ニュース解説

仮想通貨EOSによる分散型アプリが海外で盛り上がっているのは本当か?

近頃よく耳にするEOSの評判について過去記事などからまとめてみた

(Image: Shutterstock.com)

ここ数年、特に今年になって、仮想通貨EOS(イオス)の存在感が増しているような気はしないだろうか。実際に、EOS関連のニュースを耳にすることもある。弊誌でも、EOSに関する記事は時々目にするようになってきた。EOSは2017年にICOで41億米ドル相当の資金を集め、過去最高額を記録した最も成功したICOの例として、名前が挙がることも多々あるが……。

また、DApps(分散型アプリ)について調べていると、最近はEOSのブロックチェーンを活用したアプリに遭遇することも少なくない。スマートコントラクトやDAppsといえば、これまではEthereumベースであることが多かったが、近頃はEthereumと同様にEOSもまたDAppsを開発するプラットフォームの選択肢の1つとして人気を博しているようだ。世界中で使われているという意見を聞くこともある。

下記の表は、ブロックチェーン上で提供されるDAppsの情報を分析するDappRadarによる利用ユーザー数の多いDAppsのトップ10だ。表は12月16日の集計結果だが、1位はEOSによるDAppsゲーム「cryptolegends」、またベスト10内にEOSのDAppsが4点もランクインをしている。DAppsのランキングは変動も激しいが、常にEOSによるDAppsが数本ランクインをする状況は現在も続いている。

12月16日のDAppsユーザー数トップ10、DappRadar公式サイトより引用

EOSの注目度が高いことは、これらのランキングからもわかる。

しかし、EOSは金融庁ホワイトリスト(仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨のリスト)に登録されていない銘柄であり、国内の仮想通貨交換所においては一切取引されていない仮想通貨のため、EOSの持つブロックチェーンとしての実力やその人気の度合いなど、日本ではほとんど知られていないのも事実である。

はたしてEOSはどんな仮想通貨であり、ブロックチェーンとしてどのような性能と特徴を持つのか。本当に世界中で注目されているのかなど、今回は、せっかくなので過去記事や現時点で知られている事案をまとめながら、仮想通EOSについて調べてみたいと思う。もしもその人気と実力が本物だとしたら、知っておいて損はないだろう。

仮想通貨EOSについて

EOSは冒頭でも述べたように、ICOにより誕生した仮想通貨。香港と米国・バージニア州に拠点を置くBlock.one社が開発をする。同社は、2017年より約1年間でICOで41億米ドル相当の資金調達に成功した。

Block.one社は、EOSのコアソフトウェアEOSIO(または、EOS.IO)を開発する。EOSは分散型アプリケーションの開発をサポートするオープンソースのプラットフォームで、DApps開発者の作業を容易にすることを目的に作られた。ICO当初は、EthereumのERC-20ベースのEOSトークンとして発行されたが、2018年6月にメインネットへと移行し、EOSは完全に独立した仮想通貨EOSとなった。ティッカー(呼称、通貨単位)はEOS。発行枚数の上限は、10億EOSとなっている(EOSIO公開ホワイトペーパー)。

EOSの特徴は、スマートコントラクトを実装する。Ethereumのプログラム実行環境であるEVM(Ethereum Virtual Machine)と互換性を保ちつつ、コンセンサスアルゴリズムにDPoS(Delegated Proof of Stake)を採用している。DPoSは、ブロックチェーンを検証するノード数を21と少数に絞ることで、EthereumのPoW(Proof of Work)に比べて、高速トランザクション処理が可能であり、4000TPS(Transactions Per Second:1秒間に処理できるトランザクション件数)程度の処理能力を持つという(理論上は数万TPSも可能)。

また手数料が無料(ユーザーサイドから見て)という点においても魅力的だ。Ethereumのようにトランザクション処理にかかるGAS代(Ethereumの手数料)がかからないことから、利用者に仮想通貨を準備させることなく使用することができるDAppsの設計が容易だという(関連記事)。

ちなみにDPoSにおいては、Bitcoinでいうマイナー的存在、Block Producers(BP:ブロックプロデューサー)がポイントとなる。EOSでは、代表BP21人(機関)のブロック発行者と、その他のブロック発行予備軍が、常に投票で選ばれる。投票は、EOSトークンホルダーが行っているが、保有数がすべてではない仕組みだという。これらはEOSネットワークで行われ、投票により選ばれたBPがマイニングを行う権利を得る。

2019年10月にEOSIOは、バージョン2.0.0-rc(リリース候補版)のリリースが発表された。新バージョンでは、スマートコントラクトの実行環境EOS VMがさらに高速化されたほか、新たに強力な自己完結型のウェブベースの統合開発環境が提供され、よりDAppsの開発が容易になったという。

問題点はないのか?

仮想通貨EOSの問題点については、「EOSの現状とCosmosやその他のDPoSチェーンへの示唆」というビットコイン研究所の記事が、EOSの課題について分析をしていたのが興味深い。

EOSが直面している問題は、中国の大口EOSトークンホルダー、つまりBP同士の相互投票、もしくは投票の買い取りなどが頻発し、DPoSにおいて中国のBPによる寡占が進行しているというのだ。相互投票などの行為をしないと投票で代表BPに選出されるのが非常に難しい状況だそうだ。このような状況が続くと、BPのブロック生成パフォーマンスが低下したり、ネットワーク全体の品質が低下したりしかねないという懸念が露呈しているそうだ。

ちなみにBPのランキングについては、EOS Authorityのウェブサイトにてリアルタイムでチェックすることができる。

EOS AuthorityによるBPランキングトップ100より引用

日本におけるEOSの立ち位置

EOSの特徴と評判を聞くと、なぜ日本国内の仮想通貨交換所での取り扱いがないのか疑問に思われるのではないだろうか。金融庁による国内の仮想通貨交換所が取り扱う銘柄の選定にはさまざまな要素から判断されることとなるが、そのプロジェクトの持続性、ネットワークの分散性といったものが重要な基準となる。EOSの場合、前述の通りネットワークの分散性において、DPoSの性質上致命的な欠陥があると判断せざるを得ないところがある。ほかにも、ICOからスタートしたプロジェクトであることもマイナス要因の1つと考えられる。

ICOについては、2017年頃より新しい資金調達方法として流行ったが、規制が不十分である中で流行り始めたことから、世界中でさまざまな問題点が発生したことが記憶に新しい。そのため日本国内においては、ICOは法律が確立するまで様子を見るといった風潮が広がった。

金融庁が2018年に開催していた「仮想通貨交換業等に関する研究会」では、ICOは既存の資金調達手段にはない可能性があると評価しながらも、ICOが有効に活用された事例が少ないという指摘や、ずさんな事業計画と詐欺的な事案も多く、既存の規制では利用者を保護することが不十分であることなどを挙げている。海外の研究者などによる報告では、多くのICO関連プロジェクトが詐欺案件であるという指摘についても明記している。過去にも、2017年10月に行政当局より、利用者に対してICOのリスクについて注意喚起し、事業者に対しても、ICOの仕組みによっては金融商品取引法や資金決済法の規制対象になり得る旨が示された(関連記事)。

米国においてもICOの取り扱いについては不明瞭であったが、今年になって米国証券取引委員会(SEC)が未登録ICOプロジェクトを軒並み訴えている。仮想通貨EOSも例外ではなく、2019年9月30日(米東部時間)にEOSを開発するBlock.one社による未登録ICOに対し2400万ドルの罰金を支払う和解を請求し、同社が支払いに同意し和解が成立したことを発表した(関連記事)。和解により、Block.one社とSEC間のすべての問題が解決したと同社は報告する。和解は、Block.one社のICOが米国および世界における取り組みの継続を証明したことを意味するという見解を示した。

仮想通貨EOSの実力

仮想通貨のデータ分析基盤を提供するDataLight社の仮想通貨時価総額ランキングトップ100においては、仮想通貨EOSは7位となる(2019年12月27日現在)。海外では、取引量が多い仮想通貨の部類ではないだろうか。

また、同じくDataLight社の調べによる以前の発表で、トークン発行に対応した10種類のブロックチェーンネットワークの時価総額順が、EOSはEthereumについで2位といった結果が出ている(関連記事)。

くしくも12月18日、分散型アプリケーションの情報を分析するDappRadarはEthereum、EOS、TRONの3大DAppsプラットフォームにおける2019年のレポートを公開した(関連記事)。賭博など高リスク系DAppsに着目すると、依然としてEthereumが最大の基盤であるものの、その増加率は減少傾向にあるという。高リスク系DAppsの利用はEthereumからEOSやTRONへと移っているという見方ができるという結果が出ている。その理由は取引手数料にあり、Ethereumよりも手数料が安いEOSやTRONでの運用へと切り替えが行われているようだ。

これらの分析・情報を総合すると、仮想通貨EOSは世界で使われているという意見は過言ではないようだ。

最後に

残念ながら日本では、まだまだEOSの情報量が多いとはいえない環境だが、EOSについてまとめてみると、なんとなく世界中でEOSが注目され始めている理由が見えたのではないだろうか。DAppsを開発するプラットフォームの選択肢が増えるということは、DAppsの未来もまた明るく、さまざまなアプリケーションを選択できる将来がくるのではないだろうか。