インタビュー

「NEM2では4年をかけて真の分散APIを準備した」=NEM財団代表

カタパルトは性能面の向上だけでなく使いやすさも追求

NEM財団・代表理事のアレクサンドラ・ティンスマン氏(写真左)とNEM財団・共同設立者のジェフ・マクドナルド氏(写真右)

2019年1月にNEM財団(NEM.io Foundation)代表理事に就任したAlexandra Tinsman(アレクサンドラ・ティンスマン)氏と、理事会メンバーでNEM財団共同設立者のJeff McDonald(ジェフ・マクドナルド)氏に話を聞いた。2人は、理事会が進めるNEM財団の改革の取り組みの様子や、NEM2と呼ばれている新技術「Catapult」への意気込みを語ってくれた。

(編集部注:インタビューは7月29日に実施しました)

NEM財団は改革を進めている

──NEM財団の新しい取り組みを教えて欲しい。

アレクサンドラ氏:最近の取り組みを説明する前に、一歩後退して財団が何を行うのかを確認したい。財団はNEMブロックチェーンテクノロジの普及と開発をサポートする。これらをパートナーへのサポートを通して実行する。そして、私たちは教育、トレーニングを提供する。今年は、Catapultの商品化とローンチの準備にフォーカスした。また、私たちは財団の運営上の大幅なコストカットを実行し、監査を行った。これは財団の資金確保と持続性のためだ。

最近の取り組みとして、デジタル・トレーニング・プラットフォームのNEM Academyを構築した。売上げゼロから出発して、2019年には利益を上げ、新しいパートナーシップを獲得することができた。

また私たちはNEM Studios(開発者支援の取り組み)の設置に協力した。これはインドのソフトウェア会社Hatio Innovationsや、PR会社のWaxmanの協力を得ている。

NEM財団・代表理事のAlexandra Tinsman氏

──NEM財団の改革は進んでいるか?

アレクサンドラ氏:改革は順調だ。新たなフロントエンドとなるNEM Studiosの設置に協力した。グローバルなオペレーションを確立し、人事、法務、コンプライアンスを確立した。完全な財務再編を行った。新しいビジネス開発チームもいる。

ジェフ氏:日本の様々な企業がパートナーになるよう、RFP(request for proposal)を募集した。私たちはそこからパートナーを選ぼうとしている。

NEMは「真の分散APIを提供する」ブロックチェーンだ

──NEMの「持ち味」について教えて欲しい。よく言われていることは「開発の容易さ」だが、それに付け加えることは何か?

ジェフ氏:アーキテクチャの設計方針だ。NEMは優れた分散API(decentralized API)を作り出した最初のブロックチェーンだ。これはNEMがAPIドリブンのブロックチェーンであることを意味する。利用者はトランザクションごとにAPIコールを利用できる。さらに我々は、より良いAPIドリブンのブロックチェーンにするための努力を続けている。例えばMongoDBの搭載だ(図を参照)。

NEM2のアーキテクチャは4つのレイヤー(層)から構成。その第2層ではAPIとMongoDBによるデータベース機能を提供する。

NEMのバージョン1(現行版)では、私たちは優れた書き込みのAPIを提供している。NEMバージョン2 Catapultでは、優れたデータ読み出し機能を提供する。これはほとんどのブロックチェーン製品が無視しているものだ。

ほとんどのブロックチェーンは、1秒あたりのトランザクション数を多く記録できること(書き込み性能向上)しか考えていない。自分のすべてのトランザクションをブロックチェーンから取得する方法、ブロックチェーンから情報を取得する方法については考えていない。これは愚かなことだと思う。ほとんどの人々にとって、ブロックチェーン上の情報を(高速に)取得できないことは大きな問題となりうる。

Bitcoinでは、ほとんどの利用者はアプリケーションをサードベンダーのAPIの上に構築する。Coinbase APIやBitPay APIのように。それらを利用する場合、サードベンダーを信用しないといけない。Ethereumでも同様で、ConsenSysのクラウドサービスINFURA(EthereumのAPIを提供)を使う場合には、INFURAを信用する必要がある。一方、NEMは真の分散APIを提供する。誰も信用する必要はない。

ブロックチェーンのトラフィックの半分以上は情報の読み出しだ。Ethereumブロックチェーンの場合、理論上のトラフィックの半分以上をINFURAが処理している。つまりConsenSysが扱っている。これは一つの中央集権化であり、単一障害点だ。ここが壊れてしまうと、アプリケーションが壊れてしまう。

NEMの場合、非中央集権化された1台のサーバーが停止しても、別のサーバーがある。我々はブロックチェーン上のエコシステムに対して、真の読み書き機能を提供できる。

NEM財団・共同設立者のJeff McDonald氏

アレクサンドラ氏:私たちは、Catapultのプロトコルを進歩させ、性能とスケーラビリティのために4つのレイヤーから成るアーキテクチャを採用した。また、私たちは新しいコンセンサスアルゴリズムPOS+を採用した。アドレスに変わるエイリアス・システムを導入した(注:エイリアスを使うには、"NAWNNR-2SEDKU-YOBSKU-Q3VLZE-7WQW3D-YJ6UTE-SXOJ"のような従来のアドレスの替わりに、"crypto.news"のようなネームスペースの先頭に'@'を付ければよい)。加えて、私たちはアセット生成のためのツール群を構築した。結果、非常にパワフルなプラットフォームになった。

ジェフ氏:例えばBitcoinは分散APIを備えていない。きわめて、きわめて基本的な機能を備えるだけだ。またネットワーク上の真のEthereumフルノードの数はわずかだ。EOSではフルノードが21個しかない。

データを読み書きする真の分散APIを作ることは非常に難しい。これに私たちは4年を費やした。Catapult上のNEMは、すべてのノードが完全に分散された読み書きできるノードだ。これは本当に大きな進歩だ。

MongoDBの搭載も、分散APIの提供のためだ。従来のブロックチェーンも似た機能を後付けで構築していた。CoinbaseのAPIのように。しかし私たちのAPIは後付けではない。MongoDBはCatapultの最初のデータベースだが、利用者が他のデータベースを使いたいなら、そうすることができる。例えば独SAPと接続することも可能だ。ただし、それは数カ月におよぶプロジェクトになるだろう。来年には、パートナーからの要望に応えて新しいデータベースを追加する予定だ。

証券トークン、Libraへのコメントも

──最近、セキュリティトークン(証券トークン)に関する取り組みがあるそうだが、それについて聞かせて欲しい。

アレクサンドラ氏:証券会社のパートナーと協力し、ERC1400(Ethereumのセキュリティトークン規格)のような標準仕様を開発するためのワーキンググループを設けている。また、ロビー活動や他のプラットフォームへの働きかけを行っている。

Catapultはメタデータを容易に扱える。このことは、(トークン仕様を)法律上の基準に合致させる上で重要だと考えている。パートナーや議会と協力して、これらの標準を策定していく。セキュリティトークンの構築を開始しているプロジェクトもある。

──Facebookが発表したLibraをどう見ているか聞かせて欲しい。

ジェフ氏:良いアーキテクチャを備えている。私たちが作ってきたものと似ている部分がある。セキュリティを重視しているところは気に入った。

アレクサンドラ氏:Facebook・CEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は「世界を結ぶ」と常に言っている。その意図するところは、新しい経済ムーブメント(注:new economy movement、つまりNEM)も同様だ。新しいデータの取り扱い方、新しいスケーリング(性能向上)の方法を用いて、他者と本当の意味で結びつこうとしている。この世界にはLibraのような新しいやり方がもっと必要になるだろう。

──ありがとうございました。

お詫びと訂正: 記事初出時、記述に一部誤りがございました。お詫びして訂正させていただきます。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。