イベントレポート

ブロックチェーンの事業導入は「トークン」を考えるべし

チケット販売では収益改善の事例も。ガートナーの分析家がビジネス活用を論じる

ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデントのデイヴィッド・ファーロンガー氏

ガートナージャパンは11月、カンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo」を開催した。ガートナーが先進IT領域の情報共有を目的として、世界各地で開く会の1つで、今回は東京・グランドプリンスホテル新高輪が会場となった。本稿では、同社のディスティングイッシュト バイス プレジデントでアナリストのデイヴィッド・ファーロンガー氏が「ブロックチェーン・ビジネスの真実:デジタル時代にふさわしい価値をいかに創出するか」という主題で論じた、ブロックチェーンのビジネス活用事例をまとめる。

チケット販売でのブロックチェーン導入の成功例

「ブロックチェーンを事業に取り入れることで収益を改善した例がある。」そう言ってファーロンガー氏が取り上げたのは、欧州サッカー連盟(UEFA)の事例だ。UEFAは2018年8月に、ブロックチェーンを用いてチケット販売を行った。それ以降の観戦チケットはすべてブロックチェーン上でトークンとして発行したものを販売している。

観戦チケット流通上の課題

ブロックチェーン技術の導入以前、UEFAはチケットの販売を誰でもアクセス可能なWebサイト上で行っていたが、複数の課題を抱えていた。

第一の課題は、実際に試合を観戦する人がチケットを買うことができないというものだ。人気のある試合だと、UEFAが直接販売するチケットのほとんどが、転売を目的としたダフ屋に独占されていたのだという。その結果、本当のサッカーファンはUEFAの想定よりも高い料金を支払わなければならなかった。

第二の課題は、チケットを誰が購入したのか分からないことに起因する。サッカーの本場であるヨーロッパのファンの熱量は、すさまじいと表現せざるを得ない。試合が過熱すると、ファンがピッチに乱入し、騒ぎに発展することも珍しくなかった。チケットの購入者が分からないので、そういった騒動を起こす人が何度も試合の観戦に訪れるのだ。

第三の課題は、販売経路におけるダフ屋の介在に関係する。最終的なチケット購入者の30%がなんらかの不正行為を受けたことがあるという。たとえば、ダフ屋が販売するチケットが不正コピー品であるとか、支払い上のトラブルなどが度々起きた。それらの苦情がUEFAに寄せられたが、当然対処することはできなかった。その結果、サッカーファンはUEFAの対応に失望した。

ブロックチェーン活用のモデルケース

UEFAは2018年、ブロックチェーン技術の導入により、これらの課題をすべて解決することに成功した。現在のUEFAのチケット販売システムは、本人確認(KYC)が必須だ。だれが、何枚のチケットを購入したのか、購入したチケットを誰に譲渡したかといったことを、UEFA側から間違いなく把握できる仕組みになっている。

UEFAはチケットを完全に電子化。ブロックチェーンを導入した

これにより、真のサッカーファンが適正な価格でトラブル無くチケットを購入できるようになった。また、騒ぎを起こすような人物をKYCの段階で除外できるため、安全面でも向上したという。さらに、UEFAは観戦回数に応じた景品なども用意できるようになり、リピーターが増加。結果として、人気の試合チケットの価格高騰が緩和され、サービスの向上により全体的な観客動員数の増加、増収につながったという。

ファーロンガー氏は、「UEFAの事例でブロックチェーンは必須ではなかった。しかし、ブロックチェーンの特性とよくマッチする事例だった」として、ブロックチェーンのビジネス活用の好例であると評した。

まとめ

ファーロンガー氏はUEFAのチケット販売事例以外にも、台湾の医療機関での活用や、オーストラリアの証券基盤への応用など、いくつかの非金融分野でのブロックチェーンの活用事例を挙げた。その中で共通する観点が「トークナイゼーション」だと説明する。ブロックチェーンでは既存の価値または新しい価値を電子的に交換することが可能になる。ビジネスへの応用は、ブロックチェーンの機能の1つ1つから着想を受ける段階にあり、「トークナイゼーション」も機能の1つ。最も検討を進めやすい分野だという。

さらにファーロンガー氏は、今後の10年でブロックチェーンのビジネスへの活用はさらに加速するとの見方を示し、「AIやアイデンティティとブロックチェーンの連携が進むと見られ、社会構造はスマートシティに近づくだろう。それは社会のマネタイズを意味する」と述べた。この先の時代には、今あるデジタル技術をどう使うか、どうやってDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するか、新たなテクノロジーのリスクや企業文化を考慮しつつ検討を進めることが重要となる。

日下 弘樹