イベントレポート
GAFAマネーでどう変わる? 中央銀行、金融政策、暗号通貨の未来を岩村充教授が語る
人気YouTubeチャンネル「ビットコイナー反省会」スペシャル番組視聴まとめ
2019年6月28日 06:20
「ビットコイナー反省会」はBitcoin、暗号通貨、ブロックチェーンに関する情報を配信する総合動画チャンネル。業界のキーパーソンへのインタビューや、ニュース、技術やトレンドの解説など、暗号通貨に興味のある人に向けた番組をYouTubeにて配信中の人気チャンネルである。
今回取り上げる6月12日の放送は、特別インタビューとしてゲストに早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授を迎え「中央銀行、金融政策、暗号通貨に未来はあるのか」をテーマに、これからの金融のあり方、暗号通貨の未来を大胆に予測する非常に興味深い番組となった。番組は大いに盛り上がり配信時間2時間47分というスペシャル番組となった。そこで今回は、番組内容を元にその内容について要約する。記事を読み、興味が湧いたら、ぜひ配信を視聴していただきたい。
番組の進行およびインタビュアーは番組のパーソナリティーでおなじみの東晃慈氏とカナゴールド氏が務める。
貨幣の本質と金融政策について
東氏は、自分も含めてビットコイナーや仮想通貨支持者は、日銀等の金融政策やフィアットカレンシー(法定通貨)に対して懐疑的であったり批判的であることが多いが、実際に金融政策や法定通貨について詳しいかというと、案外知らないことも多いのではないかと思っていたという。そこで東氏は、岩村教授の著書である『金融政策に未来はあるか』(岩波新書)を読み始め、金融政策について勉強をしたそうだ。その内容は非常に面白く興味深いものであり、東氏はすぐに岩村教授に直接会ってお話を伺いたくなったのだという。
番組は通常のインタビュー形式というより、すでに顔見知りである3者が雑談形式でテーマを語り合い、東氏とカナゴールド氏の質問に対して岩村教授が分かりやすく答えていく。まずは「貨幣の本質と暗号通貨」をテーマに、経済学者である岩村教授の見解からスタートする。
普通の法定通貨の価値の裏付けは、政府の財政能力であるという岩村教授。法定通貨については政府に財政そのものがなくなったり、統治能力がなくならない限りは、そうそう破綻するものではないという。
金融政策の考え方の1つにMMT(Modern Monetary Theory:現代金融理論)という理論があるが、その内容は素朴な話で、まだあまりインフレも起こっていない状況の間は、もう少し貨幣を発行しても問題ないだろうという考え方だという。そもそも貨幣は納税に使えるから価値があるため、政府が発行したいときに発行してもそう大きな問題にはならないだろうというのが、MMTの基本的な考え方だという。
そういう世界観の中で、今の国債残高の半分ぐらいいきなり何の裏付けもなく貨幣を発行してしまったとすると、その場合はその程度のインフレが起こることが想像されると岩村教授はいう。ざっくりいうと、1000兆円の国債に対して500兆円の貨幣を発行した場合、貨幣価値は3分の2程度になるだろうとのこと。確かにこれは、すごいインフレだが、国家が破綻するほどのハイパーインフレというものではないだろうという。
今、日本は1000兆円の国債があるといわれているが、1000兆円の国債を返せると誰も本気で思っていないだろうと岩村教授はいう。実際の政策として、これを実は返せないと明言をして貨幣を新たに発行して返すのか、あるいは返せることにして貨幣を発行してしまうのか、いくつかその方法は考えられるが、いずれにしてもやっていることの違いはその程度であるとのこと。
金融政策や貨幣価値というのは、そのようなそれなりに危うい合意の元で成り立っているものであり、期待の上に乗っているものであるということをまずは理解しておいたほうがいいと岩村教授はいう。そう考えると、法定通貨に裏付けされている仮想通貨は安心であるというような考え方には、「『何を言っているんだろう』と思う」と岩村教授はいう。
Ethereumに対する懸念や批判
番組は、貨幣の本質や金融政策について話をしていたかと思えば、具体的な仮想通貨についても言及する。
岩村教授に「カナゴールド氏はEthereum推しである」と紹介されると、カナゴールド氏いわく、氏はEthereum推しというわけではなく、ブロックチェーン上に様々な契約を載せようという際にEthereumのスマートコントラクトを使用することが1つのトレンドになっているということを伝えたかったのだという。同様に使用できるブロックチェーンは多々あるが、現状、手っ取り早く実装できるのがEthereumだとカナゴールド氏は語る。
それに対して岩村教授が気になるのは、Ethereumだと「良い」という雰囲気が世間ではちょっと前面に出すぎてはいないかという点であると語り始めた。特に最初から岩村教授が言い続けているのは、今のところEthereumはマイニングで動いているから、Ethereumの正当性は本質的にいうとマイナーたちの利己心によって支えられているという。利己心の総量はハッシュパワーに依存するため、たとえば5兆円(Ethereumの時価総額を想定、6月20日現在3.5兆円程度)を超える、あるいはそれに近い金額の取引を行うスマートコントラクトをEthereumに載せて安定的に維持させようとすると、それなりに危険だというのだ。
なぜかというと、5兆円の取引を行っている間、それなりのハッシュパワーが必要であるといいながら取引を行っているうちはいいが、たとえばスマートコントラクト上で10兆円の借金取引が行われるようになった場合、人によっては10兆円の借金を返済するよりもEthereumが消えてなくなってくれたほうが楽だと考える人も現れるだろうと、岩村教授はいう。仮想通貨の上にスマートコントラクトが載るということは、そういう危険性があることを忘れてはならない。それが分かっているからEthereumはマイニングから卒業しようしているのだろうとのこと。
Ethereumは現段階ではコンセンサスアルゴリズムにPoW(Proof of Work)を採用しているが、バージョン2.0でPoS(Proof of Stake)へと移行する予定を表明している。Ethereumに採用されるPoSは、PoWにおけるマイニングの代わりに、Ethereumの保有量と保有期間を基準に選定されるバリデーター(検証者)がブロックの生成を担う。つまりより仮想通貨の保有量が多く長い期間保有しているバリデーターほど有利になる仕組みとなる。しかし岩村教授は、そんなPoSにも危険性は潜んでいるという。
PoS開始当初にその仮想通貨を多く保有する人は、恐らく本質的な理解を持っている人と推測されることから、まずはその人たちがマイニングしやすい環境を構築しようという狙いがあるのだろうと岩村教授は推測する。基本はターゲット調整をするという理論だが、現状は賢者による独裁モデルのようであまり優れた考えであるとは思えないとのこと。
単純にEthereumを大量に保有している人がそもそも賢者であるかどうかも問題だが、「恒産なきものに恒心なし」というぐらいだから、その世界では賢者なのかもしれないと結ぶ。特にEthereumは、考案者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏がカリスマ的存在であり魅力のある人物であることから、その影響力によりEthereum自身の人気も高いと岩村教授は分析をする。そのような状況においては、多くの人が賢者の意見を素直に聞き入れやすい環境にあるという。つまり、より独裁モデルに近いものになる危惧があるというのだ。
それは賢者のひと言が仮想通貨の相場の変動に大きく影響しかねない状況でもあり、その上でスマートコントラクトによる様々な取引が行われるということは、前述の通りEthereumで多額の借金ができるような取引を行ったものが、なんらかの方法で意図的に仮想通貨の相場を下げるよう賢者を説得、あるいは犯罪に巻き込むなどして相場を操作する懸念点があるというのだ。賢者が自衛能力を超える権力を持つということと、個人に価値が依存するということは、そういった問題を常に抱えているということを利用者は自覚すべきであると岩村教授は指摘する。
GAFAなどが発行する暗号通貨の今後
さらに番組は、仮想通貨の未来についても言及をする。
前述の金融理論MMTの強力な提唱者であるステファニー・ケルトン氏ら経済学者は、貨幣が貨幣であるゆえんは「納税に利用できる」ことが理由の1つであると定義しているが、これは大事なことをいっていると岩村教授は紹介する。
岩村教授はその意見が正しいとするならば、多くの人が交流したいと思っているサービスの決済に使えるような債務はすべて貨幣になり得るというのだという。国が貨幣を発行しやすいのは、国は多くの国民から徴税可能であり、「税金はこの貨幣で納めてください」というだけでその貨幣は通用するようになるからだと解説をする。ただし、貨幣価値がいくらであるかということとは、徴税能力とは別の話であることから、実はそこにも問題点が潜んでいるという。
財政政策にFTPL(Fiscal Theory of the Price Level:物価水準の財政理論)という考え方があるが、通常は納税に100円使って、国が100円分のサービスを提供することで貨幣の価値は100円として成り立つが、もしも100円分のサービスを水増しして200円にした場合は、FTPLでは貨幣価値を200円といわなければならない考え方だと岩村教授はいう。MMTにはそういうタイプの貨幣価値理論がなく、MMTは発行する貨幣量を調整すればなんとかなるという考え方で、岩村教授いわく、それはごった煮の理論だと指摘し、仮想通貨について考えている人は、そういった財政理論についても読み取ったほうがいいという。
つまり政府が納税に使えるものが貨幣だということは、大抵の人が受け取るようなありがたいと思えるサービスを提供する者(企業)は誰でも貨幣を発行し得る話だと岩村教授は話を続けた。それは銀行や大企業を指しているのかと東氏が尋ねると、具体的にはGAFAやマイクロソフトといった企業をイメージしていると岩村教授は答える。
実際にはすでにFacebookが仮想通貨Libra(リブラ)を発行することを表明しているが、岩村教授はそれらの将来についても言及している。
GAFAらが新たに貨幣を発行した場合(便宜上、以下GAFAマネーと呼ぶ)、普通に考えればその価値は発行する企業の企業価値やキャシュフローが淵源になるのが普通であろうと岩村教授はいう。そう考えると政府の考えるMMTであったり緩慢なインフレを継続させて経済の安定成長を図ることができるとするリフレ理論のような金融政策は間違っていると考えるのが普通ではないかと岩村教授は指摘する。中央銀行が発行する貨幣は、実はよくわからないバブル価値によって裏付けられているというのだ。そう考えると中央銀行が発行する貨幣よりもGAFAらの企業価値で裏付けされたGAFAマネーのほうが信頼できると人々は考えるのではないかという。
しかし岩村教授は、GAFAマネーを支持するという立場ではないと強調する。岩村教授は法定通貨、GAFAマネー、その他の仮想通貨など、様々な貨幣が共存する状況こそが理想だという。いろいろあって互いに競い合っているほうが安定するというのだ。法定通貨だけしか存在しない世界というのは本当は危ういという。世の中がインフレ、ハイパーインフレ、破綻して貨幣価値がなくなるといった状況になったとしても、貨幣の種類がたくさんあれば大抵大丈夫なものだと岩村教授はまとめた。
GAFAマネーとそれを制限する可能性のある日本の法改正の是非
進行役の東氏は、GAFAマネーに対してある懸念点を質問として投げかけた。現実、FacebookのLibraが法定通貨に寄ったように、GAFAマネーや仮想通貨はなんらかの国の法的な規制の影響を受けて、健全な自由競争ができるのかどうか、そこが大きな問題ではないかと指摘する。
それは人々がどういう貨幣を望んでいるかによると岩村教授は答えた。たとえばどこでも気楽に通用するものがいいのか、契約や仕事の基準になり安心できるものがいいのか、後者は価値尺度と呼んでいるが、望むものによって異なるだろうという。
価値尺度とは貨幣の機能の1つで、貨幣が価格という単位として商品価値の共通の基準となるものであり、歴史も長く一定の運動量を持っているものであるということで、中央銀行が発行する法定通貨はそのような役割をはたしているとのこと。しかし岩村教授は、決済手段に使われるものはいろいろあってもいいのではないかと考えるという。
実際にはすでに決済手段や仮想通貨にはいろいろ種類があるが、現状は乱立している状況でありその実態はどれもそれほど違いがないという印象だと東氏はいう。
貨幣は誰でも受け取ってくれる一般的需要性が重要だと思われがちだと岩村教授はいう。世間には一般的需要性と価値尺度があるものが貨幣であるという考え方があり、それが法定通貨の理想であるともいわれているという。
乱立する仮想通貨や○○マネーと呼ばれているものは、そもそも法定通貨の変形に過ぎなく、それが問題だとは思わないが、どれも一般的需要性が重要であるという一辺倒な考え方で提供されていることが残念だと指摘する。通貨は一般的需要性があったほうがいい場合もあるが、一概になくてもいい場合があるというのだ。
たとえば仲間のつながりを強くしたい場合には、一般的需要性ではなく、仲間で使っている間は便利で、他のエコノミーと交易する場合は使えなかったり、不便だったり、あるいは制限がかかるといったことがあってもいいとのこと。地域通貨というものが、その考え方に近いという。
どうして一般的需要性という呪縛にとらわれるんだろうという疑問が湧くと岩村教授は語る。我々はものを考えるときに、今の制度の惰性にかなり引っ張られる傾向にあると指摘をする。仮想通貨の話に戻すと、今の仮想通貨と呼ばれているものはほとんどBitcoinの呪縛にはまっているというのだ。
仮想通貨の使い道について
「これまでの仮想通貨の使い道は仮想通貨交換所以外にない」ということを指摘するカナゴールド氏の意見に対し岩村教授は、仮想通貨の世界は放っておくと子供銀行の中の銀行券のようなもので、その世界でしか通用しないものであると回答し始める。
現状の仮想通貨が担う世界を見ていると、どの仮想通貨も通貨圏と呼べるほどの広がりがなくまた一般性がない集まりで、それらに意味を持たせるにはどこかで別の世界とくっつかなければならないというのだ。その役割を担っているのが仮想通貨交換所であったと岩村教授は語る。しかし、GAFAマネークラスの規模になれば通貨圏になる可能性もあるだろうという。
また国の政策として今まで仮想通貨交換所を抑えてきたことは、法定通貨の通貨圏と仮想通貨圏との間で鎖国政策をしているようなものであり、仮想通貨に対して日本は早くから一貫した政策を取ってきたといえるというのだ。そうすることで仮想通貨圏との交易がフェアに行えることを保証するというのが日本の金融行政であったというのだ。しかし国はそれをはっきりいわないのがよくないと岩村教授はいう。
岩村教授いわくこの政策はくだらないが、しかしそれによって法定通貨圏と仮想通貨圏との間の取引が活発になるという。その証拠に日本は一気に仮想通貨都市大国になったというのだ。結局、今の日本は仮想通貨使用促進行政をやっているが、実際にそういっていないことも面白いとまとめた。
これもまたGAFAマネークラスの規模の仮想通貨の登場で変化が生じそうだ。番組ではさらにこれからの仮想通貨のあり方についてや金融政策の行方について、様々なたとえを用いて解説しているので、ぜひ直接配信を視聴していただきたい。