イベントレポート
米リップル社の取り組み、仮想通貨XRPを活用した海外送金システムの実現へ向けて ~金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポート後編
仮想通貨交換業等に関する研究会
2018年6月20日 12:13
本稿では、6月15日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポートの後編として、米Ripple社よりアジア太平洋中東地域規制関連業務責任者のSagar Sarbhai(サガール・サルバイ)氏の解説。さらに、質疑応答の内容を紹介する。
なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回イベントレポートの前編では、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤 穰一氏、シニアアドバイザーのGary Gensler(ゲイリー・ジェンスラー)氏より、研究者の立場として仮想通貨に対する見解。さらに、質疑応答の内容を紹介しているので、そちらも合わせて読んでいただきたい。
「お金の世界も自由にネットワークを介して動かせる世界」を目指す米Ripple社
研究会は、続いてサガール氏より、米Ripple社の取り組みについて説明が行われた。サガール氏の、我々はソフトウェア・ペイメント・カンパニーであるという紹介が印象的だった。世界各地に拠点を構える米Ripple社は、金融、テクノロジー、規制という三つのセクターからの人材を確保し、グローバルなソフトウェアペイメントに関する取り組みを行っているという。
Ripple社が目指すのは、インターネットでコミュニケーションが変わったように、お金の世界も自由にネットワークを介して動かせる世界だ。その方法が、Connectivity(コネクティビティー、接続性)とLiquidity(リクイディティー、流動性)だという。Ripple社のテクノロジーで元帳間の取引を調整し、双方向メッセージングとリアルタイム決済を可能にし、コネクティビティーを実現させる。さらにデジタル資産を活用し、海外への送金を先行投資なしで実現させるリクイディティーを可能にすることが、使命とのこと。
従来の銀行間で行われていた海外送金は、シーケンシャルにつながっている銀行間を1ステップずつ、しかも一方向からのメッセージ、決済指示によるやり方で送金していたという。しかも数行にまたがった送金に関しては、すべてがリンクされていないため、2日から4日の遅延が発生したり、支払い追跡やステータス情報といったトレーサビリティーすら不完全であったという(大手銀行間では、そのようなことはない)。
Ripple社のペイメントシステムでは、双方向メッセージングによる決済命令が可能であり、決済も2日から4日かかるのではなくリアルタイムで決済されるのが特徴であり、透明性の高い追跡も実現しているという。現在、このシステムは世界の銀行約200行が採用済みであるという。またRipple社は、このシステムのために世界のトップ銀行とルールブックを作成したが、今ではそのルールも各銀行が受け入れてくれているという。
ちなみにこれらのシステムがRipple社のいうコネクティビティーの実現にあたる部分だが、今後の実現に向けて現在進めているのが、リクイディティー、つまり流動性を実現させるためのシステムになる。リクイディティーのシステムでは、仮想通貨のXRP(リップル)を活用し、海外送金を可能にするシステムを実現させる予定だ。
仮想通貨のXRPを活用した海外送金システムとは
ここではメキシコの銀行からフィリピンの銀行へ送金される例が挙げられた。まずメキシコの銀行が海外送金を実行すると、そのルートは地元の仮想通貨交換所を経由し、メキシコの法定通貨をXRPに交換し、XRP固有の分散型台帳「XRP Ledger」という仕組みでフィリピンの地元仮想通貨交換所へと送金され、そこでXRPがフィリピンの法定通貨に交換されたのちに目的の銀行へと送金されるというのが、このシステムの流れとなる。ちなみにこれらは瞬時に決済が行われることから、変動するXRPの相場にもほとんど影響されることがないという。また銀行は、帳簿にデジタル通貨を載せたくないという理由があるが、このシステムでは銀行がXRPを保有するわけではないので、その心配も無用だという。
ここで、なぜ中間でXRPを使うのか? それについての説明あった。それは、コスト、スループット(決済スピード)、透明性において、XRPが最も優れているからだという。
またここでXRPが証券ではないとする理由についても、サガール氏より説明があった。まずRipple社は、ICOではなくベンチャー・キャピタルから資金調達を行った会社であること、また「XRP Ledger」はRipple社から独立しており、オープンソースという枠組みで運用されていることなどを挙げた。いずれにしてもRipple社は規制を守る会社であり、規制当局ともコンタクトがある会社であることから、規制は守るべきものであると考えているので、規制当局、中央銀行がしっかりとリーダーシップを持って進めてほしいと強調する。またグローバルなフレームワークが必要な時代であることから、主要20か国・地域が参加する次のG20には、それらが議題に出てくることも期待しているという。
以上で、サガール氏の解説は終わり、質疑応答へと移り、ここで岩下メンバーから鋭い指摘があった。
金融機関が利用する仕組みに仮想通貨XRPを使うことに意味はあるのか?
岩下メンバーは、金融機関が利用する仕組みにXRPを使う意味があるのか? またRipple社自身がXRP自身をコントロールすることができないというが、多くのXRPを保有するRipple社がXRPを放出することで市場のコントロールが可能ではないか? そこは値動きのあるXRPではなく、法定通貨を利用すればいいのではないかと、サガール氏に問いかけた。
サガール氏は、「XRP Ledger」を利用する決済システムはクロスボーダー・ペイメントの問題を解決したいというのが目的であり、たとえば大都市、大手銀行間のような流動性が高い地域には必要ないかもしれないが、流動性の低い地域間のクロスボーダー・ペイメントに利用するツールとしては、コストの面などから見てもXRPは有効だと考えると述べた。
今回の研究会は、海外の学識経験者と実務経験が豊富な有識者による異例のヒアリングというかたちで会議が行われた。仮想通貨を取り巻く世界情勢を知る、とてもいい機会となった。
なお、本会議「仮想通貨交換業等に関する研究会」第4回の配付資料は金融庁のサイトで既に公開されており、議事録は後日公開される。会議は申し込み制で一般にも公開されているので、興味がある方は金融庁の公式サイトにてご確認いただきたい。