イベントレポート
GMO、ステーブルコインに対する取り組みを推進、仮想通貨マイニングマシン製造は遅延
営業利益はインフラ・仮想通貨・金融の各事業でカバー、GMOインターネット「2018年12月期第3四半期決算説明会」より
2018年11月13日 16:33
GMOインターネット株式会社は11月12日、2018年12月期「第3四半期決算説明会」を開催した。グループの連結業績概況についてはGMOグループ代表の熊谷正寿氏が、各セグメントの業績については取締役副社長の安田昌史氏が説明した。また、新規事業である仮想通貨関連の事業について、現在の事業の進捗、および今後の事業方針について、もっとも多くの時間を割いて説明をし、質疑にも応じた。
連結業績概要
グループの売上高は対前年同期比22.0%増の1371.6億円、営業利益は44.4%増の173.1億円、経常利益は40.3%増の165.0億円と、いずれも過去最高業績となった。前四半期との比較では、広告・メディア事業における営業利益の落ち込みをインフラ、仮想通貨、金融の各事業でカバーをした。
広告・メディア事業の落ち込みは、一連のアドフラウド問題などの影響により、インターネット広告市場全体が厳しい外部環境であったことに加え、自社の広告掲載基準を厳格化したことなど、広告・メディア商品の健全化に向けた取り組みが重なったことにより、営業利益は大幅なマイナスとなった。
仮想通貨事業は、自社マイニング事業ではビットコイン価格の下落や総グローバルハッシュレートの上昇というマクロ環境の影響を受けて落ち込んだものの、交換事業の事業基盤の充実が進んだことから、売上は26.1億円、営業利益は1億円のプラスとなった。
仮想通貨事業領域の業績
GMOグループの仮想通貨関連事業は、自社マイニング、マイニングマシン開発・製造・販売、クラウドマイニングを包含する「仮想通貨マイニング事業」、「仮想通貨交換事業」、ステーブルコインを発行する「仮想通貨決済事業」の三つから構成されている。
仮想通貨関連事業全体としては事業開始1年で、売上26億円、営業利益1億円を達成した。とりわけ、GMOコイン社の仮想通貨交換事業では、売上13.6億円、営業利益7.4億円となり、前四半期との比較で34.4%の増益となった。仮想通貨そのものの取引量が減少する傾向にはあるものの、さまざまな施策を行った結果、プラス転換を達成したとしている。それに加え、本年9月からは仮想通貨「板」取引所方式のサービスも開始をしている。
自社仮想通貨マイニング事業に関しては、自社マイニング施設へのマイニング機器を計画通りに配置したことにより、自社ハッシュレートは増加したものの、グローバルハッシュレートが増加したこと、仮想通貨の単価が軟調であったことなどの外部要因、そして過去に導入したマイニング機器の減価償却が負担となっているため、利益が圧迫されているとしている。
仮想通貨交換事業における売買代金と口座数の推移をみると、売買代金は2017年12月をピークにこの1年で大幅な減少をしたが、口座数は右肩上がりで堅調に拡大をしている。
新サービス──円ペッグ通貨「GMO Japanese YEN」
2018年10月9日、GMOインターネットは、新サービスとして日本円と連動したステーブルコイン(円ペッグ通貨)である「GMO Japanese YEN」の発行を発表している。当初、この通貨の識別コード(ティッカーシンボル)を「GJY」として発表したが、わかりにくい、覚えにくいという意見が多く寄せられたため、「GYEN」と改めたと説明した。この円ペッグ仮想通貨は、今後、アジア地域での取引所上場を目指しているという。
法定通貨と連動する仮想通貨のメリットとしては、価値が安定しているために決済に利用しやすいという点ある。これまでのよく知られている仮想通貨は価格変動幅が大きいために、主に投機的な金融商品として捉えられがちで、実際の決済にはなかなか利用されてこなかった。同社としては、日本円と価値が連動するように発行元が管理を行うことで、価値を安定させ、法定通貨を補完するような利便性が高まり、決済への利用を推進していきたいとしている。
具体的なメリットについて、熊谷代表はすでに積極的に運用されている米ドルと連動した仮想通貨であるTether(テザー)を例にあげて説明した。テザーは送金を目的とするために、他の通貨(法定通貨や仮想通貨)から一時的に変換をして利用されているという。その理由として、仮想通貨取引所間で送金をすれば、銀行などの金融機関を通じて法定通貨を送金するよりもはるかに低いコストで実行できるメリットがあるという。
例えば、日本国内の送金では全銀ネットワークを使ったり、国際の送金ではSWIFTを経由したりするため、その利用コストが手数料として利用者に転嫁される。決済という点ではクレジットカードも構造は同じで、CAFISという決済ネットワークを使用するため、そのためのコストが手数料が加盟店に転嫁される。それに加え、国際間の外貨送金では国ごとの規制もある。しかし、法定通貨と連動する仮想通貨に変換すれば、これまでのコストが高いインフラや規制をバイパスするかたちで、安定した価値のある通貨の送金を安価に実行できるというメリットがあるという。
同社としては、今後の決済インフラとして、革新的な利用が考えられる分野であると見込んでいると述べ、今後の普及を狙っていくとしている。
事業課題──マイニングマシン「GMO miner B3」の出荷延期
2018年7月に発表した独自のマイニングマシン「GMO miner B3」をグループ外の企業に販売をするという計画が遅れている。また、今後の出荷のメドも立っていないという。その理由としては、この機器を製造するために必要な部品、主に抵抗器とコンデンサーの需給が国際的にも悪化していて、その調達が困難になっているため、製品の製造に着手できないでいるという。
さまざまな調達チャンネルを模索して、これらの部品の調達を進める努力はしているものの、現在のところ、具体的な納入時期について、約束はできない段階だという。この商品は発表後、製造能力を上回るほど多数の注文を受けてはきたが、このように納品が遅れてしまっているため、返金を希望する顧客への対応も行っているという。
こうした納品の遅延にともなうマイニング事業への影響を最小限に抑えるため、今後、海外にある自社マイニング施設をより地代家賃や電気代の安い場所へ移転することを計画しているという。将来はマイニング設備の償却負担の減少なども見込まれるものの、グローバルハッシュレートや仮想通貨の単価の推移によっても業績は大きく変動をするとしたうえで、業績への影響を軽減するための施策を積極的にとるとしている。
とりわけ、発表した当初、熊谷社長は最新の半導体プロセスを使うことによる高い計算能力と省電力性の実現がこの事業の競争力の源であると説明してきたが、その後の情勢の変化や技術的な知見を積み重ねた結果、必ずしもそれだけではないと気づいたという。マイニングマシンはスマートフォンのように、小型化したうえで持ち運ぶような必要があるものではないので、いたずらに集積度を上げることにこだわらなくても、少し前の“枯れた”半導体技術のほうが、むしろ単価が安くなる可能性があるという。
むしろ、こうした機器を収容すべき施設の地代家賃や電気料金の安い場所を見つけて利用した方が、全体的なコスト効率が上回るという見方もできるとしている。日本は世界の中では電気代がとても高く、安くなると説明しても「それほどの効果は見込めないのではないか」という先入観をもった見方もされるが、世界を見渡すと日本の十分の一というような驚異的な単価で供給されている場所もあるという。今後はこうした国際的な観点をふまえた戦略をとると説明した。