イベントレポート

金融庁「ICOは問題を抱えるも低コストかつグローバルに資金調達可能なメリットもある」と分析、研究会会議第10回の詳細レポート

仮想通貨・ICOの新制度や規制案を具体的にまとめる議論は次回会議からとなる模様

 本稿では、11月26日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第10回のイベントレポート第2弾として、「ICOに関する規制のあり方」について討議された会議内容を報告する。

 なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第10回イベントレポート第1弾「金融庁が前回に引き続き『ICOに係る規制のあり方』を討議、ICOの課題を明確化」にて、今回の研究会の議題を要約しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。

ICOへの金融規制を検討するにあたっての基本的な考え方

ICOの定義(金融庁資料より引用、以下同)

 本研究会は、前回に引き続きICO(Initial Coin Offering)についての討議となる。今回は、これまでの研究会で討議されてきたICOに対する規制のあり方も踏まえて、さらに討議を行っていく。ICOに関しては、これまでの議題の中で最多となる討議回数になる。

 研究会のスタンスとしては、ICOについては多くの問題を抱えるも、メリットとしてスタートアップ企業や中小企業が低コストかつグローバルに資金調達が可能であることを挙げ、ICOトークンを発行することで新たな流動性を生むなど、既存の資金調達手段にはない可能性を指摘する意見も多いことから、ICOを禁止するのではなく、詐欺的事案が多いことなども踏まえた上で、投資家に対して適正な自己責任を求めながら、一定の規制を設け、利用者保護や適正な取引の確保を図っていくことが重要であるとしている。

 ちなみにICOに関する問題についても、情報共有が行われている。たとえば今回の資料では「ICOに関する海外での調査・報告等」として、海外のICOでの問題点を報告する。資料によると、海外では78%のICOプロジェクトが詐欺(scam)案件であることを挙げている。また、71%のICOは、製品やプロトタイプをまったく市場に提供していないという。ホワイトペーパー等の販売資料で約束をしたトークンの供給量上限や譲渡制限の有無などが、実際のトークン設計に反映されていないこともあるそうだ。

 また、米国証券取引委員会(SEC)のSEC執行部門の年次報告書では、2018年9月末までにICOや暗号資産事案を含む20件のサイバー関連案件を検挙し、225件以上を捜査中であることを報告している。

 ICOに関する問題点については、国内においてもICOが有効に活用された事例がほとんどなく、ずさんな事業計画と詐欺的事案も多いことから、既存の規制では利用者保護が不十分であるという。多くの場合、投資家は転売できれば良いと思っており、トークンの発行体は資金が調達できれば良いと思っている現状があり、モラルハザードが生じやすいことが指摘されている。

 討議の中で、メンバーからはこれらの件については、現状のICOがどのようになっているのか、よりしっかりと動向を調査する必要があるのではないかという意見も聞かれた。ICOと仮想通貨の市場価格とが連動しているかは定かではないが、現在のICOは発行後、価格が発行価格よりも上回っているものはわずかに2件のみ(メンバーの意見)であり、最初から投資家が損をするのが分かっているものに自己責任以外に本当に規制が必要なのかという声も挙っている。ICOをSTOといった言葉に代えたところで、高値づかみする素人投資家をつかまえる手段に代わりはないのではないかという。

金融規制を要するICOについて

仮想通貨に係る整理

 投資性の高いICOについては、その特徴とどのような金融規制が適切であるかが整理され、討議が行われた。

 一般的に投資性を有するICOは、ICOトークンに表章されるとする権利(以下、トークン表示権利)がトークンと共に電子的に移転するものであるため、流通性が高いという。また、一般投資家を対象とするものが多く、設計の自由度が高いことから、発行時と発行後に、発行者と投資家の間の情報に差異が生じやすいとのこと。対面によらずに、インターネットを介して投資家を募ることから、発行者や販売者が潜在的な投資家にアプローチをすることも容易であると指摘する。一方で、対面販売ではないことから実態がないなど、詐欺的な事案を判別しづらいという。さらには、仮想通貨等を利用した電子的方法での出資が可能なため、大口投資への心理的障壁が低いとのこと。

 これらの特徴は、いずれも一般投資家にとってのリスクとなるため、これまでの研究会においても既存の資金調達手段に求められている規律、規制を鑑み、投資性を有するICOにも同等な規律が必要ではないかという意見が挙っていた。

 それらを踏まえ、発行者と投資家の間の情報の差異については、継続的な情報提供および開示の仕組みを作ること。詐欺的事案を抑止するために、販売業者等の第三者が関与したスクリーニングを及ぼすことができる仕組み、もしくは発行者または販売者を監督する仕組みを考える。発行者と投資家の間の情報の差異の大きさや、投資家の投資能力や経験等に応じて、流通の範囲等に差を設ける仕組みを検討する。その他、不公正な行為を抑止する仕組みの考案などが議題として挙っている。

 また、規制については、株式等の有価証券に係る規制が参考になると考えられるが、その点についてはどうかといった意見も出ている。

 なお、金融商品取引法上の資金調達の形態としては、不特定多数の一般投資家が参加できる金融商品取引所における資金調達があるほかに、プロ向け市場と言われる特定取引所金融商品市場における資金調達、投資型クラウドファンディング、適格機関投資家私募(いわゆるプロ私募)といった方法があることが参考に挙げられた。

 投資性を有するICOに関する規制の調整や検討が必要とされる事項についても、具体的な項目として以下の7項目が挙げられている。

  1. 投資に関する金融規制を要するトークン表示権利の性質
  2. 開示規制
  3. 事業・財務状況のスクリーニング、業規制
  4. 一般投資家への投資勧誘の制限等
  5. 流通の場に関する規制
  6. 不公正取引規制
  7. その他
既存の資金調達手段において求められる規律

 投資に関する金融規制を要するトークンについては、トークン表示権利が投資としての性格を持ち、法定通貨で購入されること、もしくは仮想通貨で購入するが実質的には法定通貨で購入されるものと同視されるものは、金融商品取引法上の集団投資スキーム持分として規制対象になると考えられるとしている。

 ただし、トークン表示権利の流通性の高さを考えると、通常は流通しない集団投資スキーム持分と同等の規制ではなく、流通性の高いことを前提とした規制を適用することも考えるべきではないかという考えもあるようだ。

 開示規制に関しては、金融商品取引法上、開示規制の対象となる有価証券のうち、広く流通する蓋然(がいぜん)性が高いと考えられる有価証券(第一項有価証券)と同等の整理が適当ではないかという。

 事業・財務状況のスクリーニング、業規制に関しては、詐欺的な行為や内容があいまいな権利の発行や流通を防止するために、トークン発行事業者について、またその財務状況のスクリーニングや業規制について考察し、第三者による監督等、何らかの対応が求められている。

 さらに、一般投資家への投資勧誘の制限や、金融商品でいうところの取引所(証券取引所など)のような流通の場に関する規制、相場操縦の禁止やインサイダー取引などの不公正取引規制、また、それ以外に検討すべき点はあるかなど、それぞれ金融商品取引法上の有価証券の例を鑑みるなど、参考にすべき項目を資料にて多数提示する。

 研究会では、これらについて多くの討議を行ってきたが、今回配布された資料にて整理された課題や論点について、また参考として提示された金融商品取引法上の規制などの適用について、おおむね異論はないという意見も多く聞かれた。また、規制以前に、自己責任であるという旨を投資家に対して改めて徹底することが重要であることも指摘された。

最後に

 本研究会の最後に神田座長より、次回以降の研究会においては、いよいよ仮想通貨やICOに関する新たな制度や規制案について、制度として、より具体的にまとめられるよう議論をしていきたいという趣旨の発言があり、各メンバーに改めて意見をまとめていく方向で考察いただきたいとの要請があった。

 なお、今回の研究会ではICOに関する討議のほかに、研究会におけるこれまでの論点整理が行われた。こちらについても、さらに別稿にて報告する予定である。そちらも併せて一読いただきたい。

高橋ピョン太