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ビットコインマイニングは中国に集中しているのは本当?

マイニングと再生可能エネルギーの関係、国家間の競争について考察する

(Image: Shutterstock.com)

Bitcoin(ビットコイン)を中心に仮想通貨の情報を専門的に扱う会員制オンラインサロンのビットコイン研究所が「ビットコインマイニングと再生可能エネルギー。国家の競争と地理的分散について」という記事内で、BITCOIN MAGAZINEの「Op Ed: Belarus and the Case for National Bitcoin Strategies(ベラルーシと国家ビットコイン戦略事例)」という記事を紹介している。

記事は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が公にビットコインのマイニングを推進していく意向について言及する内容だ。弊誌でも、7月にイラン政府が米国の経済制裁の影響軽減を目的に仮想通貨マイニングを正式に承認した記事を紹介しているが、ビットコイン研究所は、これらをテーマにビットコインマイニングの地理的分散や政府介入のトレンドについて紹介するなど、マイニングに関する非常に興味深い考察を行っているので、今回は、弊誌のマイニングに関する過去記事と合わせて紹介し、ビットコインマイニングの現況を報告していきたい。

マイニングは中国に集中している?

ビットコイン研究所の記事は冒頭で、「ビットコインはマイニングが集権化しており、中国に支配されている」という近頃よく聞く批判について、それは事実なのだろうかという疑問を投げかけている。考察に入る前に、まずは漠然としたマイニングに対するイメージを整理するために、弊誌の過去記事からこれまでのマイニングに関する状況を把握しておきたい。

念のためにマイニングについて説明をしておくが、マイニングとはビットコインの取引台帳の正当性を維持する仕組みであり、計算能力を提供する見返りにビットコインによる報酬が得られるもの。ただし報酬を得るには、他者(マイナー)との計算力勝負になるため、事業として成立させるには、大規模なマイニング工場を構築し、より多くのマイニングマシンを確保する必要がある。

効率のよいマイニング方法として、1人でマイニングをしてもなかなか儲からないという状況から、現在では組織を作って集団でマイニングをするマイニングプールという手法が生まれ、マイニングプールで得た報酬をみんなで分配をするという流れが一般的になっている。マイニングで勝つためには、膨大な計算能力とそれにかかる電気代やスペースも必要になる。また、かかる費用もばかにならず、事業として成り立たせるには報酬額との費用対効果が重要になってくることから、ビットコインの相場価格が無視できない要素になる。

過去記事からの考察

まずは、2018年6月から同年末までの過去記事を見てみよう。

2018年6月5日
GMOがマイニングマシン「GMOマイナー B2」の販売を開始~自社開発の最先端7nmプロセスASICを搭載

2018年7月11日
GMOが仮想通貨マイニング事業の6月月次業績を開示~マイニング報酬は528BTCと62BCHで3.7億円相当

2018年12月25日
GMOインターネットが仮想通貨マイニング事業に係る特別損失355億円を計上する見込み~マイニング事業は継続するもマイニングマシンの開発・製造・販売は中止

2017年年末から2018年年初にかけて相場のピークを迎えたビットコインは、一時期その価格は1BTC200万円を超えた。しかしそこから徐々に下落し相場は100万円台に。2018年6月頃は100万円を割り込むも、それでも80万円台はキープしていた。その中でのGMOのマイニングマシンの発売は話題にもなった。しかし、ビットコインの相場は11月に入ってからは暴落し、40万円台まで落ち込んだのだ。世間のマイニング事業は、一気にピンチを迎えた。過去記事からは、その流れが見てとれる。

2019年1月から3月は、さらに事態は悪化する。

2019年1月7日
マネックス、コインチェック含むグループ会社で仮想通貨マイニング事業を展開していないと発表~仮想通貨の価格変動が同グループの損益に与える影響は軽微であるとのこと

2019年1月9日
GMO、12月マイニング報酬は960BTCで3億8845万円相当~仮想通貨マイニング事業の再構築に伴い月次開示は今月をもって終了

2019年2月13日
「マイニング事業は一時的な失敗。必ず取り戻す」GMO熊谷社長は事業の継続性を強調~GMOインターネット2018年12月期通期決算説明会

2019年2月28日
仮想通貨マイニング「Coinhive」が4月にサービス終了~Moneroが1年間で85%暴落するなど経済的に存続できなくなったため

2019年1月には、1BTC30万円台を記録した時期もあり、ますますマイニング事業は苦しい状況になった。ビットコインの相場の下落から多くの事業がコスト割れし、事業の見直しを余儀なくされることになったのだ。

4月には、こんな研究論文が公開されたのも時の流れをうかがい知ることができる。

2019年4月12日
仮想通貨の価格変動率がマイニング事業参入の判断に影響を与える~BUIDL社が研究論文を公開

ところが皮肉なもので、4月から5月になると再びビットコインの相場は急騰し、突然V字回復。価格は1BTC90万円まで上昇し、6月には100万円台まで戻したのだ。

2019年8月以降のマイニング関連記事には、明るい話題やマイニングについて盛んな様子が見られる報道が多くなった。

2019年8月7日
GMOインターネット、ビットコイン価格急騰で市場回復し仮想通貨事業は好調に推移~マイニングも黒字化。2019年12月期第2四半期決算説明会

2019年8月9日
Blockstream社、クラウドマイニングとマイニングプールを提供開始~ビットコインの分散化促進。水力発電所などから300MW超の電力確保

2019年9月30日
中国カナン社、GPU比5倍以上のイーサリアム用マイニングマシンを発表~サードパーティ製の新型ASICは現行のEthashに対応

2019年10月23日
仮想通貨マイニングのビットメイン、米テキサス州で50MWマイニングファーム建設~将来は同地で世界最大の300MWまで拡大する計画も

2019年10月29日
マイニング世界2位のカナンが米国でIPO。2つの事業リスクも公開~採掘マシンの販売、売上高の99%以上占める

2019年10月31日
SBI、仮想通貨交換業は業績が堅調に推移。暗号資産マイニング事業も黒字を計上~グループ連結業績2020年3月期第2四半期(上半期)決算説明会開催

2019年11月1日
仮想通貨マイニング最大手ビットメイン、米国での上場取りやめ報道も~解任された創業者は訴訟準備中か

奇しくもビットコイン研究所が冒頭に掲げた中国関連の記事が多く見てとれる。

ビットコイン研究所による考察

ビットコイン研究所の記事は、CoinSharesというリサーチ会社が公開したビットコインのマイニングネットワークに関する調査報告書「THE BITCOIN MINING NETWORK~Trends, Average Creation Costs,Electricity Consumption & Sources~」の内容を紹介している。

「THE BITCOIN MINING NETWORK」によると、現在のマイニングのハッシュレートの約半分は中国・四川省で発生していると推測される。その他のマイニングサイトとして、カナダ、アメリカ、北欧などが挙げられているが、推定が正しいとするならば、マイニングハッシュレートの半分以上は確かに中国内にあることになるとビットコイン研究所はいう。

ビットコインのマイニングは、世界中の電力を無駄に大量消費しており、地球の環境に悪いともよくいわれている。しかし、これは主にCO2排出による環境へのダメージについていわれていることだが、ビットコイン研究所はこの指摘は、色々な情報やデータを総合してみてもその主張は的を射ていないと述べている。なぜならば、この「THE BITCOIN MINING NETWORK」が報告するデータを見る限りでは、現在のビットコインのマイニングの約75%は水力発電を中心とした電力が利用されているというのだ。

ハッシュレートの半数が集中する四川省では元々水力発電が盛んであり、またアメリカやカナダなどのその他のサイトも再生可能エネルギーが盛んな地域にマイニング施設が存在している。つまり、ビットコインはおそらく一般に想定されているより「クリーン」ということになるとビットコイン研究所は推測している。

これは偶然ではなく、水力発電など遠隔地で発電したエネルギーは蓄電や送電が難しく、発電量に対しての需要が少ない、という面があるからだという。利用用途が少ない格安の自然エネルギーが、うまくビットコインのマイニングニーズと合致しており、マイニングのクリーン化現象が起きているという。

今まで活用が難しかった自然電力の利用は、ビットコインの価格が急落すると、マイナーの採掘コストと採算が合わなくなり、マイニングが止まり、ネットワークが止まってしまうリスク回避にもなっているとのこと。この推測はユニークだが、理にかなっているのではないだろうか。

ビットコインマイニングと国家の介入

ビットコイン研究所は、ビットコインのマイニングへの国家の介入というトレンドは、冒頭のベラルーシの話題に加え、イラン、ロシアなども国家としてマイニングに積極的な姿勢を見せており、特に寒冷な気候や石油や自然エネルギーに富む国では今後もこういう傾向は増加することが予想できるとした。

ベネズエラでは国としてゴールドと同じ要領でビットコインを国のReserveに追加することを検討する、という報道が一部あったことも報告している。

このように国家が介入することで、マイニングゲームはさらに複雑になり、市場原理のマイナー同士の競争に加えて、国同士の競争、補助金などの利用による促進などがあり得るのではないかとビットコイン研究所は考察している。これは政府がビットコインのシステム維持に少しでも力を持つことにもなるので、リスクや懸念もあるが、政治的アジェンダを持つ国同士の競争で一国にマイニングパワーが集中するような事態は次第に解消されていく可能性があると分析をしている。

これらの考察をまとめると、確かに中国のマイニング一極集中は事実であるようだ。

本記事は、ビットコイン研究所10月3日掲載のコラム「ビットコインマイニングと再生可能エネルギー。国家の競争と地理的分散について」を基に記事を作成した。