仮想通貨(暗号資産)ニュース
COMSAの開発状況を発表、2019年夏から正式版リリースへ
クロスチェーンの価値移転を実現
2019年4月3日 16:52
「COMSA」の近況と予定が一部公開された。テックビューロホールディングス株式会社のスイス子会社であるTech Bureau Europeが、メッセンジャーアプリTelegramのCOMSA公式チャンネルにて公表した(発表内容)。開発を進めていたCOMSAのソフトウェアプロダクトの正式版が、この2019年夏頃から順次登場する見込みだ。
ソフトウェアプロダクトの開発予定は後ほど説明することにして、まずCOMSAそのものについて振り返っておきたい。COMSAは現時点では日本で実施された数少ないICO(Initial coin offering、新規仮想通貨発行による資金調達)案件の一つだ。より正確に言うと、公式ではないが金融庁が認識しながら事実上認めていたと考えられるICO案件の一つだ。なお、同様の「事実上の公認」と考えられるICO案件として、他にQuoine株式会社のQASHがある。
COMSAの経緯は次のようになる。2017年8月にテックビューロ株式会社が構想を発表、9月に大口投資家向けのプレセールを実施、10月から11月にかけて一般向けトークンセール(ICO)を実施し、合わせて109億円相当の仮想通貨を集めた(当時の記事)。その後、共通のICOプラットフォームを用いて複数のICOを実施する計画だったが、これはすべてキャンセルとなった。テックビューロは2018年8月に「日本での新規ICOプロジェクトは情勢を鑑み、当面見送り」と発表している。その後、日本でのCOMSAの展開に関する情報は途絶えた形になっている。日本での計画がキャンセルされた大きな理由として、2018年1月に発生したコインチェックからの仮想通貨盗難事件の後に規制強化がある。その後、新規の仮想通貨ビジネス立ち上げが事実上許されない状態が長く続いていた。
ところでCOMSAのICOによる資金調達の大きな目的は、NEMブロックチェーン技術を用いたプライベートブロックチェーンであるmijinを応用したICOプラットフォームの開発だった。その開発プロジェクトが現在も続いていることは、あまり認識されていないようだ。例えば、金融庁が開いた「仮想通貨交換業等に関する研究会」の議事録にはCOMSAへの言及が複数回あるが、開発状況に関する事実関係は話題となっていない。あるいは、研究会に参加した有識者の間では「プロダクトが出なかった詐欺的なICO案件の一つ」と思われているのかもしれない。
実際には、記事冒頭に紹介したようにCOMSAに関する開発は継続中である。2018年12月には、テックビューロが「ICO総合プラットフォーム「COMSA」COMSA CORE β版(テストネット)を公開」と題するプレスリリースを公開している。このテストネットは期間限定公開だったので現時点ではアクセスできないが、デモ映像をYouTubeで見ることができる。NEMとEthereumと異なるブロックチェーンの間で価値移転をする様子が映し出されている。
プライベートブロックチェーンによるクロスチェーン価値移転が2019年夏に稼働予定
テックビューロによる2018年12月の発表から3か月半の時間が経過しているが、今回のTech Bureau Europeの発表を見ると予定の変更はない。現時点では報告すべき進捗の遅れはないものと推定できる。Tech Bureau Europeの発表では、COMSA Core、COMSA Hub、ダッシュボードの3プロダクトの予定と、トークンの取引所でのリスティングに関して言及した。
(1)「ダッシュボード」はこの2019年4月末までに開発完了予定。内部的なテストと法令準拠などの確認を経て、2019年夏に提供できる見込みとしている。当初はユーティリティトークンのトークンセール(ICO)を対象とするが、開発が進捗すればセキュリティトークン(STO向けの証券トークン)、決済用トークンにも対応させていく。
(2)「COMSA Core」に関して「今後1か月程度で正式版のテストネットが利用可能となる予定」としている。メインネットは2019年夏、6月〜7月を予定する。当初の構想通り、Bitcoin、Ethereum、NEMの3種類のブロックチェーンに対応し、それぞれの仮想通貨の即時交換(スワップ)を可能とする。
COMSA Coreは、COMSAの構想の中で中心的な役割を持つプロダクトだ。その機能は複数のブロックチェーンを結び、ブロックチェーン上のトークンによる価値移転(スワップ)をリアルタイム、シームレスに実施することである。COMSAホワイトペーパーによれば、内部的にはプライベートブロックチェーン技術mijinを活用し、複数のノードを地理分散させてゼロダウンタイム(高可用性)を実現する構想である。また、パブリックブロックチェーンだけで実現する価値移転の仕組みとは異なり、緊急事態(異常な相場変動など)にはサーキットブレイカーで稼働を停止するなどの運用が可能となる。
(3)「COMSA Hub」に関して、「テスト版の開発が進行中であり、数週間以内にプレスリリースを予定する」としている。
COMSA Hubは、COMSAホワイトペーパーによれば「パブリックブロックチェーン上のマスターアカウントと内部のプライベート勘定との間でトークンの残高をコントロールするソフトウェア」と説明している。プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンを結んだ価値移転などに応用できる。
(4)仮想通貨取引所へのリスティング
COMSAのトークンセール(ICO)で売り出した「CMSトークン」の取り扱いは日本の仮想通貨交換所「Zaif」(現在はフィスコ仮想通貨取引所が運営)だけだ。Tech Bureau Europeは「日本人以外の利用者にとってZaifがどれだけ利用しやすいか検討中」としており、「他の取引所へのリスティングの計画はある。ただし最優先事項ではない。最も重要なのはプロダクトの提供である」と説明している。
開発中のCOMSAプロダクトを活用したトークンセール(ICO)については、Tech Bureau Europeでは「準備中」としている。NEM財団が発表したNEMの大型アップデート「カタパルト(Catapult)」(関連記事)についても、COMSAのプロダクト群に統合していくとしている。
日本での今後の計画についてテックビューロホールディングスに問い合わせたところ、「開発スケジュールはTech Bureau Europeの発表通りだが、日本ではICOに関するルールが整っていないこともあり、開発後の計画は未定」としている。
背景として、日本の仮想通貨交換業の自主規制団体である一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)がICO実施のための業界ルールを作成している途中段階であることがある。近い将来、日本でもICO実施が再開される見込みだが、現時点ではどの会社もICO実施に関して対外的に情報を出せる段階ではない。
COMSAのプロダクト群は、高速なプライベートブロックチェーンと、パブリックブロックチェーンをシームレスに結び、相互にトークンによる価値移転を実現する先進的な内容だ。ICOプラットフォームだけでなく、企業発行デジタル通貨や、電子マネー、ポイントなどのシステムに応用できる可能性もある。ブロックチェーンの技術思想を取り入れた情報システムという技術的な観点からも、COMSAの今後には注目しておきたい。