イベントレポート

AMD製GPUならマイニングもディープラーニングもおまかせ!

ASICには真似できない強みをセミナーで解説

 日本AMD株式会社は7月18日、ブロックチェーンとディープラーニングに関するセミナーを都内で開催した。AMD株式会社のヨーク・ロスコウェツ氏ら3人の専門家が登壇し、GPUを用いた仮想通貨マイニングの最新事情などを解説した。なお、イベント運営にあたっては、PCパーツ商社の株式会社アスクが協力。会場にはPCパーツメーカー各社の最新マイニングマシンも展示された。

ブロックチェーンでできること

AMD株式会社のヨーク・ロスコウェツ氏(ブロックチェーンテクノロジー ディレクター)。講演前日には、ビットコインを使ってビックカメラでの買い物を楽しんだという

 最初に登壇したのはAMD株式会社 ブロックチェーンテクノロジー ディレクターのヨーク・ロスコウェツ(Joerg Roskowetz)氏。ブロックチェーンは、仮想通貨の根幹を成す技術として知られるが、一方で、新しいデータベース技術として他の分野への応用が期待されている点を改めて指摘した。

 ブロックチェーンの大きな特徴とされるのが、その分散性だ。対象となるデータベースを単一の組織が管理するのではなく、ブロックチェーンに接続する多数のユーザーが相互にデータを持ち合う。よって、第三者による改ざんが難しい。ヨーク氏は「セキュリティの高い、非常に成熟したデータベース技術だ」と評する。

ブロックチェーンによって実現が期待されている用途

 ブロックチェーンの実証実験例はすでに豊富だが、EV(電気自動車)の充電を信号待ちの際に行うという計画もあるから驚きだ。これは道路上に設置された充電エリア内に一時停車した際、ユーザーの認証から充電の実行、そして支払いまでを短時間で自動処理する。「時間にして恐らく20秒程度、料金も0.01セントといったごく少額。とても請求書を作ってはいられないが、ブロックチェーンでの“マイクロコントラクト”がこれを実現するのではないか」(ヨーク氏)

 少額・多頻度の決済は、将来的なドローン輸送との相性も良いとみられる。また、ドイツのシーメンス社は、ソーラー発電した電気を近隣の住宅へ簡単に転売するための「マイクログリッド」の開発に取り組んでいる。

 また「ライセンシング」にも期待が集まっているという。これまで難しかったソフトウェア利用権の個人間転売も、ブロックチェーンで安価にシステムを構築できれば十分実現しうる。他にも、高級美術品の真贋証明、ワインの温度管理履歴のトラッキングなどが検討されている。

GPUマイニングのメリット

 ブロックチェーン活用の代表格である仮想通貨は、市場でまさに活況だ。ビットコイン価格の高騰(と暴落)は世間の耳目を集め、人々の「マイニング(採掘)」への興味を喚起している。

定員50名の会場はほぼ満席。平日夜、東京駅近くでの開催とあって、会社帰りの人も多かったようだ

 仮想通貨のマイニングは、コンピューターの演算能力をブロックチェーンの構成・維持に提供し、言わばその対価として仮想通貨を受け取る仕組みだが、そこにはブロックチェーン接続者間の競争もある。より高度な計算を成し遂げ、演算競争に勝った者が対価を受け取る以上、参加者はこぞって高度な設備を導入する。トレンドの変遷はあるが、近年はPC向けグラフィックカードの基幹部品である「GPU」の性能がモノをいう。AMD製GPU「Radeon」シリーズは、マイニングに使われるGPUの代表格だ。ただし最近は、「ASIC」と呼ばれるマイニングに完全特化した装置の開発も、中国企業を中心に盛んだ。

 ヨーク氏は「これまでのマイニングは、今あるパーツを流用してDIY的に取り組んできた。しかし、これは少しずつ過去の話になり、ブロックチェーンに特化したソリューションを購入してフルに活用するのが未来の姿ではないか」と説明する。

AMD製GPUの他社製品との比較

 実際、AMDはグラフィックカード製造企業と協力して、Radeonを複数個搭載したマイニング専用装置(マイニングリグ)を開発している。一般的なASICはある特定の仮想通貨のマイニングに特化し、アルゴリズム変更への対応が極めて難しいのに対し、GPUベースのマイニングリグは汎用性が高く、複数の仮想通貨をマイニングすることもできる。

 ヨーク氏はこの特性が極めて重要だと指摘する。というのも4月、仮想通貨「Monero」がマイニングアルゴリズムを従来の「CryptoNight」から新方式への「CryptoNightV7」へと変更。これにより、CryptoNight対応ASICが完全に利用できなくなってしまった(編注:ASICは1台あたり数万円〜10数万円とされる)。数十から数百台規模のASICを使って「マイニングファーム」を構築する事業者は大きな損害を被ったとみられる。

 そして何より、仮想通貨は今後もその種類が増えていくとみられる。新しい仮想通貨のマイニングにいち早く対応するという観点に置いても、GPUでのマイニングにはメリットが多いとした。

GPUベースのマイニングリグは、さまざまな仮想通貨に対応できるのがメリット

ブロックチェーン普及に向けた課題は「セキュリティ」

 ヨーク氏が今後の課題に挙げたのがセキュリティだ。ブロックチェーンそのものは高セキュリティな技術だが、しかし周辺事情も含めると決して完璧ではない。仮想通貨交換所がハッキングされ、仮想通貨が盗まれる事態は現に起こってしまっている。

 未成熟な部分はあれど、ブロックチェーンは人々の環境を変え、「価値の交換」手段に大きな影響を与えつつあるとヨーク氏は語る。「それでも変化の達成度は1%ほど。例えば、25年前のインターネットを思い出してほしい。きちんと動いてはいたが、解決すべき問題も多かった。それだけにブロックチェーンが秘める可能性は大きい」(ヨーク氏)

 AMDでは、すべてのCPU・GPU製品に「PSP(Platform Security Processor)」と呼ばれる機能を搭載し、セキュリティ向上に向けて本格的に取り組んでいく。またパートナー各社と連携し、よりブロックチェーンに最適化した製品を送り出していくとヨーク氏は改めてアピールした。

仮想通貨のセキュリティ向上に役立つ「PSP」
AMD製GPUを搭載したマイニングリグも次々リリースされている

国連からもブロックチェーン計画ぞくぞく

 続いては、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)で事務局長を務める樋田桂一氏が登壇した。同協会には国内の仮想通貨交換業者などが登録しており、産業の健全発展の立場からロビー活動を展開している。

日本ブロックチェーン協会 事務局長の樋田桂一氏

 ブロックチェーンは、仮想通貨データベースとしてはもちろん、社会性・公共性の高いインフラとしての用途にも期待が集まっている。システムも非常に柔軟で、管理者の有無、ネットワークの決まりごと(運用ルール)も用途に応じて変えられる。例えば、仮想通貨のブロックチェーンは通常、特定管理者がおらず、ネットワークの運用ルールも厳格に制定されている。これらが「パブリックチェーン」と呼ばれるのに対し、管理者を置いてルールもゆるやかな「プライベートチェーン」「コンソーシアムチェーン」も作ることができる。

「パブリックチェーン」と「プライベートチェーン」の違い

 実証実験も含めれば、ブロックチェーンの事例は次々と生まれている。例えば宮崎県の綾町(東諸県郡)では、有機野菜の生産管理にブロックチェーンを使う実験が行われた。作付けから収穫までの肥料の状況のほか、出荷に伴う温度変化の過程などもIoTとの連携で管理する。「流通の透明性を高め、品質の高さをアピールする。(財政的に)ペイできるかは未知数ながら、実際にこうした取り組みは行われている」(樋田氏)

宮崎県綾町での実証実験では、有機野菜の生産管理にブロックチェーンを活用

 不動産情報サイトの「LIFULL HOME’S」では、不動産管理にブロックチェーンを用いる実験が行われた。所有権の移転履歴を改ざんの難しいブロックチェーンに残すことで、やはり透明性を高める。将来的には不動産登記やマイナンバーとの連携も検討しているという。

不動産管理にもブロックチェーンを応用できるか、実験が進められている

 海外では、ダイヤモンドの闇流通を軽減させるためであったり、電子投票の実現および不正投票の抑止を狙ったシステム(Boule)などが動き出している。

 また、国連もブロックチェーンに熱心という。身分証を持たない難民などに対して生体認証ベースの個人認証を実現する「ID2020」など、国連の全64機関のうち少なくとも30以上の機関でブロックチェーン関連のプロジェクトが動いている。

国連の各機関でもブロックチェーン関連のプロジェクトが進められている

 国連の予算は紛争地域・政情不安地域などに投下されるため、送金の過程で経る金融機関の手数料負担がバカにならないどころか、途中で消失するケースが少なくない。この過程を透明化したり、あるいは直接送金できるようにならないか、ブロックチェーンの活用が研究されているという。

 こういった経緯もあり、樋田氏は「社会インフラが未整備な国からブロックチェーンの普及が進んでいくのではないか」との考えを示した。

 そして今後は、AI・IoTとブロックチェーンがさらに密接に連携していくとみられる。少額決済を媒介するセンサーがあるとして、果たしてそのセンサーは税金を支払う必要があるのか? など、さまざまな影響を検討していかなければならない。

日本よりも、むしろインフラ未整備国でのブロックチェーン活用が進むと樋田氏は予測

大問題となったNVIDIAのEULA改訂、AMDのコスパ際立つ

 最後の3人目、米Pegara, Inc.共同創業者兼CEOの市原俊亮氏はおもにAI・ディープラーニングとGPUの関わりについて解説した。Pegaraは、AMD製GPUベースのクラウド型ディープラーニング基盤「GPU EATER」を提供中の企業だ。

米Pegara, Inc.共同創業者兼CEOの市原俊亮氏

 世界では2012年頃から「第3次人工知能ブーム」に突入したとされているが、その評価は分かれるところだ。すでにブームは終わり、「第3の冬」に突入したと指摘する投資家がいる一方、中国では国家戦略としてAIに取り組み、2030年に1兆元(およそ170億円)規模の産業に成長させるとの方針が示されてもいる。市原氏は「報道を見る限り、中国は相当本気なようだ」「バイドゥの社員に聞くと、同社のデータサイエンティストは『1000人以上いるが、正確にはちょっとわからない』と答える。多少盛っているのかもしれないが……」と述べ、多少の疑念を持ちつつも、中国の圧倒的な投資戦略に期待する姿勢を見せた。

第3次人工知能ブームは終わったとの声もあるが、中国の前のめり姿勢はホンモノか

 ディープラーニングでの画像認識力は人間のそれをすでに超えるとされる。東芝デジタルソリューションズなどは、ドローンと画像認識を組み合わせた送電線点検ソリューションに取り組むなど、実用性向上への期待はさらに高まっている。市原氏は、2017年頃からAI技術が業務のコストダウン、あるいは営業収益への直接の貢献に繋がる事例が増えてきたようだと分析している。

AIの現状
ディープラーニングを活用したソリューションの実用度も向上中

 Pegara社自身がAIを研究する上で、課題となっていたのが設備だ。近年はITインフラのクラウド化が進んでおり、コストの観点からもGPUは買いたくない。しかしAmazonのクラウドでAIを研究しようにも、今度は見積額が高すぎる。

 さらに追い打ちとなったのが、NVIDIAによる製品利用規約(EULA)の改定だ。同社の「GeForce」シリーズGPUはディープラーニングに好適とされるが、2017年末にEULAを改定。商用目的やデーターセンターでの利用を大幅に制限した。ブロックチェーンの用途は残されたものの、ディープラーニングのためにはより高価格な「Tesla」シリーズを導入するしかなくなってしまった。

NVIDIAのEULAが改訂され、商用利用が大幅に制限された

 ここで初めて、市原氏らはAMD製GPUの検証に着手した。ライブラリーのサポート状況は異なるものの、肝心の価格性能比は十分であったという。加えて、市原氏は「(AMD製GPUは)なにより商用利用できるのが良い。(Teslaのような)1台100万円近いGPUを何個も買う訳にいかないし、その価格負担は何より消費者にいってしまう。そこを補うのがAMDでは」と期待を示した。

 またAMDのディープランニング関連ソフトはオープンソースとなっており、市原氏によれば制約も緩い。「ある日突然、(商用利用を制限するための)規約変更をするのは相当困難なはず」(市原氏)

性能比較
AMD製GPUのライブラリ対応状況

 GPU EATERにはまさにこのコスト感覚が反映されており、Amazonの同等のサービスと比較して5分の1ほどの料金で利用できる。最後に市原氏は「NVIDIAからAMDへの乗り換えは大変じゃないか? と良く聞かれるが、そんなことはない」「ROCmドライバーを使えば、CUDAからのコード変換もできる。それでも心理的な障壁はあるかもしれないが、一度試してみては」とアドバイスした。

他社製GPUとの比較

各社のマイニングリグも展示

 セミナーの会場には、Radeon搭載型のマイニングリグも展示された。写真とともにご紹介しよう。

ASRockのマイニングリグ
内部にはグラフィックカードがズラリ
MSIもマイニングリグを出展
SAPPHIREからは構成の異なるモデル2種

森田 秀一