イベントレポート

「ブロックチェーン上場企業が求める人材」をテーマに今必要なエンジニア像を探る

専門性よりもマルチな人が重要だと業界トップランナーは語る

 ブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」を運営する株式会社FLOCは4月10日、東京・丸の内vacansにてブロックチェーン業界に興味のある人や転職を考えている人向けに無料セミナーを開催した。イベントでは、業界のトップランナーが「ブロックチェーン上場企業が求める人材とは」をテーマに語るトークセッションと互いに交流をはかる懇親会が行われた。

 FLOCは、「FLOCブロックチェーン大学校」による教育事業を軸に、人材紹介、企業研修、ベンチャー育成や投資を行うインキュベーションなど、ブロックチェーンビジネスを構築するためのあらゆるソリューションを提供している。今回のセミナーは人材紹介サービス「FLOC agent」主催による、ブロックチェーン業界におけるキャリアアップのヒントを見つけるためのイベントとなる。ブロックチェーンビジネスに取り組む上場企業で活躍する第一線のプロに、採用面接のような場では聞けない率直な質問を直接することができる。

 登壇者は、株式会社インフォマート・IMアドバンスドテクノロジーラボ部長の箱崎竜太郎氏と、株式会社カイカ・ブロックチェーンコンサルタントの奥達男氏の2名。FLOC agentのキャリアアドバイザーがモデレーターを務め、パネルディスカッション形式でテーマ「ブロックチェーン業界で求められる人材」について語っていく。

登壇者の会社紹介から

株式会社インフォマート・IMアドバンスドテクノロジーラボ部長の箱崎竜太郎氏

 イベントは登壇者の所属する会社紹介からのスタートとなったが、今回は、両者が所属する会社がブロックチェーンに関してどのような取り組みを行っているのか、また両者がどういう経緯からブロックチェーンに携わるようになったのかなど、イベントのテーマとなる「ブロックチェーン業界で求められる人材」について会社紹介内容がそのまま参考になる、冒頭から熱いトークとなった。

 箱崎氏の務めるインフォマートは、企業間(BtoB)の商取引を電子化するプラットフォームを提供する会社だという。所属する部署IMアドバンスドテクノロジーラボでは、先端技術の研究や実証に加えて、新規事業のためのデータ分析やテクニカル基盤の構築を行うほか、協業先との共同研究を主に行っているとのこと。

 インフォマートの商取引を電子化する「BtoBプラットフォーム」は、商談、受発注、規格書、請求書、契約書、見積書といった商取引の一連の作業をプラットフォーム化し、すべて電子化するというサービスを提供している。これらは、機能ごとに単体で利用可能なサービスであり、メインになるのが受発注で(最もユーザー数の多いもの)、最近は請求書の電子化サービスの売り上げも伸びつつあるという。同社のプラットフォーム上で行われている商取引の流通金額は、この3か月で3兆円を超えているとのこと。この1年で12兆円相当になるだろうと、箱崎氏は予測しているという。ちなみにサービスは無料で利用できる機能もあり、利用者は無料アカウントも含めて30万社を超えているとのこと。

 箱崎氏のブロックチェーンに対する理解は、「情報」に対して「価値」という重みを持たせて、特定の機関に頼らず、プロトコル自身が「信用」を担保する、トラストレス(信頼する第三者を必要としない)な仕組み。かつ「信用」と「価値」ある「情報」を世界中の参加者全員と共有できるものだという。この仕組みは(AIやIoTも含めて)、インターネットの次のパラダイムシフトであると、箱崎氏は語る。

 ただしブロックチェーンは使い方を間違えると、小難しく、非効率で、やたらに遅い分散データベースになってしまうともいう。箱崎氏はそのようなブロックチェーンに対して、自社の強みを発揮させて何ができるかを考えたという。

 まず自社の強みは、30万社の利用者がいる「BtoBプラットフォーム」であるという。見積、契約、受発注、請求と一連の商取引をプラットフォームとして提供しているが、この機能間をスマートコントラクト(契約の自動執行)で実現すべく仕組みができれば、さらなる効率化を提供できるとのこと。また商取引の発注から請求業務まで補っているため、先々はトークン決済などで利用者に対して利便性等の大きなメリットをもたらすことも可能な立ち位置であると箱崎氏はいう。

 同時にもう1つの強みとして、企業間の商取引を20年以上続けてきたことから、非常に多くのトランザクション(取引)が蓄積されており、かつ現在も増え続けていることを挙げた。こういったトランザクションデータを持っている会社は、実はあまりないという。ここをうまくデータコンソーシアム化し、関係するプレイヤーと連携させていくことで、さらなるネットワーク効果が得られる可能性が出てくるだろうというのだ。

 このようなスマートコントラクト、トークン決済、データコンソーシアムを実現させる手段として、ブロックチェーン技術が重要なものになっていくだろうと箱崎氏はまとめた。もちろん、必要なものはブロックチェーン技術だけではないが、その占める割合は大きいという。

 箱崎氏は、現在開発を進めているブロックチェーンを使った取り組みについても紹介をする。まずインフォマートでは、PoC(Proof of Concept:概念実証)の枠をどうしても超えたかったので、PoCを飛ばして、すでに自社サービスに組み込み始めているという。最初に契約書の照査を行う部分を、自社のブロックチェーン基盤にのせて動かしているとのこと。契約書に関しては、以前からPDFファイルに電子署名とタイムスタンプを入れているので、正直、これでサービスが成り立つことから、裏でブロックチェーンが動いていようがいまいが問題はないという判断で、その部分をブロックチェーン化することにしたそうだ。

 PoCを飛ばした理由は、インフォマートの次のステップとして自社のプラットフォームのトランザクションをすべてブロックチェーンに連携させてしまおうという計画の中で、より大きなプラットフォーム連合、エコシステムとかトークンエコノミーといったいい方もあるが、そういった大きな経済圏を作りたくて、そのための実績としてPoCではなく、自社内のサービスで作ったというノウハウを残したかったのだという。

 また、現在ブロックチェーンについてはさまざまなプロダクトが出ているが、それらについてもパブリックがいいのか、はたまたコンソーシアムがいいのかなど、そのあたりも検討中で、ブロックチェーン基盤のさらなる充足「技術力」を高めるために、いろいろと試しているという。具体的には、Hyperledger FabricやEthereum、EOSを試しているそうだが、このあたりはいつでも変更できるようアダプタブルな設計になっており、いったん6月には完成形にするとのこと。

 現在、こうしていろいろと試しているのはテクニカル戦術面でのオプションとしての検討を行っている最中であるという。ブロックチェーンのプロダクトとしてこのあともいろいろなものが乱立してくる可能性もあり、どれが生き残るのかわからないので、インフォマートの戦術としては常にいろいろなものを評価していきたいとのこと。

 ちなみに、国内では上場をしていない仮想通貨EOSのブロックチェーンを選択肢に入れている理由を尋ねると、EOSはスループット性能や手数料無料(ユーザーサイドが)など世界的にあらゆる点で評価が高いこともあり、次世代ブロックチェーンの主流となる可能性もゼロではないので、知っておいて損はないということと、我々の技術力の向上のためにもチャレンジをしてみる価値があるという判断の上の採用だという(これを使っていくということではない)。

 さらに今後は、レイヤー2としてオフチェーン、レイヤー3としてクロスチェーンやサイドチェーンへの取り組みや対応をしていきたいと、今後の計画についても明かしてくれた。その先に見えているのが前述の機能間のスマートコントラクトの実現、トークン決済の実現からのトークンエコノミーの創生だという。そしてこれらを実現するために最も重要なのはコンソーシアム化(パートナーの選定)だと箱崎氏はいう。コンソーシアムの実現に向けては、すでに関係各社に働きかけも行っているなど、箱崎氏は自社のブロックチェーンに対する取り組みについて可能な限りを語りつくしてくれた。

 ちなみにこれは私見だが、もしかしたらブロックチェーン技術はFinTech技術として発展するよりも先に、食品トレーサビリティや製造トレーサビリティなど分かりやすい利便性の高いものが商用にのってくるほうが展開が早いのではないかと箱崎氏は見ているという。そっちから始まりつつ、その後にFinTechが追いつき、追い越していくのではないかと見ているそうだ。

カイカの事業について

株式会社カイカ・ブロックチェーンコンサルタントの奥達男氏

 続いては、カイカの奥達男氏による会社紹介。カイカの創業は古く、80年代より情報サービス事業を展開してきたという。始めは、SIer(システムインテグレーションを行う業者)向けに、金融関連のシステム開発などを請負う事業を長いこと行ってきたとのこと。2016年に事業転換をしていくという方針のもと、カイカは「ブロックチェーン」「AI」「IoT」を柱とするフィンテック事業を展開し、現在に至るという。

 奥氏は、ちょうど事業転換の時期に長らく面倒を見ていた某大手団体のシステムのプロダクトから離れていたところ、2016年の6月に会社からブロックチェーンをやってみないかと突然いわれ、始めることになったと、そのきっかけを語る。しかしその時点で奥氏はブロックチェーンどころかBitcoinも知らなかったというのだが、さらに会社はその1か月後に、以前から取引のあった大手保険会社でブロックチェーンの講義をしてくれという司令がくだったというのだ。会社も会社だが、それを引き受けた奥氏もすごい。奥氏は、そこから1か月で猛勉強をしたという。2016年のその頃は、ネット上には今ほどブロックチェーンに関する情報はなく、Bitcoinはまだあったほうだが、それでもBitcoinはPoWで動いていて、PoWの仕組みはどういうことでというような肝心な情報は英語ばかりだし、本もそれほど出ておらず、とにかく大変だったが、それまでに資料を作り上げ、無事に講義も行ったという当時の苦労話を披露する。今見ると、その資料はひどいものだが、そんなこんなでブロックチェーンに携わるようになって、現在、こうしてここでトークセッションができるまでになったと、これまでの経緯を語ってくれた。この1、2年は、ブロックチェーンに関する情報も日々更新されるので、毎日が勉強だったという。

 カイカに話を戻すと、まだSIer向けのソフトウェア開発を中心とした情報サービス事業は根っこにはあり、事業のベースにはなっているが、徐々にFinTech分野への移行は始まっているという。ブロックチェーン事業としては、グループ会社に株式会社フィスコ仮想通貨取引所という主にB向けの仮想通貨交換所を運営している会社があり、最近は仮想通貨交換所「Zaif」の事業譲渡を受け、2つの交換所を運営中だが、そのバックボーンとなる裏側の仕組みをカイカが担っているとのこと。Zaifで仮想通貨の流出事件が起きたときにもカイカがサポートをしてきたという。両仮想通貨交換所は将来的にシステムとサービスの統合を予定しているが、システム構築はカイカおよびカイカの100%子会社である株式会社CCCTが担っているそうだ。

 IoTに関してはグループ会社の株式会社ネクスが行っているが、IoTとブロックチェーンを始めとするFinTech技術は親和性が高いということで、併せてブロックチェーンビジネスの提案を行っているとのこと。ネクスは、IoTを始め通信技術や介護ロボットビジネスも手がけているそうだ。

 またカイカは、さまざまな企業とブロックチェーンに関する実証実験を行っているが、そのパイプ役として活動をするのが同じくグループ会社の株式会社フィスコと株式会社フィスコIRだという。カイカは、これら経営、金融、IT、通信をコアとする総合知をベースに、グループによる事業運営が強みであると奥氏は解説する。

 カイカが推進する仮想通貨およびブロックチェーン事業は、主に3つの柱があるとのこと。1つはフィスコ仮想通貨取引所を軸とした、仮想通貨事業サポート。もう1つはブロックチェーン技術活用を軸とした、ブロックチェーン事業。そしてもう1つはトークンやブロックチェーンを利用したプラットフォーム事業。大きくこの3つに分かれているとのこと。ちなみに奥氏は、2つ目のブロックチェーン事業に携わり、ビジネスモデル・マーケティングのようなコンサルティング、実証実験、システム構築、セミナー開催等を担っているとのこと。まさにこのセミナーもその一環であるという。

 奥氏の担当するブロックチェーン事業内容をさらに細分化し、詳しく見ていくと、ブロックチェーンを適用したビジネスモデル・マーケティングの立案を行うこと。ブロックチェーン技術を使った開発、開発は顧客ソリューション・サービスの開発と自社コンテンツ・サービス・ソリューションの開発の2種類。また技術を持った要員の提供があるそうだ。技術だけではないところがポイントだという。奥氏いわく、奥氏はエンジニアではないので、プログラム的な技術よりも、アイデアを創出したり、こうしてセミナー等で話せるなど、人を説得するような、いうなれば営業的センスも必要であることを実感したという。この2年、企画書や資料ばかり作っていたのでパワーポイントの使い方が格段にうまくなったと、冗談めいた意見を聞くこともできた。

どんな人材が求められているのか

 お2人の会社紹介から、もうかなりのヒントが出てきたようにも思えるが、ここで改めて両社が欲しいと思う求人内容を紹介する。

インフォマートの求人像

 インフォマートの箱崎氏が所属する部署IMアドバンスドテクノロジーラボでは、エンジニアとして、ブロックチェーン・AI・データ分析ができるエンジニアが望まれているという。またブロックチェーン以外のエンジニアとして、従来のデータベースエンジニアも募集をしているという。特にインフォマートでは、これまでのサービスに関してはデータベースの運用保守やチューニングは必要であり、従来のサービスとブロックチェーンを連携させていくということから、両者が理解できること、もしくは互いの話が理解できることが求められることは間違いない。

カイカの求人像

 カイカでは、プロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダー、システムエンジニア、ITコンサルタント、そしてブロックチェーン開発エンジニア、人工知能エンジニア、データサイエンティストを欲しているという。当然だがブロックチェーン開発エンジニアも求人内容に含まれるが、ブロックチェーンだけできるというよりも、会社紹介の話の中でも出ていたように、ブロックチェーンで何ができるか、どんなことができるかを立案できる能力が求められるということで、そのほかのこともできるほうが望ましいようだ。具体的には、ブロックチェーンエンジニア、ビジネスモデル・マーケティング、データサイエンティスト、そして営業と、多種多様な人材が求められている。

最後に

 今回のセミナーはFLOCの人材紹介サービス「FLOC agent」主催ということもあり、「ブロックチェーン上場企業が求める人材とは」というテーマでイベントを行ってきたが、実はブロックチェーン企業に勤める登壇者の2人にフォーカスしたイベントとして開催したと、モデレーターが最後にその趣旨を明かした。つまり、登壇者の2人がどういう人物だったのかを持って帰って考えてみれば、何かのヒントになるのではないかというのだ。

 さらにモデレーターは、2人はまだブロックチェーンがあまり知られていなかった頃からアンテナ感度が高く、ブロックチェーンについては自ら学び、努力しながら、自社で事業化をするためにまわりを説得したり、前例のない中でさまざまな仮説を立てながら、会社の承認を得るに至った経緯があるという。そして事業化後の課題も多かったと思うが、さらに情報をキャッチアップしながら日々学ぶということをしつつ、諦めることなく、できない理由を見つけるよりも、できる方法の開発・研究を積み重ねてきた人物像が共通しているのではないだろうかと、2人の人物像についてまとめた。

 トークショー後は懇親会となり、和気あいあいとブロックチェーンについて屈託のない意見を交換し合いながら、また登壇者の2人に気兼ねなく質問をし、ブロックチェーンの将来について語り合い、幕を閉じた。

高橋ピョン太