仮想通貨(暗号資産)ニュース

マネーロンダリング対策の変遷、2019年10月頃実施予定の第4次FATFとは?

警察庁JAFICの年次報告書から学ぶ「仮想通貨交換業の規制背景」

(Image: Shutterstock.com)

 警察庁の犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)は、「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」平成30年版を公開している。同書はマネー・ロンダリング対策(AML)に関わる取り組みや検挙事例、国際的な連携等を報告するもの。本稿では、マネロン対策の取り組みについて簡単に解説した後、同書の中から仮想通貨に関係する部分を抜粋して紹介する。

 マネー・ロンダリングの例として、JAFICが報告する下図のように国境を越えて行われた事例を挙げる。アメリカの農業関連企業が虚偽のメールに従って、日本の国内銀行に送金してしまい、そこからATMなどを通じて犯人グループが資金を取得したというものだ。資金の実態を隠匿しようとした犯行だが、マネロン対策の成果として犯行は露見し、2018年7月に犯人グループは検挙された。

国境を越えて行われたマネー・ロンダリング事例(JAFIC犯罪収益移転防止に関する年次報告書の平成30年版より引用、以下同)

 マネロン対策の取り組みは、現代社会においては国際的な協調の下に進められている。日本は、FATF(ファイナンシャル・アクション・タスク・フォース:金融活動作業部会)に1989年の設置当初から加入し、マネロン対策を推進する。FATFは、法執行、刑事司法及び金融規制の分野において各国がとるべきマネー・ロンダリング対策の基準を策定し、加入各国の足並みを揃えることで、組織犯罪の国際的な広がりを防止している。

 FATFは1990年4月、各国がとるべきマネー・ロンダリング対策の基準として「40の勧告」を策定した。以来数度の改訂を経て、2004年10月にテロ資金供与対策の基準となる「9の特別勧告」を追加、後に「40の勧告」へ統合される。最新版の「40の勧告」は2018年10月に改訂されたもの。仮想通貨交換業者、仮想通貨管理業者、ICO関連サービス業者におけるマネロン・テロ資金供与規制が課された。同年3月・7月のG20における声明で暗号資産(仮想通貨)がマネー・ロンダリングやテロ資金供与等の問題があると提起されたことによる。

 JAFICは新「40の勧告」の項目を下記の通りまとめる。

FATFによる新「40の勧告」の概要

 FATFの策定する「40の勧告」に沿って、各国の規制状況を評価する取り組みとして、加入各国は相互審査を実施している。日本においては、前回2008年10月に「第3次FATF対日相互審査」が実施された。40の勧告に9の特別勧告を加えた49項目中25項目で改善が必要という結果を受けている。米国、英国などの先進国グループと比較すると低い評価であり、以来法改正などで改善を進めてきた。(参考記事:警察庁報告の第3次FATFに関する資料

 「第4次FATF対日相互審査」は、2019年10月から11月にかけて、審査団による現地調査が行われる予定だ。その後、2020年6月のFATF全体会合にて審査が予定されている。先述の通り「新技術の悪用防止」項目にて、仮想通貨交換業者等にマネー・ロンダリング等の規制が課される。

仮想通貨交換業者向けの規制

 FATFは2015年6月、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課した。同時に顧客の本人確認や疑わしい取引の届出、記録保存の義務等のマネー・ローンダリング及びテロ供与規制を課すべき旨のガイダンスを公表している。

 2018年10月にFATFは、勧告15「新技術の悪用防止」を改訂。仮想通貨交換業者、仮想通貨管理業者、ICO関連サービス業者に対して、マネロン・テロ資金供与規制を課した。2019年2月には、勧告15の解釈指針の草案を発表。本草案は2019年6月に正式採用される予定となっている。(参考:FATFの公式声明(2019年2月22日)「Public Statement – Mitigating Risks from Virtual Assets」)

 仮想通貨関連事業向けの規制として、現在は「犯罪収益移転防止法」と一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)が策定した自主規制規則が施行されている。「犯罪収益移転防止法」では、仮想通貨取引で使用するIDやパスワードの授受に関する罰則の他、仮想通貨交換業者に対しては利用者への本人確認の義務や、疑わしい取引の報告義務などが定められている。

 JVCEAは2018年10月24日、金融庁から認定資金決済事業者協会として認定を受ける。同日より、国内仮想通貨交換所に向けた自主規制規則「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規則・ガイドライン」を公表し施行している。内容は金融庁発行の同名ガイドラインに準拠したもの。

 FATFの勧告の対象に仮想通貨に関する項目が追加されて以来、JVCEAはマネロン対策/テロ資金供与対策(AML/CFT)高度化を業界の最優先事項と位置付ける。各交換所における、取引時確認や疑わしい取引の届出、リスク管理等の態勢強化に向けて、自主規制規則に基づく検査・指導等を通じて、具体的な取り組みを進めている。

 金融庁が認定する国内の仮想通貨交換所は原則として、以上のガイドラインと法律に従って、利用者管理や取引のモニタリング等を行い、リスクマネジメントを実行している。2018年2月頃から、複数の国内仮想通貨交換所に対して、金融庁から行政処分が下されている。時流として直近の仮想通貨流出事件に起因する利用者保護の側面もあるが、FATFに向けた規制方針が明確となったことにも由来する。実際の仮想通貨交換所による第4次FATFに向けたマネロン対策/テロ資金供与対策の取り組みは、日本国際金融システムフォーラム2019にて仮想通貨交換所BITPoint社長の小田氏が行った講演にて、細かく語られているので、合わせてご確認いただきたい。