インタビュー

ブロックチェーンへの正しい理解を一人でも多くの人に届ける

BCCC技術応用部会長の森氏が語る、その活動理念

インタビューに応じたアステリア株式会社・ブロックチェーン事業推進室長の森一弥氏

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)にて、技術応用部会長を務める森一弥氏にお話を伺う機会を得た。氏はアステリア株式会社・ブロックチェーン事業推進室長として各社にブロックチェーン技術コンサルティングを行う傍ら、同社オウンドメディア「in.LIVE」で連載中のブロックチェーン解説マンガの原作も手がけているという、文字通り3足のわらじを履いているなかなかに多忙な人物だ。

 今回、「in.LIVE」で連載中の「マンガでわかるブロックチェーン」が近々1周年を迎え、5月には一区切りとなるシーズン1最終回を控えているということで、弊誌でも同作を掲載する関係でお話を伺った。

 森氏が部会長を務めるBCCC技術応用部会では、ブロックチェーン関連のハンズオンセミナーやアプリコンテンストを実施している。森氏はその運営を主導しながら、自身も講師として登壇することもある。普段はアステリアにて、外部から持ち込まれるブロックチェーン技術に関する相談事への対応、コンサルティング、実証実験の設計やそれに関する開発・研究なども行っているという。BCCCの設立および、ブロックチェーン事業推進室の立ち上げ以前は、アステリアにて主力製品「ASTERIA Warp」のプロダクトマネージャーを務めていた。

 今回はその辺りをすべて含めて、森氏が手がけてきたブロックチェーンに関する取り組みについて、いろいろとお話を伺った。ちなみに技術応用部会長という肩書きだけ見ると、とても堅そうな印象を受けるが、森氏自身は非常に親しみやすい人柄だった。また、インタビューには同社「in.LIVE」編集長の田中氏にもご同席いただき、ブロックチェーン解説マンガの裏話なども伺った。

技術応用部会では実体験としてブロックチェーン技術の学びを提供

——ブロックチェーンに取り組むきっかけは何ですか?

森氏:2015年の後半頃、NEMとmijinに出会ったのがきっかけです。当時はブロックチェーンが話題になり始めた頃で、国内にはブロックチェーン関連の資料や事例がほとんどなく、NEMなら英語のリファレンスが出ていましたが、mijinについては何もないという状況で苦労したことを覚えています。プロトコルの仕様を読み解いて、一つ一つ理解していきました。現在は利用可能なライブラリが増えているので、当時と比べると扱うのは非常に簡単です。

——その後BCCCが発足、技術応用部会長に就任されたわけですね。技術応用部会ではどのような活動を行っていますか?

森氏:主にはブロックチェーンを学ぶためのセミナーを開催しています。参加者は国内でシステムインテグレーター(SIer)としてソリューションを設計しているような人たちが中心になっています。日本のITは大手企業がSIerに発注して成立する形を取っているので、彼らはいわば日本のITを握っている人たちですね。
 セミナーは基本的にハンズオン形式で開催することにしています。ブロックチェーンに限らず、エンジニアリングはやはり手を動かして、実際に触れてみるのが学びの最短経路だと考えているからです。
 また、学習の機会を提供することはもちろん、学習の成果を披露する場としてブロックチェーン上で動くアプリ(DApps)作って、その出来栄えを競うアプリコンテストも開催しています。これまで2回開催したのですが、回を経て参加者は確実にレベルアップしています。
 年内にはアプリコンテストの第3回開催を目指して調整中ですが、レギュレーションの変更などで門戸を広げ、新たなアイデアを募ることも検討しています。既存のルールとして、各チームの代表はBCCC加盟企業の社員である必要はあるのですが、チームメンバーは特に制限していません。しかし、第2回までのチームはすべて、それぞれが企業の中でチームを構成してコンテストに参加していました。第3回からはルールに則って、各チームに大学生や一般参加の人なども加えて大々的に参加者を募りたいと考えています。そうすることで、より新しいアイデアが出てくることを期待しています。

BCCC技術応用部会について説明する森氏。直近のDAppsアプリコンテストの成功と次回開催への展望を語る。

——技術応用部会はブロックチェーン道場的な会なんですね。次回アプリコンテストについても門戸を広げたいということで、仮想通貨 Watchもメディアとして業界を盛り上げるために協力させていただけたらと思います。さて、森さんが手がけられたという企業向けのブロックチェーン技術のコンサルティング、実証実験についてお伺いしたいです。多数あると思いますが、印象的なものはありますか?

森氏:私のところにブロックチェーン関連で相談に来る方は、経営企画部や社長室直属といった部署の方で、上からブロックチェーンで何かするよう命じられたけど、どうすればいいか分からなくて困っているという人が多いです。セミナーや本からブロックチェーンのことを学習されている方がほとんどなのですが、ご存じの通りブロックチェーン技術は日進月歩です。本でできないと書かれていることは今日には可能になっていることもあります。
 そういう方々に対して、先のハンズオンセミナーの話でもそうでしたが、コンサルティングという名目で体験型学習を提案しています。本当の理解に至るには実際にブロックチェーンを触ってみることが重要で、その取り組みの中でアイデアが出てくることもあります。
 この体験型のコンサルティングについて、名前を出していい事例が限られるのですが、中部電力さんとは、体験型のコンサルティングを経て電気自動車(EV)の充電に関する実証実験(関連記事)を行いました。EVの充電履歴をブロックチェーンで管理するというもので、アプリを使って実際に電気自動車を充電するところまで実現しています。

ブロックチェーンをより多くの人に知ってもらう。その意味

——オウンドメディアで連載中のマンガについてもお聞かせください。まずは企画のスタートはいかがでしたか?

森氏:マンガを、絵と文章を組み合わせて情報を効率的に伝えるツールと考えると、ブロックチェーンの仕組みを学ぶコンテンツを作るには最適な形式だと思っています。私自身、マンガが好きということもあります。in.LIVEの編集部から私の方に「ブロックチェーン学習コンテンツ」という相談を持ち込まれた時、マンガでやることを提案して、企画がスタートしました。
 当初の目的は、ブロックチェーンに対する「誤解」を解消することでした。立場上、ブロックチェーン関連の相談を常に受けるのですが、人によってその理解度はまちまちです。ブロックチェーンなら何でもできると考えている人もいれば、訳の分からないものとして敬遠している人もいます。こういった極端な人たちが正しい知識を身につけることは、今後のブロックチェーン技術の普及と発展には必要です。

マンガの原作に手応えとやりがいを感じていると語る森氏。これまで自身が得てきた知見をマンガに乗せて発信しているという。

——なるほど、啓蒙活動の一端ですか。たしかにマンガは短い時間で情報を得るには優れた媒体だと思います。マンガの作り方についても教えてください。

森氏:基本的な話の流れ、登場人物のセリフまでは私が考えています。田中さんのチェックを経て劇の台本のような形にまとめたら、作画担当の佐倉さんと打ち合わせをして、ネームを切ってもらいます。私の方でネームを確認して、修正指示などを行いながら完成に近づけていくという作業を行っています。
 各回のテーマ選びですが、最初はブロックチェーンが既存の技術を組み合わせたものであることを強調しながら、合意形成(コンセンサス)とか暗号化といった特にわかりにくいところを解説していきました。ブロックチェーンの基本部分の解説を終えてからは、主に私が関わった実証実験などを元にした技術の適用例をテーマとして取り上げています。私が直接関わったプロジェクトではありませんが、作画の佐倉さんには、実際に食材の来歴をブロックチェーンで確認できるレストランに足を運んでもらったこともあります。

——このテーマで書くなら取材が大変そうだと思っていた回もあったのですが、実際に森さんが仕込んだ案件だから細部まで描くことができているんですね。では最後になりますが、今後ブロックチェーン技術を取り巻く状況はどう変わっていくと思いますか?

森氏:今ブロックチェーンは、スケーラビリティなど各種の問題を克服した新しいものが生まれてきています。開発に携わる人たちもそういった新しい技術を取り入れて検討を進めています。新技術の誕生と普及という流れの中で、いずれブロックチェーンは現在インターネットがそうなっているように「当たり前」の技術になるでしょう。
 一方で、現在でもお年寄りなどインターネットに適応できていない人もたくさんいます。技術の革新が進むと技術を理解できる人とそうでない人との隔たりはさらに大きくなるでしょう。私たちの使命は、ITに疎い人たちが時代に取り残されないよう、技術の何たるかをより多くの人が理解できるように啓蒙していくことです。
 BCCCの技術部会で開催している体験型の学習セミナー、in.LIVEで連載中の「マンガでわかるブロックチェーン」、いずれも「一人でも多くの人を最新の技術につなげる」という理念に基づいて発信してきました。これからもアステリア、BCCCではブロックチェーンをはじめとした新たな技術を普及させるため、啓蒙活動を継続していきます。

——ブロックチェーン技術をより多くの人に正しく理解してもらうことは、今後の日本という社会をより豊かにするためにも非常に重要なことだと思います。弊社でも今後も情報の発信という形で、ブロックチェーン技術の社会適用に向けて微弱ながら協力していきます。このたびはインタビューへのご協力、ありがとうございました。

インタビューにご協力いただいたアステリア株式会社の森氏(写真右)と田中氏(写真左)

日下 弘樹