ニュース解説

トークン経済の隙間を埋める「COMSA HUB」

パブリック/プライベート間で価値移転と残高管理の意味

 テックビューロホールディングス株式会社は、「COMSA HUB」のβ版(テストネット)の限定公開を開始した(関連記事)。今回の記事では、その内容と意味について見ていきたい。

 COMSA HUBは、ICOプラットフォーム「COMSA」を構成するソフトウェアプロダクトの一つである。今回のβ版は、mijinプライベートブロックチェーンのライセンスホルダーに提供する。mijinは同社が有償提供するプライベートブロックチェーン技術である。mijinをすでに利用中のユーザー企業にCOMSA HUBを試してもらい、そのフィードバックを期待している。また、後述するようにCOMSA HUBはmijinの付加価値を高める機能として捉えることもできるだろう。

 COMSA HUBの機能は、同社の説明によれば「パブリックブロックチェーン上の企業のマスターアカウントと(企業)内部のプライベート勘定との間で、トークンの残高をコントロールするソフトウェア」である。ユースケースとして、同社のプレスリリースでは「VR(バーチャルリアリティ)内通貨」の例を挙げている。例えば、パブリックブロックチェーン上で独自トークンを発行し、VRの世界内では同じトークンを高速なmijinプライベートブロックチェーン上で流通させる。COMSA HUBはここで両者の残高を管理し、不正や改ざんを未然に防ぐ役割をする。

 COMSAそのものの近況については、以前に記事として掲載しているので参照されたい。今回のCOMSA HUB β版(テストネット)のリリースは、以前発表された予定通りといえる。

テストネット上のBitcoinを、mijin上のBitcoinに変換する「ダッシュボード」の画面サンプル

パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンの間で価値を管理

 COMSA HUBのような「パブリックとプライベートの間で価値移転と残高管理をする仕組み」の意味は何だろうか。

 パブリックブロックチェーン上のトークン、つまり「仮想通貨」に価値があることは、市場で認められている。パブリックブロックチェーンのメカニズムが残高の改ざんなど不正行為に強いことも、多くの人々が認めている。パブリックブロックチェーンは、すでにこのような「価値を担保する」役割を発揮しているといえる。ただし、パブリックブロックチェーン上のトークンを高い頻度で取引しようとすると、パブリックブロックチェーンの性能や手数料が制約となってのしかかってくる。実際、Ethereum上のゲームではメインチェーンの混雑を避け、プライベートチェーン(サイドチェーン)を利用する事例が出ている。

 ここでプライベートブロックチェーンで発行したトークンについて考えてみよう。プライベートブロックチェーンは、パブリックブロックチェーンに比べて性能の上限が高く、また手数料を気にする必要はない。ただし、トークンの価値をどのように担保するかが課題となる。プライベートブロックチェーン上のトークンとは、従来からある企業ポイントや電子マネーと同じような存在だ。その価値が認められるか否かは、発行主体の信用を利用者が認めるか否かにかかっている。

 だが、ブロックチェーン技術によりこうした常識を変えることは可能だ。パブリックブロックチェーン上で価値が認められたトークンの価値を、不正や改ざんができない形でプライベートブロックチェーンに移転できれば、それはパブリックブロックチェーン上のトークンと同等の価値があると認められるだろう。パブリックブロックチェーンの信用と、プライベートブロックチェーンの性能とコスト(手数料)の低さという「いいところ取り」が可能となる。COMSA HUBは、このような仕組みを実現したソフトウェアといえる。

 ところで、パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンの間で価値移転をするプロダクトは、実はCOMSA HUBだけではない。NTTサービスエボリューション研究所が開発した「Niji」(関連記事)は、Bitcoinの価値をEVM(Ethereum Virtual Machine)上のトークンに移転する技術である。また、Plasma(関連記事)は、Ethereumと「子チェーン」を、「不正発覚時に子チェーンの資産をメインチェーンに退避する」という決まり事を実装したメカニズムで結びつけることで、トークンの価値を保証する。これらのアイデアも実装が始まっている。

 ブロックチェーン間の価値移転の手段が複数登場している中で、COMSA HUBの意義を改めて考えると、大きくは次のようになるだろう。(1)COMSAのもう一つのプロダクトCOMSA COREとの連携により、Bitcoin、Ethereum、NEMと複数のパブリックブロックチェーンとmijinを組みあわせた価値移転に対応できる予定であること。(2)プライベートブロックチェーン技術mijinと連携して動作することにより、mijinの処理性能や開発生産性の高さを享受できること。複数のブロックチェーン技術、レイヤー2技術が登場している中で、mijinの「持ち味」はアプリケーション開発の容易さとブロックチェーンの安全性のバランスの取り方にあるといえるだろう。

 広く認められたパブリックブロックチェーン上のトークン価値を、プライベート環境に移転して、高速で高機能なプライベートブロックチェーン技術により処理する──このような技術を活用すれば、アイデアとスキル次第で、例えば電子マネー、ゲーム内通貨、企業ポイントのような新たな経済圏を、従来のやり方よりもはるかに低コストに実現することが可能となるだろう。