イベントレポート

リブラは既存の仮想通貨のベストプラクティスを練り込んだ高度な設計

LayerX福島代表がFacebookの仮想通貨Libraの仕組みを解説

一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)は6月24日、Facebookが新たに発表した仮想通貨Libra(リブラ)に関する勉強会を開催した。Libraは運用主体であるLibra協会が6月18日にその全貌を公開し、2020年にリリースを予定している。Facebookを含む名だたる企業からなるコンソーシアムが運用する。その規模から、各国機関から賛否両論のさまざまな意見が寄せられるなど、仮想通貨業界に波紋を呼んでいる。

勉強会は3部構成。前半ではトークセッションとして、LayerXの福島代表によるホワイトペーパーの解説、創・佐藤法律事務所の斎藤弁護士によるステーブルコインの日本法分析が発表された。後半ではパネルディスカッションを行った。パネリストとして先の2名に加えて、コンセンサス・ベイスの志茂代表、カレンシーポートの杉井代表、渥美坂井法律事務所の落合弁護士が登壇。司会進行はグラコネの藤本代表が務めた。

本稿では、LayerX・代表取締役の福島良典氏による「Libra ホワイトペーパーの解説」をまとめる。斎藤弁護士の講演については記事「Facebookの仮想通貨リブラ、日本法での論点は仮想通貨に該当するか」でまとめた。

福島氏は株式会社Gunosyの創業者。2014年頃からブロックチェーンに注目しており、2018年にLayerXを設立しビジネスとして取り組むようになったという。

LayerX・代表取締役の福島良典氏

Libraの特徴

Libraはブロックチェーンを用いた金融ソフトウェアプラットフォームと言える。基本的にはオーソドックスな技術選定をし、規制当局を意識した設計をしている。現実的な社会適用を目指す。

LibraではEthereumなどと同様にスマートコントラクトを扱うことができ、Moveという独自のプログラミング言語で記述する。Moveはセキュリティを意識した設計となっており、バグを起こしにくいという。Ethereumのスマートコントラクトがワールドコンピュータとしての汎用性を重視するのに対して、Libraの場合は通貨として扱いやすくするためにスマートコントラクトを用いる。

Libra通貨の流通の仕組み

福島氏はLibraの新規発行(mint)と払い戻し(burm)の仕組みをユーザー視点、投資家視点から図解した。Libraの発行・法定通貨の払い戻し・リザーブの信託を担うのがLibra協会だ。協会は仮想通貨交換業者などを認定再販業者に設定する。それらを通じて、ユーザーに対してLibraの販売や法定通貨の払い戻しを行う。

流通の途中ではウォレットのアドレスと利用者本人がひも付くことはない。本人確認は、出入り口にあたる認定再販業者が担う。Libraを法定通貨に交換するためには認定再販業者を通す必要があるため、個人間での取引を経ても最終的にはすべてのユーザーがKYCを行った状態になるということだ。逆に、KYCをしていないユーザーにとってはLibra通貨は価値を持たないとも言える。

ユーザー視点でのLibra通貨の発行の仕組み
ユーザー視点でのLibraにおける法定通貨の払い戻しの仕組み

Libraの価値はLibra協会が信託するリザーブ資産によって裏付けられる。この資産の運用によって得られる利益は、利子として投資家に配当される。ここで用いられるのが、投資家トークンだ。

投資家視点でのLibraの仕組み

このように証券性をもつ投資家トークンと、ユーザーが通貨として利用するLibra通貨からなるデュアルトークンの方式を採用していることもLibraの特徴の一つとなる。投資家トークンは証券性を持ち、セキュリティトークンに分類される。機関投資家のみを対象に販売されるなど、米国のレギュレーションを遵守している。

一方でLibra通貨の方はユーザーがいくら保有していても利子の配当は得られない。これは一般に利用されるトークンが、セキュリティトークン扱いされないための仕様と考えられると福島氏は説明した。

ベストプラクティスを取り入れたIOU型のステーブルコイン

Facebookが2019年2月に買収したChainspaceというブロックチェーン開発会社があり、そのチームがLibra開発の中心になっていると考えられる。同社はスマートコントラクトのシステム開発を行うほか、合意形成や匿名性などに関する論文も発表していた。また、Libraは仕組み的には米ドルペッグのステーブルコインであるTrueUSD(TUSD)を参考にしていると見られる部分が多いという。

斎藤氏はLibraを総評して「通貨設計やインセンティブ設計はここ2年で発表された通貨の中で、ベストプラクティス的なものの集大成という印象を受ける」と述べ、その設計を高く評価した。証券性への対応、KYC・AMLの担保、リザーブの信頼性など、これまでに登場してきたステーブルコインや仮想通貨で課題や規制対象となったポイントを研究し、包括的に対応を行ったものになる。

日下 弘樹