮想通貨は以下の4点で定義される。1から3の項目は、ほとんどのステーブルコインがその条件を満たす。議論が分かれるのは4番目に示す通貨建て資産か否かというところだ。
- 電磁的な財産価値
- 電磁的に移転可能
- (a)不特定多数に対して使用可能
(b)または不特定多数間で他の仮想通貨と交換可能 - 通貨建て資産に該当しない
斎藤氏は個人的見解として、Libraは仮想通貨に該当すると述べている。通貨建て資産の定義は、以下の通り。
本邦通貨若しくは外国通貨で表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨で債務の履行、払戻その他これらに準ずるものが行われる資産
斎藤氏の解釈としては、上記定義の「本邦通貨若しくは外国通貨」という部分でLibraは該当しないと考えられる。Libraは複数の通貨と公債による通貨バスケットが裏付けとなるため、通貨建て資産に該当しないという見方だ。
もう1つの根拠として、認定再販業者が償還を成立する際、公債などの時価を踏まえた金額が適用されると考えられる点を挙げた。公債などは完全に通貨に連動するものではないため、それらを元に償還を行うならば、Libraは通貨建て資産に当たらないという見解を示した。
一方、通貨建て資産に分類される場合、つまり仮想通貨に該当しない場合は、さらに為替取引に該当するかを検討する。為替取引に該当する場合、国内展開において発行体であるLibra協会が銀行業のライセンスを持たなければ事実上運用ができないため、実現性が薄れる。
そのほか、前払式支払い手段としてのLibraコインの発行も検討した。日本独自での発行ならこの形態も考えられるが、償還が制限されるため使用感が異なること、未使用残高の半分を供託という条件が生じることから非現実的とした。
金商法の規制
Libraでは出資者が配当を受け取るための投資家トークンと、ユーザーが一般に利用するLibraコインが発行される。斎藤氏は、投資家トークンは金商法の規制に当たると述べ、Libraコインが金商法に当たるとは考えられないとした。
金商法の規制は、「出資者が金銭を出資」「事業を営む」「収益の配当または出資対象財産の分配」の要素を持つものが集団投資スキームとして規制される。Libraコインは前2つの条件を満たすが、出資者自身への収益の配当または出資対象財産の分配の仕組みを持たない。先にも述べたが、収益はエコシステムの発展と投資家トークンの保有者に分配されるからだ。
斎藤氏は海外での金商法の仕組みも検討した。日本と近い基準を持つヨーロッパやシンガポールでも、Libraコインはセキュリティトークンには当たらないと予想した。アメリカの場合は、ハーウィーテスト(Howey Test)というものがあり、第三者の活躍によって利益を期待するものを証券とみなす。日本より広い範囲となるが、Libraはハーウィーテストに引っかからないように設計しているように感じると語った。
パネルディスカッションから
後半のパネルディスカッションでも、いくつかの法律関係の話題が上がった。パネリストとして斎藤弁護士に加えて、LayerXの福島代表、コンセンサス・ベイスの志茂代表、カレンシーポートの杉井代表、渥美坂井法律事務所の落合弁護士が登壇。司会進行はグラコネの藤本代表が務めている。
Libra協会メンバーに日本企業がいない
Libra協会のメンバーに日本企業がいないことが話題となった。協会メンバーはブロックチェーンを検証するバリデーターノードを運用する。企業規模やLibraへの出資額など一握りの一流企業しか満たせない条件もある。志茂氏の談によると、国内でも何社かは協会加入の条件を満たすことができる。
「バリデーターになることに法的規制があるのか」という問いに、斎藤氏が答えた。現在、バリデーター、つまりノード運用者に対する規制はない。国内での規制対象は仮想通貨を取り扱う交換業者と、その発行体だ。国内でLibraを展開するには2つの方法が考えられ、1つはLibra協会自体が仮想通貨交換業のライセンスを取って日本で展開すること。もう1つは、Libra協会が既存の仮想通貨交換業者をLibraの認定再販業者に設定し、そこを通じて販売する方法だ。
Libraが仮想通貨に該当するかどうか
斎藤氏は講演の中でLibraは仮想通貨に該当するという見解を示していた。討論では改めて、何人かの弁護士と議論したところ、Libraが仮想通貨に該当するという見解を複数人が持っていたことを話した。一方で、落合弁護士は「通貨建て資産の定義に入るかどうかは微妙なライン」と述べ、仮想通貨該当性について結論を保留した。
ビジネスサイドからの意見としては、「為替にして欲しい」「仮想通貨でしょう」「どのみち使わなさそうなのでどちらでも良い」という三者三様の意見が上がった。
まとめ
Libraの国内展開への可能性について、国内のコミュニティなどでは疑問視する意見が多く見られたが、今回のイベントを通じて法的には現状でも完全に閉ざされているわけではないということが分かった。今後Libraが国際的に認可を得られるかどうかには依然として注目が集まるところだ。