イベントレポート
Facebookの仮想通貨リブラで分かっていること、まだよく分かっていないこと
日本ではいつから使える? 法的な扱いは各国で議論の真っ最中
2019年7月16日 08:51
Facebook(フェイスブック)が仮想通貨「Libra(リブラ)」を発表した6月18日から約20日後、FLOCが7月10日に東京・大手町でリブラについて解説するセミナーを開催した。
登壇したのはコンセンサス・ベイス代表取締役の志茂博氏。同氏は「リブラについては、分かっていることとまだ分からないことがある。今日はそれらを整理して、できるだけ事実を中心に、予想とは分けて伝えていければ」と語る。本稿ではセミナーで語られた内容をレポートする。
リブラはフェイスブックの仮想通貨「ではない」
まず「リブラはフェイスブックの仮想通貨」とよく言われるが、これは正確ではない。フェイスブックが主導することは間違いないが、リブラは、リブラ協会というコンソーシアムが運営する。リブラ協会は設立時にVISAやPayPal、eBay、Uberなど28の名だたる企業が参加しており、今後は100団体の参加を目指しているという。
ただし同協会に参加するには約10億円が必要で、自社で2000万人のユーザーを抱えていることなど厳しい条件が課される。志茂氏は「日本からも、少なくとも一社は参加することになるのでは」と予想する。リブラは現在テストネット版として動作しており、2020年前半にメインネット版へ移行することを目指している。
リブラの目的は、世界中の人が金融サービスを受けられるようにすること
リブラの目的は「金融包摂」(Financial Inclusion)だ。これは銀行口座を持たない人でも、金融サービスを利用できるようにする取り組みのことを指す。世界では17億人が銀行口座を持っておらず、そのうち10億人がスマートフォンを使い、5億人がインターネットに接続できる環境にあるとされる。
「貧しい人ほど、金融サービスを受けるためにお金を払わなければならず、手数料も高い。これらの課題を解決するのがリブラのビジョン」と志茂氏は説明する。新興国を含めたより多くの人が、グローバルかつオープンに、低コストで送金などの金融サービスを利用できることを目的にしているわけだ。
リブラでは独自言語「Move」が使われる
技術的な話にも触れておこう。リブラの特徴は、数十億のアカウントに対応するスケーラビリティを保持することと、改ざんや二重支払いへの耐性をもつセキュリティだ。リブラ・ブロックチェーンでは独自の言語「Move」が使われる。Moveは既存の言語であるRustをべースに作られており、コードへのアクセス制御やデータの抽象化において改善が施されているという。また、Ethereum(イーサリアム)でスマートコントラクトを実装する言語のSolidityよりも柔軟に設計が可能で、開発者からの評価も高い。
合意形成のアルゴリズムには「Libra BFT」という仕組みが使われる。これはHotStuffを改良したもので、リーダーのノードがトランザクション単位で情報の伝播、検証、反映を行う。ブロックの生成と承認を行うバリデータ・ノードは、当初はリブラ協会のメンバーが保有するが、将来的には誰でも保有できるようにするという。
法定通貨やビットコインとの違いは? リブラはどんな用途で使われる?
ここでリブラが法定通貨やBitcoin(ビットコイン)がどう違うのかを見ていこう。リブラの目的は個人間送金など「価値の交換」に特化している。「リブラを資産として持っていても基本的に利子はつかず、貯蓄には向かない」と志茂氏は説明する。
リブラが最も得意とするのは国際間の送金だ。志茂氏は「実際どう使われるのかは、あくまで予想になる」と前置きしたうえで、「国際送金や海外の店舗決済で使うのが一番メリットが大きい」と説明する。法定通貨をリブラに変えると少額の手数料が引かれるため、国内の決済に使うにはユーザーのメリットが小さいどころか、手数料分だけ損をする可能性もある。リブラ協会にはVISAやマスターカード、UberやeBayなどがメンバーに含まれているので、まずはその周辺のグローバルなサービスから使われはじめるのではないかと予測されている。
リブラを利用するには? リブラコインの仕組み
リブラは2種類のトークンを発行する。1つはリブラコインだ。これは現在の仮想通貨取引所と同様、認定再販業者からリブラコインを購入する形になる。もう1つはLIT(Libra Investment Token)と呼ばれる、リブラのエコシステムへの投資用トークンだ。通常のリブラコインは配当を受け取れないが、LITは運用益の配当を受け取ることができる。ただしLITを得るにはリブラ協会への参加が必要で、冒頭で触れたとおり約10億円や2000万人のユーザーなど厳しい条件が求められる。
ここでは、前者のリブラコインについてもう少し詳しく見ていこう。リブラコインは「価値が安定していること」が特徴だ。なぜ価値が安定するのか。それは、法定通貨の価値に準拠するステーブルコインとしての特徴を持つからだ。リブラコインを購入するときに支払った資産は、法定通貨や国債など変動リスクが少ない資産に投資され、購入したリブラコインは元の法定通貨に償還(払い戻し)することもできる。ドルやユーロ、円、ポンドなど複数の主要な法定通貨と連動しているので、価値が大幅に上がることも下がることもないわけだ。
リブラはデジタル通貨ウォレットの「Calibra(カリブラ)」で管理する。カリブラはスイスにあるフェイスブックの子会社だ。カリブラはiOSやAndroidから利用可能で、ウォレットを利用するには国が発行しているIDや本人確認書類が必要になる。カリブラでウォレットを開設すれば、銀行口座がなくても決済や送金が可能になるわけだ。
なお、フェイスブックは個人情報管理を徹底するため、カリブラとの間で情報の連携は行わないと宣言している。
日本の法律における位置付けはまだ不透明
リブラが日本においてどういう扱いになるのかは、まだ議論の最中で不透明だ。最大の争点は「リブラは仮想通貨なのか通貨建て資産なのか」という部分にある。リブラは法定通貨と連動してはいるが、リブラコインから円に償還したときに元の価値から変動している可能性があるからだ。
仮想通貨と見なされるのなら、ビットコインなどと同様に仮想通貨交換業者がリブラコインを扱える。一方で通貨建て資産として見なされ、さらに為替取引に該当する場合には、発行体であるリブラ協会が100万円を超える取引であれば銀行業、100万円以下の取引であれば資金移動業のライセンスを持たなければならない。しかし海外の発行体が日本で銀行業のライセンスを取得するのは困難で、現実的ではない。
「個人的な感覚でいうと仮想通貨になる可能性が60%、通貨建て資産が40%」と志茂氏は推測する。
議論が起きているのは日本だけではない。各国の法律でリブラがどう位置付けられるかは議論の最中で、ある国では仮想通貨として扱われ、ある国では銀行業の為替取引として扱われる可能性もある。リブラは2020年前半のメインネット版公開を目指しているが、少なくともすべての国で一斉にスタートするわけではないことは確かだ。
懸念もあるが非常に面白い
志茂氏は最後に「リブラについてよく受ける質問」を示し、会場からの質問ともあわせて回答した。いくつか紹介する。
——日本ではいつから使えるようになる?
志茂氏:まだ法的にどういう扱いになるかも分からない。日本で使えるとしてもすぐではない。リリースから1、2年かかるかもしれない。
——ほかの国の規制状況はどうか?
志茂氏:予想は非常に難しい。動きがあるとしたらアメリカや、カリブラがあるスイスなどが早いかもしれない。日本も仮想通貨の法規制という点では世界でトップを走っているので、早い側になるかもしれない。
——使える国と使えない国の差は?
志茂氏:法定通貨が不安定で、リブラが入ったことで法定通貨の金融政策がきかなくなる可能性がある国は禁止にするかもしれない。
——フェイスブックの目的は何か?
志茂氏:表向きは広告の活性化と言っている。勝手な想像をすると、ゲームプラットフォーム、OculusのVRでリブラが使われる可能性もあると思っている。
——フェイスブックはユーザー27億人の金融データが見られるようになるのか?
志茂氏:国ごとに規制が異なるのと、カリブラで本人確認が必要なためフェイスブックのユーザー全員が使えるわけではない。フェイスブックはカリブラのデータは連携しないと宣言している。
——ビットコインやイーサリアムと競合するか?
志茂氏:用途が異なるので競合しないと思われる。ビットコイン側では、リブラをきっかけに仮想通貨を使い始める人が増えるのではと期待する声もある。
——クレジットカードよりも手数料が有利になるなら、国内の店舗決済で使われる可能性もあるのでは?
志茂氏:リブラ協会のメンバーにVISAとマスターカードが入っているので、既存のクレジットカードに成り代わるものにはならないのでは。
「まだ分からないことが多い」としながらも「リブラは非常に面白い」と志茂氏は期待感をにじませる。
同氏は「ビットコインはユーザーが少なくて、新しいサービスを作ろうにも思うようにはいかなかった。リブラのような大規模な通貨がきたことで、法定通貨、仮想通貨、そして企業通貨が流通する新しい世界が来るのではとワクワクしている。技術的に貢献するのかビジネスを作っていくのかに関わらず、新しい世界をぜひ楽しんでもらえれば」と語り、セミナーを終えた。