イベントレポート

Bitcoinの取引通貨は当初ドル中心、2017年頃までは中国元中心、現在は3分の2が日本円 〜金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポート前編

仮想通貨交換業等に関する研究会

 金融庁は6月15日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第4回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。

 今回の第4回会議はビデオ会議を通じて、仮想通貨に関する取引や技術に対して、グローバルに活動されている方々から、それぞれが取り組んでいる活動内容について、またその立場からの視点による仮想通貨に関する見解を聞くヒアリング形式の会議となった。

 最初にマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤 穰一氏、シニアアドバイザーのGary Gensler(ゲイリー・ジェンスラー)氏より、研究者の立場として仮想通貨に対する見解。25分程度の解説ののちに、20分程度の質疑応答に入る。本稿では、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポートの前編として、この部分にスポットを当てた内容を紹介する。

 なお、本稿に続く金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポートの後編では、米Ripple社よりアジア太平洋中東地域規制関連業務責任者のSagar Sarbhai(サガール・サルバイ)氏の解説。さらに、質疑応答の内容を紹介する。

金融市場全体は約2,000兆ドル規模だが、仮想通貨は約3,400億ドル規模程度

 まずは伊藤氏より、MITのメディアラボの仮想通貨、ブロックチェーンなどへの取り組みについての説明が行われた。メディアラボには、仮想通貨に必須の暗号やセキュリティーに関する研究者がたくさんいるほか、今日、これから仮想通貨に関する状況について解説するゲイリー氏のような米国の商品先物取引委員会委員長を経験している規制に詳しいメンバーもおり、仮想通貨に関する研究は進んでいる。またメディアラボは、物を売って利益を得る団体ではないという中立な立場で意見が述べられるのがユニークな存在であるという。現在は、仮想通貨に関する研究のほかに、学生向けのトレーニング教材の提供も行っていて、ブロックチェーンの可能性について追求しているとのこと。

 仮想通貨の現状や規制に関する話については、これまでに60か国以上で仮想通貨に関係する技術者や政府担当者と話をしてきたというゲイリー氏から解説が行われた。

 始めにゲイリー氏は、仮想通貨の時価総額は約3,400億ドル程度であると述べた。それに対して、いわゆる金融市場というのは2,000兆ドル規模、証券や債券だけでも80兆ドルあることから、大きくなってきたといわれている仮想通貨の規模は、まだまだ700分の1、800分の1程度なので、規制に関する政府の取り組み方も、800分の1程度の度合いだという。

仮想通貨の現状

仮想通貨交換所は世界に200ほどあり、ICOは毎月500件程度登場

 またICO(Initial Coin Offerings)や仮想通貨交換所についての説明もあった。ICOは、これまで約3,500件のICOが立ち上がったが、不正行為や詐欺も多く、その失敗率は50%を超えているのが現状だという。仮想通貨交換所は現在、世界に200ほどある状況で、各国で規制が始まり、登録制や免許制になりつつあるが、それでもまだ約100程度の申請があり、これからも数は増えていくだろうとのこと。

 そんな中で仮想通貨は、不正資金洗浄(マネーロンダリング)や脱税の道具、テロリストの資金源になるなど、さまざまな問題を抱えているが、それぞれすでに規制する方向に動き始め、多くの問題は解決へと向かっているが、ゲイリー氏はやはり3,000億ドル程度の話なので、それほど心配はしていないという意見が印象的だった。

 ゲイリー氏は、それよりも消費者をハッキングから守る、仮想通貨の不正取得を防ぐなど、消費者保護のほうが重要であると述べた。またICOに関しても投資家保護など考えるべき点は多いが、アメリカやカナダの見解は、規制よりもまずは成長させて様子を見ようという状況とのこと。なお現在のICOの状況については、毎月500件程度のICOが登場しているが、やや減少方向にあるという。

 現在、200程度の仮想通貨交換所があるが、ゲイリー氏は仮想通貨交換所がカストディアンを兼ねていることも問題であるという。カストディアンとは、投資家に代わって資産管理、運用をする業務だが、仮想通貨交換所がそれを兼業するのであれば、カストディアンとしての規制も行うべきではないかという。

 また仮想通貨交換所は、3,000万人を超える会員を抱えているが、常にハッキングによる重大な損失が発生する危険性があるほか、投資家の保護や市場のルールも欠如している点が問題であると述べた。

Bitcoinの取引通貨は当初ドル中心、2017年までは中国元中心、現在は3分の2が日本円

 これまでのBitcoinの取引が、どんな通貨とトレードされてきたかというデータもまた興味深い。Bitcoinの登場当初は、ほとんどドルとの取引だったが、2013年頃から急激に中国元での取引が増え、2017年まで続くが、中国政府が仮想通貨の取引を禁止にすると、今度は日本円での取引が増え、現在は3分の2が日本円との取引だという。

Bitcoinのこれまでの取引通貨

 ゲイリー氏は、このような仮想通貨と法定通貨のトレードに関しては、その取引にも課税すべきであるという。その際、仮想通貨と法定通貨による取引はトラッキングすることができるので問題ないが、仮想通貨と仮想通貨による取引に関しては、P2Pでの取引になってしまうためトラッキングは難しく、今のところ米国ではそれを取り締まる方法がなく、これも大きな問題になるであろうという。

米証券取引委員会はEthereumやRippleが有価証券ではないという見解

 続いて、ゲイリー氏はEthereum(イーサリアム)、Ripple(リップル)についても簡単に説明をしながら、いずれも米証券取引委員会(SEC)がこれらは有価証券ではないという発表があったという旬なネタも紹介した。

 最後にゲイリー氏は、これらの問題点は、いずれも法律を作り、立法していかなければならないという。インターネットが登場した当初も大きな問題を抱え、それらは5年、10年という歳月をかけて立法し、法律が変わってきたが、仮想通貨も同じように時間がかかると思うが、法律は必ず変化していくだろうと述べた。また伊藤氏は、そのためにMITの研究があり、技術があるという。MITは、技術でサポートをしていくと締めくくった。

仮想通貨市場に興味がある人がブロックチェーンに興味があるわけではない

 ここで、質疑応答の時間へと移る。最初に研究会の参加メンバーである、岩下メンバーより質問があった。

 岩下メンバーは、現在の仮想通貨交換所がカストディアンを兼ねているのが問題だという指摘について、どういった解決方法があるのか。また現在、Bitcoinの交換所内の取引は、直接ブロックチェーンに記録するのではなく、すべてオフチェーンの中で維持しているのが実態だが、これらはどう処理していくべきなのか、と投げかける。

 それに対してゲイリー氏は、まず仮想通貨の市場に興味のある何千万人という人たちは、ブロックチェーンに興味があるわけではないので、そういうものなのかもしれないと述べる。またカストディアンに関する問題は、カストディ(管理)の部分と交換所の機能を分けるべきであるという。その理由は、過去の金融商品の市場において、分けたほうが儲かる、市場が成長するという結果が出ているからだという。またカストディの部分には、カストディアンとしての規制を適用すべきだと考えるからだという。

仮想通貨同士のトレードの正しい選択肢とは? マイナーに関する責任は?

 続いて研究会の楠メンバーから、仮想通貨同士のトレードはトラッキングが難しく、限界があるということだが、その場合に当局は禁止することができると思うが、正しい選択肢はなんなのか。また仮想通貨のさまざまな問題点でマイナーの責任についてはどう思うか。という質問が投げかけられた。

 ゲイリー氏は、どのような規制団体や当局も、重要なのは仮想通貨と仮想通貨の取引を、マネーロンダリングや脱税対策、安全対策という観点から、法定通貨対法定通貨、法定通貨対仮想通貨と同じ枠組みで規制すべきであるという。仮想通貨同士の取引も、実際に何かを買ったり売ったりしている状況なのだから、報告義務が必要だし、課税するべきであると述べた。実際には、そういった取引のファイリングを行っている仮想通貨交換所もあるが、これらは取引の透明性を確保するために行っているわけではないので、公開されるものではないという。またこういったことを義務化していくことも可能だとは思うが、いずれもあまり厳しい規制をかけるべきではないという。またマイナーに関する責任については、それはプログラムコード上で起きていることなので、ゲイリー氏はマイナーにはまったく責任はないという見解だ。

 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポートの後編では、米Ripple社の取り組みを紹介する。

高橋ピョン太