イベントレポート

NEM財団「Catapultは企業のあらゆるニーズに応える最高のブロックチェーン」

ポイントサービス、電子政府、マインドフルネスなど5つのユースケースも紹介。mijin活用セミナー特別編より

テックビューロホールディングスは7月30日、東京・大手町で同社のプライベートブロックチェーン「mijin」の活用事例を紹介する「第6回 mijin活用セミナー特別編」を開催した。NEM.io財団(以下、NEM財団)のアレクサンドラ・ティンスマン氏とジェフ・マクドナルド氏が登壇し、暗号資産(仮想通貨)NEM(XEM)の現状と今後について、そして2019年後半にリリース予定の「NEM v.2」と位置づけられる「Catapult(カタパルト)」について解説した。

2019年前半は財源の確保と地固め。開発者の支援とマーケティングを強化

同財団の代表理事であるアレクサンドラ氏は「2019年前半は財源とサステナビリティ(持続可能性)の確保に取り組んだ」と説明する。

NEM財団代表理事のアレクサンドラ・ティンスマン氏

具体的には、大幅な組織の再編を行った。これまで地域フォーカスだった組織構造をプロダクトフォーカスなものに変更し、7か国のメンバーで構成される理事会を設立。公開投票で2億1000万XEMの予算を確保し、マーケティングやブランディングにも注力するよう取り組みを開始した。備蓄金に頼らず、財団として持続可能な財源を確保するための体制を整えたのが2019年前半の出来事だといえる。

技術的なトピックとしては、新しい開発パートナーとしてHatio、Wachsman、NEM Studiosが加わった。NEMテックスタジオではツールやウォレット、SDKなどフロントエンドの開発をサポートし、新設されたNEM開発アカデミーでは総合的な学習と開発者のためのリソース提供、テストや認証制度などを行っていく。これらのコンテンツはNEMをグローバルに広げていくために、すべてローカライズされる予定だという。

ポイントサービス、電子政府、マインドフルネスなど5つのユースケース

2019年後半は、NEMにいよいよCatapultが実装される。アレクサンドラ氏は、先行するCatapultの具体的なユースケースを5つ紹介した。

LoyalCoinは、店舗で使える共通のポイントサービスだ。ポイントを一元化できることに加え、ほかの暗号資産に交換することもできる。日本国内ではまだ利用できないが、フィリピンなどの海外ではセブン-イレブン、ファミリーマートなどマスマーケットでの活用が始まっている。

電子ポイントサービスのLoyalCoin

続いては、米国のネイティブアメリカンの自治区で使われている電子政府のソリューションだ。モンタナ州に居住するクロウ族の自治政府では、市民IDや投票、土地管理、そして「One Nation Coin」と呼ばれる通貨の利用にブロックチェーンが活用されている。

ネイティブ・アメリカンの自治区で使われている電子政府ソリューション

Geensは、アイデンティティのソリューションを提供している。さまざまなサービスにGeensを利用してログインできる。EUの規制であるGDPRにも対応しており、アレクサンドラ氏は「ブロックチェーンがプライバシーやセキュリティに活用される実例だ」と説明する。

Geensはサービスへのログイン時のプライバシーとセキュリティを担う

Hit Foundationは、自身のフィットデータの管理やマネタイズを可能にするサービスだ。ブロックチェーン上のオンラインマーケットプレイスで、自身のヘルスデータを販売する。まだ始まったばかりだが、バックエンドDLTとしてパブリックチェーンを使い、オフチェーンのロジックでデータを強化していくという。

フィットデータをブロックチェーン上のオンラインマーケットプレイスで販売するHit Foundation

Happiness.comは、マインドフルネスのコミュニティだ。Catapultのプライベートチェーンをリワード(報酬)のネットワークとつないでいく。事例紹介を終えたアレクサンドラ氏は「他社との競争もあるなかで、Catapultが各業界で実際どのように使われているか、差別化されているかをいくつか紹介した」と語った。

マインドフルネスをリワードネットワークとつなぐHappiness.com

Bitcoinは機能性、Ethereumはセキュリティが弱い

続いてジェフ・マクドナルド氏が登壇し、Catapultの詳細と、ほかのブロックチェーンとの違いを紹介した。ジェフ氏は「Catapultはパワフルで、セキュリティ面でも優れている」と強調する。BitcoinとEthereumと比較しながら、Catapultの特徴を解説した。

NEM財団理事会メンバー兼共同創設者のジェフ・マクドナルド氏

ジェフ氏は「セキュリティ」「機能性」「スケーラビリティ」の3つを頂点とした三角形を示して「ブロックチェーンのトリレンマ」だと説明する。既存のブロックチェーンはいずれかの面で優れている半面、ほかの部分で問題を抱えているという。

たとえばBitcoinは送金に特化していることもあり、安全性と分散化は非常に優れている。開発者もそれを大事にしているからこそ、新しい機能の開発やスケーラビリティに対しては消極的だ。ジェフ氏は「それが悪いというわけではないが、さまざまな機能についてアウトソースが必要になる。Bitcoinはそういうソリューションだということ」と説明する。

Bitcoinはセキュリティが非常に高いが機能性とスケーラビリティに課題がある

一方でEthereumは機能性が非常に高い。Bitcoinと比べて非常に多くの機能が開発されているが、「機能性が強い一方で、セキュリティを若干犠牲にしている」とジェフ氏は指摘する。また、Bitcoinと同様にEthereumもスケーラビリティの観点で問題を抱えており、その解決策としてPoS(Proof of Stake)への移行やシャーディングについて盛んに議論されている。ジェフ氏は「大事なスケールポイントが語られていない。それは、ブロックチェーンに書き込むだけでなく、ブロックチェーンの情報を読むこと」だと語る。Ethereumでチェーンの情報を読む際にはInfuraが利用されており、APIコールの半分以上をInfuraが占めているという。ジェフ氏は「読むという点においては分散化できていない」と指摘する。

Ethereumは機能性が高い一方でセキュリティを若干犠牲にしているという

Catapultは「これ以上ない最高のブロックチェーン」

そしてNEMについてだ。ジェフ氏は「NIS1(NEM v.1)の時点でセキュリティは非常に誇れるものだった。いかなるプロトコルバグも起きておらず、何10億という取引額がすでにあるなかで、誰も1円たりとも失っていない」と自信を見せる。同様に機能性も誇れるものだったが、スケーラビリティに若干の問題があったという。「PoI(Proof of Importance)はほかのアルゴリズムに比べて優れていたが、まだ上を目指せる」として登場したのが、Catapultだ。

Catapultでは、セキュリティは従来のレベルを担保しながら、プラグインを追加してさらに機能性を高めた。アセット、マルチシグ、ネームドメインといったプラグインは保ちつつ、エイリアス、クロスチェーン取引、アカウントフィルタといった機能を拡張するためのプラグインを追加した。これらはまだ序の口で、これから増えていくという。

そして問題のスケーラビリティも改善されている。Catapultでは、PoIからPoS+(Proof of Stake+)というアルゴリズムに変更される。従来のPoIはネットワークへの貢献度を重視していたが、それが「+」の部分に込められており、複層化することでスケーラビリティを担保しているという。

さらに、チェーンの情報を読むためにMongoDBを採用した。ブロックチェーンのデータを読むには最新のブロックから順にさかのぼっていくことになるが、企業がデータを利用する際はデータベースになっていないと使い勝手が良くない。CatapultではMongoDBを採用したことで「Ethereumと違って、書くことと読むことの両方で完全に分散化されたものになる」とジェフ氏は説明する。

「Catapultはセキュリティ、機能性、スケーラビリティすべてにおいて最高のもの」とジェフ氏

「世の中に存在するあらゆるブロックチェーンを検証したうえで、Catapultはブロックチェーンに求められるあらゆる要素を包有して、最良のものを提供できています。本当にこれ以上のものはないと、Catapultが最高のブロックチェーンだと自信を持って言えます」(ジェフ氏)

パブリックでもプライベートでもハイブリッドでも。企業のあらゆるニーズに応えるよう進化したCatapult

ここからは具体的な機能について触れていこう。ジェフ氏は「Catapultは真のマルチアセット台帳」だと語る。CatapultはクロスチェーントランザクションがSDKに組み込まれており、CatapultからCatapult、あるいはBitcoinからCatapult、EthereumからCatapultといった取引もサポートされている。同氏は「現実は世の中にさまざまな台帳がある。それらが連携することは世界にとって大事なこと」と説明する。

Catapultで実装される「アグリゲーテッドトランザクション」も特徴的だ。例えば不動産取引など、売り手と買い手、不動産業者、政府の手続きや税金など複数の取引が行われる場合も、それらを集約して1回のトランザクションで完結する。

複数の取引を1つのトランザクションで行うアグリケーテッドトランザクション

NIS1の「ネーム」が進化した「エイリアス」は、長い英数字のアドレスではなく「Jeffに送る」「Alexに送る」のように名前で指定できる機能だ。これによりメールを送るように取引が行えるという。

そして再度MongoDBにも触れる。MongoDBは世界で使われるオープンソースのデータベースだ。データベースを持つことで、さまざまなサービスでチェーンのデータを読み込んで利用しやすくなる。ジェフ氏はMongoDBのAPIについて「真に分散化されている」と強調する。

Catapultは真に分散化されたデータベースソリューションを提供する

また、Catapultではマルチレベルかつマルチシグのアカウントも扱える。これは生産業やサプライチェーンにも役立つ機能だ。これにより複雑極まりなくかつ重要なもの、例えば政府の複雑な手続きもコントラクトに落とし込めるという。

図は製造業者が医薬品を出荷している例。ブロックチェーンの記録に製造日や安全検査があり、適切な温度で出荷された場合のみ承認される

「くり返しになりますが、Catapultは安全で、機能的で、スケーラブルであるという3点がそろっています。企業に使ってもらうことを主軸に開発されたからこそ、企業のニーズに本当に応えられるソリューションだと考えています」(ジェフ氏)

Catapultは、ビジネスに統合されることを前提に作られている。パブリックチェーンのNEMだけでなく、プライベートチェーンのmijinと組み合わせてハイブリッドチェーンとしても利用されることを考えて柔軟に設計されているという。

NEMはSDKやプラグインで開発者の支援を強化し、データベースも準備している。企業がブロックチェーンを使ったサービスを開発する際の有力な選択肢になるだろう。Catapultは2019年の第4四半期にリリースされる予定だ。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。