イベントレポート

車を「製品」から「サービス」に再定義。ライセンス販売とサブスクリプションの融合へ

世界で進むスマートシティ計画におけるブロックチェーンビジネスの可能性とは

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は6月11日、東京・大手町で第5回スマートシティ部会を開催した。スマートシティとはIoTなどの先端技術を用いた近未来型の都市のことで、情報・通信だけでなくエネルギー、建築、物流、工業、環境などあらゆる領域にかかわる構想のことを指す。

今年新たに部会長に就任したカウラCEOの岡本克司氏は「スマートシティの範囲はとても広い」としたうえで「経産省のD-Labレポート」からもわかるとおり、今はMaaSが大きい」と説明する。MaaSとはMobility as a Serviceの略で、人や物の移動、つまり自動車や鉄道などの移動手段にかかわるサービスのことだ。

スマートシティやMaaSにおいて、ブロックチェーンはどのようなビジネスの可能性があるのか。実際の取り組みを例に挙げながら解説した。

BCCCスマートシティ部会長の岡本克司氏(カウラCEO)

ブロックチェーンは、コミュニティを作るもの

壇上に上がったのは博報堂の伊藤佑介氏。伊藤氏は「Blockchain EXE」というコミュニティの運営にも関わっており、2018年9月に博報堂ブロックチェーン・イニシアティブを立ち上げた。

博報堂ブロックチェーン・イニシアティブの伊藤佑介氏

伊藤氏は「ブロックチェーン・イニシアティブを立ち上げたのは、トークンコミュニティの形成がやりたかったから」と語る。

「トークンエコノミーは、トークンが発行されて経済的な価値交換が行われますよね。でも経済価値だけじゃない。ブロックチェーンは共通の価値観を持った共同体のようなものができるのではないかと思って『トークンコミュニティ』という言葉を勝手に作りました」(伊藤氏)

同じ価値観を持つ人同士で作られるトークンコミュニティの構成要素

伊藤氏は、トークンコミュニティは次の5つの構成要素があると説明する。

  1. ブロックチェーン技術で実装されたトークン
  2. コミュニティに参加する人の共通の価値観
  3. コミュニティ内で交換される価値
  4. 価値交換を活発にするイベント
  5. プレイヤーの役割分担と報酬設計

たとえばビットコインもコミュニティとしてとらえられる。1)トークンで発行されたコインが、2)中央銀行や法定通貨からの開放という共通価値観のもとで、3)通貨として価値が交換され、4)法定通貨とのレート変動のニュースが交換を活発にし、5)レートの変動で利益を得たりマイニングで報酬を得たりする、という具合だ。経済的な価値だけでなく、同じ価値観を持った人たちがコミュニティを形成することで価値の交換が活発になるという。

この考え方をもとに、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブでは、Web広告をトレーディングカードのように集めて交換できる「CollectableAD」や、ラジオに「透かし音声」を仕込むことで番組をリアルタイムに視聴したユーザーだけがゲームのキャラクターやアイテムを受け取れる「TokenCastRadio」などの実験的な取り組みを続けている。

3D都市データに価値を持たせて流通させる「CryptoCity」プロジェクト

そんな伊藤氏が取り組んでいるプロジェクトが「CryptoCity(暗号化都市)」だ。未来的な都市計画を進めるには、建物の構造データが欠かせない。3D都市データがあればVRやARにも活用できるが、現状はそれぞれの企業がデータを保有していて、建築物の構造データが流通していない。それを流通させるエコシステムを作ろうという発想だ。

伊藤氏は、ブロックチェーンの成功例である仮想通貨にならって「ゲーム性があること」「経済的な出口があること」という2つのポイントを意識しているという。

「ゲーム性があること」「経済的な出口があること」が成功のポイントだという

プロジェクトの概要はこうだ。都市開発を行うデベロッパー、建築を行うゼネコン、建物を利用するテナント・生活者それぞれが都市データの作成を手伝うと、暗号化都市における建物の所有権や利用権、CryotoCityCoin(暗号化都市通貨)を獲得できる。企業が他社のデータを利用するにはCryotoCityCoinが必要で、そのために自社が保有しているデータを登録する。ブロックチェーン基盤に都市データを入れることで、都市開発に必要な構造データを流通させようというわけだ。

伊藤氏は「3D都市データを所有可能な資産にすることで、価値と流動性を高めて流通させ、世の中に都市データ活用のムーブメントを起こしたい」と語った。

それぞれにインセンティブを持たせて3D都市データの流通を推進する

車は「所有物」から「サービス」に再定義されつつある

続いて岡本氏が登壇し、ブロックチェーンビジネスの可能性と、冒頭で挙げたMaaSについて解説した。岡本氏は「デジタルトランスフォーメーションで既存の事業の価値が縮小して、同時に大きな事業チャンスが発生している」と説明する。

既存の事業(図左の青い円)が縮小して新たな事業チャンスが生まれる(図右)

例えば自動車は、従来の「車という所有物」から「車というサービス」に再定義されようとしている。その変化を推進するのは自動運転やコネクテッドカーなどのテクノロジーだ。

BMWは2018年に起業家向けのプログラム「BMWイノベーション・ラボ2018」を実施した。これは自動車を製品としてではなくサービスとしてとらえ、スタートアップ企業からの提案を求める取り組みだ。

現状のディーラーによる卸売りモデルでは、メーカーが顧客データを知ることはできない。誰が乗ってどんな運転をしているのか。そうしたビッグデータを集めているのはGAFAなどのプラットフォーマー。岡本氏は「ハードウェア製造業だけではもう成り立たない。ライセンス販売モデルとサブスクリプションモデルを融合して、どういうデータを取ろうか、という話をしていかなければならない」と強調する。

顧客のデータをいかに取得するかという視点で新たなパートナーシップが結ばれている

世界で進むスマートシティ計画。中国の杭州市は3兆円投資

岡本氏は、イギリスのカタパルト、スペインのバルセロナなど世界のスマートシティ計画を紹介。特に中国の杭州市は、Wanxiangグループが5年以上にわたり3兆円を出資して9万人が居住する巨大都市だ。杭州では、交通信号をAIが自動制御する「ET都市ブレイン」が本格始動しており、地域の移動速度が年間で3~5km/h上がり生産性の向上にも影響を与えているという。

中国の杭州市は世界でも類を見ない規模のスマートシティ

岡本氏は「デジタルトランスフォーメーションは加速度的に進行していて、日本はその分野では遅れている。最終的にはプラットフォーマーしか生き残れない」と語り、部会を締めくくった。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。