ニュース解説

ビットコインの高速決済技術「ライトニング」にビジネス適用の兆し

国内外で事例が蓄積。巨額の資金調達に成功するプロジェクトも

(Image: Shutterstock.com)

Bitcoinのセカンドレイヤー技術であるLightning Network(ライトニングネットワーク)を使ったビジネスモデルが、本格的に動き始めている。世間からの期待感も増し、弊誌においても「ライトニング」という言葉は頻出するようになった。この新技術を用いたビジネスの機運が高まっているのではないか。

先日、ライトニングネットワークを開発するLightning Labsが、シリーズAラウンドによる1000万ドルの資金調達を実施したことを報じた。ライトニングに関する最も大きな動きと言えるだろう。

ライトニングネットワークは、Bitcoinのスケーラビリティを改善し、マイクロペイメントを実現する技術。Bitcoinのブロックチェーンの1つ上の層、セカンドレイヤーで動く決済ネットワークとなる。Bitcoinが持つ高度なセキュリティという特性を引き継ぎながら、決済に即時性を持ち、性能の上限がなく、手数料の水準がきわめて低い特徴を備えている。

Lightning Labsは資金調達の実施と同時に、Bitcoinのネットワークとライトニングネットワークにおいて、ネットワーク間の送受金を円滑化する製品「Lightning Loop」のベータ版を公開している。同社が提供する最初の有料プロダクトだ。

ライトニングネットワークを活用したビジネスは、世の中にその実用性を示すことができるかという懸念もこれまであった中、この報道はインパクトがあった。ようやくライトニングの実用性と方向性を示すことができたのではないだろうか。

今回は、過去記事や現時点で知られている事例をまとめながら、ライトニングネットワークについて、改めて整理しておきたい。

ライトニングネットワークを活用したビジネス

弊誌過去記事には、このような報道もあった。

2019年12月12日
TwitterジャックCEOのビットコイン開発部門、ライトニング主要開発者へ資金提供~匿名開発者は14年務めた本業を退職。オープンソースのフルタイムワーカーに

TwitterのCEOであるジャック・ドーシー氏がBitcoinのボランティア開発者を支援する目的で立ち上げた事業Square Cryptoが、ハンドルネーム「ZmnSCPxj」として活動する匿名開発者への資金提供を行った。同開発者は14年間務めた本業を退職し、今後はBitcoinとライトニングネットワークの開発のためにフルタイムで働くという話だ。

ドーシー氏はBitcoinの熱狂的なファンとして有名だが、ライトニングネットワークにも同様に高い期待を持っている。この出資においては一切の個人情報を交換することなく仮想通貨を用いて資金の受け渡しが行われたとされており、今後匿名の開発者に対する企業からの支援として、その道筋を立てた事例とも言える。

2019年12月2日
イーサリアムとライトニングネットワークをつなぐ新サービスREDSHIFTとは?~ライトニングインボイスをイーサリアムでトラストレスに支払い可能に

これはニュース解説になるが、ライトニングネットワークとEthereumをつなぐというもの。

Ethereumの分散型仮想通貨交換所(DEX)「RADAR RELAY」を開発・運営するスタートアップ企業のRADAR社が、新サービス「REDSHIFT」の提供を開始。イーサリアムとBitcoinのライトニングネットワークをトラストレス(非中央集権)にブリッジすることができるツールを発表した。簡単に解説すると、ライトニングInvoice(請求書)をBitcoinまたはEthereumで送受信できる支払いツールで、アカウント不用で資金を管理することができるのが特徴だ。ライトニングネットワークは、他のブロックチェーンとの関わりも生まれているのだ。

そういった動きの中、一方でライトニングネットワークの特徴の1つであるマイクロペイメントに関するプロダクトも多数見られる。

2019年12月10日
福岡Nayuta社、ビットコイン・ライトニング対応ウォレットをオープンソース化~スマホでフルノードとSPV方式のハイブリッドノード運用が可能

ライトニングネットワークの公式仕様の1つ「Ptarmigan」を開発する福岡のNayuta社が、ライトニング対応ウォレット「ナユタウォレット」(Nayuta Wallet)のソースコードを公開した。アプリは初の「ビットコインフルノード・SPVモード」のハイブリッドモードを搭載したライトニングウォレット。そのオープンベータ版が公開された。

海外ではライトニングネットワークを活用した即時決済を、大手が利用し始めたという報道も見られる。

2019年11月12日
米英など5か国展開中のビットコイン決済アプリFold、Airbnbに対応~アマゾン・スタバ等に続く11番目の提携先。ライトニング利用の即時決済が可能に

2019年7月11日
米国内のスタバやアマゾン、Uberがビットコイン支払いに対応。Fold社提供のライトニング決済~バーコードを用いた店頭決済とオンライン決済が可能

これらは米Fold社が提供するBitcoinを利用した支払いアプリ「Fold App」に関するもの。前者はAirbnbに対応したという発表だ。Airbnbが提供する民泊サービスにて、Bitcoinを用いた支払いが可能となる。ここにライトニング利用の即時決済が採用されている。

ライトニングの新動向Lightning Service Providerという考え方

ライトニングネットワークビジネスに、新たなトレンドLightning Service Provider(LSP)という動きが始まりつつある。前述のLightning Labsが、LSPをコンセプトとしたプロダクトをリリースする企業の1社だ。

LSPとは何か。ビットコイン研究所は以下のように解説する。

ライトニングネットワーク対応のウォレットやアプリケーションは、Bitcoinブロックチェーンのオンチェーンによるトランザクションとは異なる。ウォレットの機能に加えて、ウォレットの上のレイヤーでライトニングのノードに「流動性提供」「効率的なルーティング」「ネットワーク監視」「バックアップ」などの付加的なサービスが必要になる。これらが存在しないと、送金や受金が機能しない。ユーザーが安定してライトニングを使えるように、これらの付加的なサービスを裏で提供するのがLSPの役割だ。

ユーザーに対して安定したライトニングネットワークの利用、サービスを提供していくのがLSPである。ライトニングネットワークにおける新ビジネスの兆候だという。

LSPという言葉を使い出したのは、イスラエルに本社を置くBreez Development(ブリーズ社)の開発チームだ。ブリーズ社は、ライトニングネットワーク対応のウォレットアプリを開発しており、同社には、リクルートが投資子会社を通し出資している。

2019年6月11日
リクルート、ビットコインの高速少額決済ウォレットアプリ提供のブリーズ社に出資~ライトニングネットワーク対応Android向けアプリ。店舗向けPOSシステムも開発

ブリーズ社のウォレットアプリは、BitcoinをSatoshi(1BTCの1億分の1)という単位での少額決済ができることが特徴だという。

なお、LSPについては、ブリーズ社CEOのBreez Roy Sheinfeld氏が、Mediumにて「Introducing Lightning Service Providers」という記事を投稿している。興味のある人は一読されてはいかがだろうか。

最後に

ライトニングネットワークは、実用化に踏み出し、いよいよビジネスとしての成立が見えてきた段階にある。プロダクトの数や投資案件の金額から見ても、前進をしている様子は伺えるのではないだろうか。