ニュース解説

Liquid上でステーブルコインTetherを発行することが市場に与える影響とは?

マーケットメイキングや裁定取引狙いの投資家には大きな強みに

(Image: Shutterstock.com)

暗号通貨やブロックチェーンに関する情報を配信するYouTube動画チャンネル「ビットコイナー反省会」は8月1日、Blockstream社がLiquid Network上でステーブルコインTether(テザー)を発行したというニュースを受けて、Liquidをテーマにした番組「Tether on Liquidの仮想通貨市場全体への影響」を放送した。番組パーソナリティーは、ビットコイナー反省会の東晃慈氏が務める。

東氏は以前のビットコイナー反省会でも、LiquidはステーブルコインやSTO(Security Token Offering)と相性がいいことを紹介してきたが、この数か月、実際にその動きが出始めているという。TetherがLiquid Network上で発行されたという先日の「Blockstream社、Liquid Network上で米ドル連動のステーブルコインTetherを発行」というニュースもその1つであり、またLiquid上でSTOをやろうというプロジェクトも出てきていると語る。

【ビットコイナー反省会】
Tether on Liquidの仮想通貨市場全体への影響

さて、Liquid Network上で米ドルと連動(ペッグ)するステーブルコインTether(Liquid USDT)は、今後、仮想通貨市場全体に対してどのような影響を与えるのか? 本稿では、ビットコイナー反省会で放送された番組内容を元に、Liquid USDTの発行が仮想通貨の利用者にどのような影響があるのかをまとめる。

TetherがLiquid Network上で発行されたというニュースに注目している人は少ないように思えると東氏はいう。しかし、これはかなり重要な出来事であると東氏は考えるというのだ。

ステーブルコインTetherとは?

ステーブルコインTether(USDT)は、数あるステーブルコインの中で最も取引高が多く、現時点では最有力のステーブルコインであると評価されている。一方で、本当にTetherは使われているのか、どんな人が購入しているのかといった疑問を持つ人も少なくないそうだ。東氏は先日、香港を訪問した際に現地のOTC取引(相対取引)に詳しい専門家にTetherについて尋ねてみたという。

するとOTC系の人たちの間では、Tetherの需要は確かにあることがわかったそうだ。主にマーケットメイクに使われているという。また、Tetherの取引が盛んな仮想通貨交換所でアービトラージ(裁定取引)を行い、Tether取引で利益をあげる目的に使っている投資家も存在するという。ただし、実際のTetherの購入はOTC取引で行われるため、誰がどういう目的でどれぐらい購入しているのかという情報がまったく出てこないのだという。

また、中国の貿易業者がロシアでTetherを購入し、中国国内からの海外送金に利用しているといった報道があったことも東氏は紹介している。これらの情報から、確かにTetherは使われていることが実感できたそうだ。

Tetherの課題とLiquid USDTの利点

東氏は、第一にTetherには、ほとんど匿名性がないことが大きな弱点であると語る。

また、これまでのTetherは、Bitcoinのブロックチェーン上に構築された拡張レイヤーOmni Layerにて発行されていたことから、取引に10分程度のブロックタイムがかかることが弱点だったという。これでは取引所間の送受金に時間がかかりすぎてしまい、アービトラージを狙う投資家からすると、取引機会を逃してしまうことになりかねないというのだ。そこでTetherの発行は、取引にかかる時間を短縮するためにOmni LayerからEthereumのERC-20トークンにて発行するなど、発行プロトコルの移行が進みつつあるという。

Tetherは、特にこの匿名性と即時性の2つが大きな課題だと東氏は指摘する。

一方のLiquid Networkは、BitcoinブロックチェーンのサイドチェーンとしてBlockstream社が開発する取引所間決済ネットワークだ。仮想通貨交換所などLiquid Networkに加盟する仮想通貨市場関連企業間が、Bitcoin(BTC)などを高速かつ安全に取引するために利用する専用ネットワークとなる。決済にサイドチェーン上のトークンを用いることで、2分程度でファイナリティが完了する。また、Liquid上ではプライベートで取引を行うこともできることから、秘匿性を保つことも可能となる。

つまり、Liquid Network上で発行するTether(Liquid USDT)は、これまでのTetherの匿名性と即時性の課題を補完することができるというのだ。Tetherでマーケットメイキングやアービトラージを行ってきた人にとってLiquid USDTの登場は、かなり重要度の高い出来事だと東氏は語る。

また、LiquidにTetherが載ったことにより、ステーブルコインであるTetherとBitcoinをはじめLiquid上で発行される他のトークンと分散取引が可能になることも、重要な要素だ。それによって、Liquid上でトークンを発行するメリットやインセンティブも増すという。

東氏いわく、「Tether on Liquid」が現時点のニュースではそれほど大きな変化に見えないが、これらのことを考えると仮想通貨市場にとって非常に重要なニュースにほかならないと強調する。

Tether on Liquidによって今後起きるであろう出来事

東氏は今回の香港訪問でBlockstream社マーケティングディレクターのニール・ウッドファイン(Neil Woodfine)氏に出会うことができたことから、Liquid Networkの今後についても聞くことができたという。

東氏は、Liquid Networkの利用がTetherによって今後は増えていくと予測している。これまでLiquidは面白いといわれたりポテンシャルがあると評価する声も少なくなかったが、実際に利用している場面はそう多くはなかったのではないかという。実際にニール氏にLiquidはどれだけの仮想通貨交換所で使われているのかを尋ねると、基本的には3か所だという答えが返ってきたそうだ。活発に利用されている仮想通貨交換所は、Bitfinexのみだという。

しかし、Tether(Liquid USDT)の発行により、Liquidは取引における即時性と匿名性が圧倒的に優位になったことから、トレーダーやユーザーがLiquid上でTetherを使おうという動きや、仮想通貨交換所に対しLiquidに対応してほしいという需要が出てくるだろうと見ているという。それをきっかけにLiquidは使われていくと予想すると、東氏は語る。

Liquidに全般に思うこと

東氏は、Liquid Networkは(仮想通貨やブロックチェーンは)「Bitcoinでいいじゃん、もうBitcoinでできるじゃん」というコンセプトを体現しようとしているものではないかと、個人的には思うと述べた。

Bitcoin以外にもさまざまなアルトコインがあり、たとえばEthereumであればスマートコントラクトが利用できたり、トークンを発行することができる。MoneroやZcashは匿名性が高いなど、それぞれに用途があり、アルトコインがいくつも誕生してきた。しかし、それらの機能はBitcoinとサイドチェーンを使えば、すべてBitcoinでてきてしまうということをLiquidは体現しているように見えるというのだ。( 編集部注: この部分は東晃慈氏が意図する内容と異なるニュアンスで読者の方に伝わってしまったため、続報も参照されたいです)

また、もう1つ重要なトレンドとして、Liquid Securities(リキッド・セキュリティーズ)を挙げた。Liquid Securitiesは、Liquid Network上でセキュリティトークンの発行および高度な設定を可能にする、ビジネス向けのプラットフォームだという。それによって、容易にSTO(Security Token Offering)が可能になり、債券、株式、不動産等の権利をトークン化し、Liquid上で取引ができるようになるというのだ。

すでにSTOを可能にするプラットフォームは存在するが、その多くは取引の条件やルールをすべてスマートコントラクトで記述し、オンチェーン上で管理するため、あとからルール等を変更することが困難であり、柔軟性に欠けるという。しかし、Liquid Securitiesは、マルチシグと、条件やルールをいつでもカスタマイズできるLiquid Authorizer(リキッド・オーサライザー)の組み合わせにより、ルール等の変更に迅速に対応できる点においても優位であるという。

要はルール等のコントラクトを決める主体がいるのであれば、ルールすべてをスマートコントラクトに記述しオンチェーンで管理する必要はなく、マルチシグの2of2や2of3を使えば、世の中のコントラクトはBitcoinとサイドチェーンでほぼ実現できてしまうのではないかというのだ。それよりも柔軟にコントラクトの変更が可能な方が実用的だろうという。

これらの考え方は以前からあったが、それを体現しつつあるのがLiquid Networkなのだという。東氏いわく、Liquidが成功することで、さらなる応用例が登場し、今後はビジネスにおいてもBitcoinとサイドチェーンを使った実用的なものがより増えていくのではないかと見ているという。ということから、実はTether on Liquidは、かなり重要な出来事であると東氏はまとめた。

Liquid NetworkとステーブルコインTetherのポテンシャルおよび課題について、より詳細を知りたい方は、今回もぜひ直接ビットコイナー反省会の配信を視聴していただきたい。