イベントレポート
トレンドはサプライチェーン。メイドインジャパンの信用をCordaで保証することもできる
SBI R3 JapanによるCordaミートアップイベントより
2019年6月11日 06:00
SBI R3 Japan株式会社は6月4日、東京都・渋谷のNeutrino Tokyoにてミートアップイベントを開催した。同社はSBIと米R3社が2019年1月に設立した合弁会社。今回のイベントでは、R3社の開発する分散台帳技術(DLT)「Corda」(コルダ)の国内での普及に向けて、その概要説明やユースケースが紹介された。
セッションを担当したのはSBI R3 Japan・ビジネス開発部長の山田宗俊氏とプロダクトサービス部長の生永雄輔氏。山田氏がCordaを含むDLTのメリットと概要、ユースケースを説明し、生永氏が他のブロックチェーンとの技術的な差異を解説した。
実際のセッションと順番が前後するが、本稿では生永氏が行った説明からCordaとは何かを説明した上で、山田氏が説明したユースケースを紹介する。
Cordaの技術的説明
生永氏は2つの評価軸でCordaの特徴を説明した。まずはBitcoinに代表されるパブリックチェーンと、プライベートチェーンであるCordaの違い。もう1つは代表的な3つのエンタープライズ向けブロックチェーン技術としてCorda、Hyperledger Fabric、EthereumのQuorumを挙げ、三者の中でCordaがどういった特長を持つのかを説明した。
Cordaのブロックはチェーン状ではない
Cordaは平たく言うと、Bitcoinにプライバシーを加えたもの。ただし二重支払いの防止には異なるアプローチを取る。以下では生永氏の説明を噛み砕いて紹介するが、詳細な仕様説明はSBI R3 JapanがCordaのデータモデルの特長に関する文書を公開しているのでそちらをご確認いただきたい。
Cordaでは、1つのブロックに1つのトランザクションだけを格納する。ブロックの連なりは一本ではなく分岐し、全順序性を持たない。つまり、ブロックがチェーン状には並ばない。
そういった特性を持つことから、2018年末頃までR3自身がCordaをブロックチェーンとは呼ばずDLTと呼んでいた。2019年に入ってからは明確にブロックチェーンと呼ぶこともある。DLTの一種がブロックチェーンなので、Cordaがブロックチェーンかそうでないかはあまり重要ではないようだ。
1ブロックに1トランザクションとすることで、ネットワーク参加者に対してブロック単位でデータ閲覧の権限を設定することが可能になる。こうして取引のプライバシーを担保することができる。
ブロックの連なりは、前のブロックが次のブロックを指すOutputと、その逆であるInputによって表される。Inputは一意に定まるが、Outputは複数になる場合もある。不正なブロックが使用済みのInputを指定することで二重支払いの問題が生じる可能性があるが、CordaではNotaryノードという検証と署名などブロック生成の役割を担うノードによって、二重支払いを防止している。
3大エンタープライズブロックチェーンとの比較
続いて生永氏はCordaとHyperledger Fabric、Quorumの比較を行った。仕様の違いであるため、性能の優劣とは違うがCordaの便利な点は扱えるデータベースの形式に関係データベース(RDB)が含まれることだという。Hyperledger FabricやQuorumではRDBを直接的に扱うことができず、外部のデータベースとしてネットワークの外に構築するなどの対応が必要だ。その点でCordaはRDBを用いたデータ分析などへの汎用性が高い。
数値的にCordaが明確に優れている点は、スケーラビリティだ。生永氏は「エンタープライズでは用途に応じたTPS(秒間トランザクション数)を満たせばいいから、さほど重要な要素ではない」としたが、CordaはDTCCのテストで6500TPSから22000TPSを実現した。Hyperledger FabricやQuorumが現状ピークで2000TPSから4000TPS程度と言われている中で驚異的な数値だ。このスケーラビリティは、トランザクションがP2Pで構成されることに由来する。
Cordaのユースケース
ここからは山田氏が説明したユースケースを紹介する。山田氏はセッションの前半では「DLTでできること」について説明したが、そちらについては同氏がMediumに掲載した文書「業務改善の歴史の中でブロックチェーンを紐解く」をご確認いただきたい。端的に言うと、会社間の壁を取り除いてワークフローを連結させ、業務改善を実現することができる技術となる。
Marco Poloプロジェクト
Cordaのプロジェクトで2019年中に商用化を控えているものが3つあり、その一つが三井住友銀行が推進するMarco Poloプロジェクトだという。貿易金融という、輸出入におけるバイヤーとサプライヤーの取引の決済を円滑化しようというもの。貿易金融の決済方法には信用状取引とオープンアカウント取引があり、Marco Poloでは後者を扱う。
オープンアカウント取引では、いわゆる掛取引。サプライヤーが先に商品を出荷するため、バイヤー側の支払いに対して不安がある。Marco Poloでは売掛債権流動化(Receivable Finance)と支払保証(Payment Commitment)の2つのスキームでサプライヤーを補助する。
上記スライドに示すように、貿易金融のオープンアカウント取引では、請求書のやりとりなどで手作業に頼るところが大きい。Cordaを活用することで、これらの文書の真正性を保証し、業務フローの透明化によって全体の効率化を実現するという。
また、従来複数の銀行との取引において各行個別のシステムに対応する必要があった。Marco Poloでは一度ネットワークに接続すれば複数の銀行と取引できる仕組みを実現しているという。既存の情報入力システムをそのままに、入力情報を銀行側と共有する仕組みを持つことで、現場側の対応を要求せずに業務の効率化を行う。裏側で社外とのワークフローをつないで、そこを流れるようにして効率化を図るものだという。
ここ1年のトレンドはサプライチェーンマネジメント
山田氏によると、ここ1年のトレンドは、モノの流通をブロックチェーンで透明化するサプライチェーンの取り組みだという。直近では2019年4月に、丸紅と双日が関わるComm Chain Project(コムチェーンプロジェクト)が発表された。オーストラリアの石炭の発掘から港への輸送、国外への輸出という一連の工程においてトレーサビリティを適用するというものだ。
日本でサプライチェーンを生かすなら、メイドインジャパンというブランドをグローバルな環境で維持していくことに役立つと山田氏は言う。Cordaでは、日本茶のサプライチェーンマネジメントを行っているパートナーがいる。茶葉を摘むところから加工、梱包、輸出といった各工程をCorda上に記録していく。日本産であることが証明できるという。
ブロックチェーンを活用したサプライチェーンを作ることで、メイドインジャパンという信用を維持することができる。伝統工芸品や日本酒などいろんなものをサプライチェーン上で扱うようにすることで、メイドインジャパンというブランドを世界に輸出していく基盤とすることができるという構想を語った。この動きは日本だけでなく世界中のCordaのパートナー企業も同様であり、サプライチェーンが一つのトレンドとなっていることを説明した。
まとめ
2018年までCordaというとエンタープライズブロックチェーンの一角として認識こそされるものの、Hyperledger FabricやEthereumと比べると国内で取り組んでいる企業が少なく、なんとなく金融に強いという印象があった。実際は、今回両名が説明したように、非金融でも使える汎用的なブロックチェーンとして活用の幅がある。
2019年に入ってSBI R3 Japanができたことで、国内向けのCordaの情報発信は一気に強力になった。今後は国内向けの情報発信に力を入れるとともに、Cordaの学習機会として有償・無償のトレーニングプログラムも提供していくとのこと。