イベントレポート

テレワーカーの情報漏えいリスクをブロックチェーンで解決

翻訳センターのリモートワーク管理システムが運用開始へ

情報漏えいにはさまざまな経路が考えられる

ブロックチェーン技術を導入すれば、書類のやり取りを透明化でき、事務作業の効率化やセキュリティの向上を期待できる。この事実に関して疑うところはないが、実際にそれを実現している企業は、国内では数えるほどだろう。そんな中、翻訳センターという国内の翻訳最大手企業が、テレワークの翻訳家とのやり取りを透明化し、機密保持の厳格化を行うためにブロックチェーンを導入した。

翻訳センターは、テックビューロホールディングスが開発するプライベートブロックチェーン技術mijinを活用しリモートワーク管理システム「Active flag」を開発。すでに実証実験までを終えている。その後開発を進め、発表時点では11月中に社内でシステムの本番稼働を開始する予定だ。その取り組みの一部始終を、11月15日に神奈川県・川崎市にて開催した「Fintech Venture-company Open Expo」で翻訳センター・ソリューション営業部IT企画担当部長の深田順一氏が話した。

翻訳センター・ソリューション営業部IT企画担当部長の深田順一氏

テレワークの情報漏えいリスク

翻訳センターは医療分野やITなどの産業翻訳に特化した翻訳会社。登録翻訳者4300人を抱え、年間5万6000件もの翻訳を行う国内最大手だ。社内には翻訳家がおらず、フリーの翻訳家を仕事の都度契約する形で業務を行っている。

従来、同社と翻訳家の間で、紙で機密保持契約(NDA)を結び、作業の終了後には文書の破棄を翻訳家が自己申告する形でNDAを行っていたという。だが、このやり方では情報漏えいの対策として不十分であると同社は考えた。

そこで、白羽の矢が立てられたのがブロックチェーン技術。システムを通じて翻訳家の動向を監視すると共に、その記録を誰からも改ざん不可能な形で保存していくことで、公平かつ厳格な情報漏えい対策の実現を目指す。

リモートワーク管理システム「Active flag」

翻訳センターの情報漏えい対策は、会社側と翻訳家側で共通のリモートワーク管理ソフトウェアを導入する形。同社が開発したシステムは「Active flag」と命名され、翻訳家側のPCの状態とアンチウイルスの稼働状況、翻訳文書に対する操作をブロックチェーンに記録する機能を有する。

アンチウイルスの稼働状況やソフトの名前はリアルタイムで記録される

Active flagには、ファイルの暗号化と復号化の機能が含まれる。同ツール経由で暗号化したファイルは、特定の翻訳者のみが同ツールを用いて復号化できる。

特定のユーザー専用の暗号化

同ツールでは、翻訳家の元で復号化したファイルに対し「どのような操作」が行われたかを記録する。ここには、ファイルのコピーや名前の変更、印刷やUSBドライブへの保存などが含まれ、PC内であれば複製後のファイルも追跡できる。

さらには、当該文書をエディタで開き、「別名で保存」した場合にも当該ファイルを追跡する。この別名保存の追跡機能は、極めて困難な実装だったという。「開発段階で、別名保存の追跡ができるツールは調べた限り存在しなかった」と深田氏は語った。

翻訳家は、作業終了後にファイルを再度暗号化し、翻訳センターへと送信する。その後、翻訳家のPCで複製したファイルを、ゴミ箱に残ったファイルまで含めて削除すると、ファイルの追跡が終了するというのが一連の流れだ。これらのデータを随時ブロックチェーンに記録していくことで、改ざんができない状態にし、互いに信頼を担保する。

復号化ファイル監視のデモンストレーション。オリジナルの復号化ファイルを削除してもゴミ箱に残っている状態では監視が継続する

導入のメリット

Active flagでは、メインミッションとなる情報漏えいの防止のほかにも複数のメリットを持たせることができたと深田氏は話す。まずは、テレワーカーの監視をソフトウェアで行えるようになったことだ。同様のセキュリティを従来手法で実現するなら、会社からPCを支給するか、あるいはサードパーティのセキュリティソリューションを1名1名に導入していく必要があり、いずれも現実的ではないコストがかかる。

Active flagは翻訳家の自前のPC上にインストールするだけでシステムの監視を行うことができる。また、監視対象はActive flagによって復号化されたファイルだけとなる。翻訳家のプライバシーにも配慮しつつ、監視ログのデータ量が小さくなる。データ量は従来比で1000分の1であり、問題発生時の特定・対応も迅速に行えるという。

さらに、Active flagには人材管理の補助機能も組み込まれている。翻訳家は所持している翻訳ツールをActive flagに登録することができ、翻訳センター側はこの登録情報を基に、適した人材を検索し、案件の発注を行うなど雇用機会の拡大にも役立つという。

まとめ

翻訳センターは1月に開催されたmijinセミナーでも実証実験の経過を報告していた。当時「監視に対する抵抗感」といった課題や「ツールの所持を雇用に反映」といったビジョンがあることを話していたが、10か月を経た今回、深田氏はそれらに明確な答えを用意した。本稿執筆時点では、システムの本番稼働も始まっている頃合いだが、今後の展開や成果報告にも期待したいところだ。

日下 弘樹